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第3話 デートプラン

「あの…今日はどこに行くんですか?」


 私は今日のデートプランは自分が考えるから、と言われて累に今日の行動を一任していたので、少し不安になって尋ねた。


「ああ。それは着いてからのお楽しみ。その方が楽しいかなって思って」


(確かに…ワクワクしながら電車を乗り継いでいくのも楽しそう)

 私はそう思うと、それ以上の質問はせずに累さんに導かれるままに電車に乗った。どうも東京方面へ向かっている。

(渋谷とか原宿あたりにいくのかな?それとも上野の美術館?累さんは多趣味だからどこか全くわからない)

 なんとなく推察していると、真剣な顔で眉間に皺が寄っていたようで、累さんが人差し指で眉間をくるくるとマッサージしてくれる。


「結菜ちゃん行き先考えてた?眉間に皺が寄ってたよ。真剣に考える君も良いけど、俺は穏やかな君の顔を見ていたいな」


 クスリと笑いながら累さんは手を引いて微笑んだ。

 私は累さんが触れた額に手を添える。そこから累さんの暖かさが伝わってくるようで、緊張した心がどんどんほぐれていくのがわかった。


「すみません。累さんとの初めてのデートなので、ちょっと力が入りすぎていましたね。私、楽しみでもあるのですが、それと同じくらい不安で。せっかく考えてくださったデートプランを楽しめなかったらどうしようって、不快な気持ちにさせたらどうしようって…」


 私が率直な意見を言うと累はそっと”触れていい?”と私に確認してから私の頭を撫でながら言った。


「楽しさと不安が半々なのは俺も同じだよ。結菜ちゃんに喜んでもらえなかったらどうしようって緊張している。でも、それ以上に結菜ちゃんと一緒にいられることが嬉しくて、それだけで幸せなんだ。本当はどこかに出かけなくてもいい。近所の公園のベンチに座っておしゃべりするだけでも満足なんだ。だけど、せっかくのデートでそれだと味気ないから、今回色々計画しているんだよ。だからどうか心配しないで。ゆったりと過ごしてほしいな」


 累さんはそういうとそっと頭から手を離した。私はそれが少し寂しくてわずかに残った累さんの手の温もりが消えませんようにと願った。そういえばこうして頭を撫でられたのは子供の時以来だ。その時は大きな父親の優しい手だったが、今回は違う。でも撫でてもらえて安心感が増す事には変わりはなかった。

(ちょっと、子供の頃に戻ったみたいで嬉しいな。また撫でてもらいたい)

 そんな私の気持ちを汲み取ってくれたのか、累さんは私の頭を再度撫でてくれた。さっきよりより優しく。頭頂から首にかけてゆっくりと…。


「あの…頭を…」


「ああ。もっと撫でて欲しそうだったからつい…だめ…だったかな?」


「いいえ!すごく心地よくて、嬉しいです。昔、父にそうやって撫でてもらったのを思い出して…懐かしくて嬉しかったです」


「そっか…父親…か」


 私の言葉にどこか引っかかるものがあったのか、累は苦笑いをして手を引っ込めた。それを残念に思う気持ちが伝わったのか、累はイタズラっぽく笑って見せる。


「ふふ。これからずっと一緒だから、いくらでも頭を撫でてあげるよ、そうだな。そしてそのうち、父親に似てるって言われなくなるくらいまでは…ね?」


「累さん…嬉しいです。でもなんだか私ばかり嬉しいことがあって、累さんには何も返してあげられていないのが気がかりで、私にできることはなにかありませんか?」


「それなら…手を繋いでもいいですか?」


 累はそう言うと私の手をそっと包み込むように握った。


「累さん!」


 私は恥ずかしさのあまり思わず声を上げる。累を見ると、少し頬が紅潮していた。どうやら私の反応に感化されて少し照れてしまったようなのだ。


「なんだろう…手を繋ぐのってこんなに嬉しいことだったんだね。なんだか、恥ずかしい。少年の頃に戻ったみたいだ」


「累さん…私もとっても嬉しいですでも、やっぱり恥ずかしいという気持ちもあって、それを払拭できたらいいのですが、少し時間がかかってしまいそうです」


 率直な意見を述べると累は微笑んでくれた。

 車窓から外の景色を見るといつの間にか地下に潜ったようで真っ暗な中、鏡のように私と累さんが座っているのが写っていた。

(累さん、改めて見ると本当に素敵。体だけでなく顔も…特に瞳がすごく綺麗。ああ。私みたいな地味な人が隣に座っても全然釣り合わない)


 私はそう思うとへこんでしまった。

 その変化に気づいた累は私の元気がないことを心配してくれる。


「どうしたの?もしかして体調良くない?」


 そう言って自然な仕草で手を額に当てて熱をみる。私はその手の大きさにドキリとすると、累は安心した様子で言った。


「熱はないみたいだね。どうしたの?何か不安なことがあるのかな?」


 累さんはそう言うと手をぎゅっと握ってくれる。


「えっと、何だか。私って累さんに釣り合ってないなって思って…累さんはすごく素敵ですけど、私は地味で平凡だから…」


「そっか…それで落ち込んでたんだね。俺はいいと思うよ。結菜ちゃんのこと」


 私は累のその言葉にドキリとする。他の人に言われても心に響かず、”ああ。この人は私を気遣ってそう言ってくれているんだな”と思う程度なのに、累さんの言葉はスウっと体に染み込んで、塞ぎ込み始めていた私の心を上向きにしてくれた。


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