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第2話 出会い

「ついじゃないだろう!危ないやつだったらどうするんだよ」


「大丈夫だよ!samはそんな人じゃないもん」


 私は配信からは目を離さずに良平に抗議した。samが危ない人だなんて、とんでもない言いがかりだった。きっと彼は優しくて紳士でかっこいい人に違いない。だから私が地味子だからがっかりされないか心配していることを良平に伝えると、良平ははあとため息を吐いて言った。


「お前はほんと自分のこと見えてないよな…まあ、昔からそうか。本当に大丈夫なんだよな?昼に食事するだけなんだよな?」


「そうだよバリバリ健全な11時約束です!」


「それなら…でも危ないと思ったらすぐに俺のこと呼べよ」


「そこでなんで良平なの?」


「お前くらいぼけ~っとしたやつを助けられるのが俺くらいだからだよ。わかったか!?」


 良平はぐいっとビールを飲み干すと缶をクシャリと潰すとゴミ箱に放り込み、玄関に向かって歩き始めた。


「え〜もう帰っちゃうの?」


「明日も仕事だろ?お互い。じゃあちゃんとベッドで寝ろよ」


 良平はそう言い残すと部屋から出ていってしまった。


「行っちゃった。まあ、私にはsamの配信があるから寂しくないもん」


 嘘だ。本当は寂しい。両親は私を置いて海外移住してしまったので支払いが終わったこのマンションを私に譲渡して行ってしまったのだ。


「嘘だよ。本当は寂しい…」


 私は良平が去っていった廊下に向かってポツリと呟いた。

 その日の配信は初めてまともに見ることができず、感想のメッセージも送ることが出来なかった。

 いよいよ約束の日になり、私は待ち合わせ場所に向かってドキドキしながら向かっていた。samに会える。それだけが嬉しくて、何度も洋服にシワがないか、髪型はおかしくないか。ショーウィンドウに映る自分をみて確認しながら歩いていた。するとよそみをしていたために、すれ違う男の人にぶつかってしまった。


「すみません。前を見ていなくて…」


 男の人たちは顔を見合わせるとニヤニヤ笑いながら言った。


「大丈夫。それより君可愛いね。よかったらこれから俺たちと遊ばない?ぶつかったお詫びっていうことで…どう?」


「それは…ぶつかったことは申し訳ありませんが約束がありますので…」


「ええ~君にぶつかられてたとこめっちゃ痛いんだけど…それでもごめんなさいだけで済ますつもり?」


(どうしよう…もうすぐsamと約束の時間なのに…絡まれるなんて最悪)

 私がどうここから逃げ出せばいいか考えていた時のことだった。


「お待たせ。ちょっと遅れちゃったかな?」


 長身でスタイルがよく、鼻筋が通って堀の深いかっこいいお兄さんが私の肩を掴んだ。驚いて顔を見上げると、美しい男性が立っており、絡んできた男達を見つめていた。

(まさか…sam?)


「あ~悪い。連れがいたんだね~じゃあ…ここでバイバイして俺たちと一緒に…」 


 男が最後まで言い終わらないうちに私の腕を掴んでいた男が地面に叩きつけられる。私を助けてくれた男の人が彼の脚を払って転ばせたのだ。


「どうする?まだ、やる?」


 彼は圧倒的に強いのがわかったのか、私に絡んでいた男達はあっという間に去って行った。


「初めまして、samです。君がnanaだよね?」


 柔らかく微笑む彼に私は一瞬で目を奪われた。想像以上に素敵な人で、私は自分が見劣りすることが恥ずかしくてたまらなかった。


「あの…助けていただいてありがとうございました。それに、今回食事に誘っていただいて、嬉しかったです」


「それは俺のほうこそ、来てくれて嬉しいよ。正直、来てくれるか不安だったから」


「でもすごいですね。人がたくさんいたのに、私ってよく分かりましたね」


「ああ…それは…まあ、男に絡まれている女の子がいたら助けるのが当たり前だからね。それで…君って気づいたんだ」


 samは微笑むと私の手を優しく握って言った。


「ねえ、本当の名前を教えて。君のことは本当の名前で呼びたいんだ。俺は沢村累さわむらるいよろしくね」


「はい、私の名前は泉川結菜いずみかわゆいなです。よろしくお願いします」


「結菜ちゃん…可愛い名前だね。君の名前が知れて嬉しいよ。俺のことは気軽に累って呼んで、俺もこれからは結菜ちゃんって呼ぶから」


 累はこれからと言った。ということは今回限りではなく、今後もこうして会うことができるということなのだろう。それが私は嬉しくて照れながら答えた。


「はい。累さんって呼ばせていただきますね」


「ふふ。上手に言えました。じゃあ行こうか」


 累はそういうと私の手を握って歩き出した。


「え…累さん…手…まだ会ったばかりなのに…」


 私は赤面して累を見上げると彼は優しく微笑みながら言った。


「人が多いし、逸れないように…ね?」


 確かに休日の街中は人が多くてよそみをすれば逸れてしまいそうだった。

(確かに逸れないようになら、でもいきなり手を繋ぐなんて、ドキドキしちゃう)

 私は胸のドキドキを累に悟られないように気をつけつつ累の後を歩き始めた。


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