四
「不思議ね」
クラスメートの親たちは、幼い二人の手のひらを見る度にそう口にした。来年には小学校に上がる男の子と女の子の左の手のひら、正確には薬指の付け根には、ホクロがあった。それは一つのスイカの種を横半分に切ったような形で、それぞれが右側、左側と分かった。
「二人とも、おばあちゃんがお迎えに来たわよ」
先生の声で振り返ると、白く固い髪を無造作に後ろで一本に束ね、小さな背中をエビのように丸めた老婆が立っていた。
「身寄り、おばあちゃん一人なんでしょ?」
「おばあちゃんって言ったって… 曾おばあちゃんじゃない?あの年で、大変よね」
「でも、二人のあのホクロ…」
「迷信よ」
「そうは思うけど…」
「じゃあ、何処かに『抜け殻』があるってことよ?ここが田舎って言ったって、そんなのがあったら騒ぎになるし、人一人が居なくなるんだから、すぐに分かるわよ」
「でもでも、昨日テレビで行方不明者の特集、やっていたじゃない?」
「見たけれど、ここら辺りの人は居なかったわよ?」
そんな母親たちの会話は聞こえないのか、老婆はただ大人しく帰りの支度をする幼子達を見ていた。
さようなら。と言って、先生や母親たちの前を通っていく三人。
「宝物は、しまっておくの」
すれ違いざま、女の子が小さく呟いた。それは、母親たちの耳に届くには十分だったのか、皆ビクッとした。
■
宝物は、誰にも見せない。『抜け殻』は宝物。
家の一番奥、古い日本家屋には似つかわしくない洋風の部屋で、今日も二人の帰りを静かに待っていた。少し大きなクローゼットを開けると、壁に女が寄りかかっていた。その体は水分を失い、澱んだ皮膚は骨に張り付き、ミイラのように干からびていた。項垂れた頭から生えている色素の薄いボブの髪だけが、今だに鮮やかな色を保っていた。
そんな『抜け殻』の腹からへその緒のような茎が伸び、途中で二股に別れ、大きなスイカの皮につながっていた。闇雲に素手で割ったようなスイカの皮も水分を失い、中の果肉は皮に薄っすらとへばり付いているだけだった。種はない。
「ただいま」
スイカは、自分と男の子のベッドだった。女は…
「奈美ちゃん、おばあちゃんがスイカ切ってくれたよ~。早くおいで~」
遠くから女の子を呼ぶ声に『抜け殻』の手が微かに動いた。
「は~い。今行く~」
返事をしながら、女の子はクローゼットを閉めた。
スイカの種を飲み込むと、臍から芽が出るんだ。それを放おって置くと腹の中で…