目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
第30話 美味しいハンバーガーを求めて(その3)

そんな私の姿を横目に、ハラルドくんは残りの青色の甘い匂いを放つドレッシングと、赤色の辛い匂いを放つドレッシングも山にかけていく。ハンバーガー山の頂上から、黄色、青色、赤色の液体が徐々に混じり合いながら山の麓に流れていく。食べる場所によって、ハンバーガーの味が変化するのは面白い。

 私はひたすら「おいしい、おいしい」を連呼して食べ続けた。そんな私の様子をシュウさんは苦笑いしながら見ていた。


 空中庭園ハンバーガーは、食べる人の好みに応じて自分で味を変えていくハンバーガー料理だ。そして、黄色の酸っぱい味のドレッシング、青色の甘い味のドレッシング、赤色の辛い味のドレッシングをかけたハンバーガー山の肌は美しい色合いになる。視覚的にも楽しめる料理だ。この空中庭園ハンバーガーは一種の芸術作品だと思う。


私は異世界で空中庭園ハンバーガーという珍しい料理に出会うことができた。私は、ハラルドくんとシュウさんに心からお礼の言葉を述べた。ついでに、ハラルドくんとシュウさんの連絡先も入手した。もしかしたら、また異世界でお世話になるかもしれない。


 私は、ハラルドくんとシュウさんと別れて、もう少しハンバーガー料理の探索を続けることにした。

 しかし、なかなか良さそうなお店が見つからない。

 少し心が折れそうになった私は、自分自身の志を振り返ることにした。私が探した食材が、誰かが美味しい料理と出会うきっかけになると思うと嬉しく感じる。料理人さんにお話を聞くと、皆さん色々な想いがあって、いつも勉強になっている。ある料理人さんはお客さんの笑顔のために、またある料理人さんは自己研鑽のためになど。料理の一皿一皿に、多くの想いが込められていて、お話を聞かせて頂いている私の方が温かい気持ちになってくる。また、料理される食材達も晴れ舞台に向けて、丹精込めて育てられている。肉や魚や野菜達。全ての食材に感謝の気持ちが沸いてきた。


よし、まだまだハンバーガーの食材を探してみるぞ。

街の人から情報を仕入れた私は、新しいハンバーガーを求めて、とあるお店に行った。

街から少し離れた隠れ家風のお店で、洞穴の中にある。知る人ぞ知る秘境のお店だ。

どんな料理に出会えるか、わくわくしている。

「こんにちは」

私は元気な声で店主らしき人物に訪問を告げた。

「おっ!いらっしゃい。よく来たね」

初老の店主が物腰柔らかく応対してくれた。

「ハンバーガーが有名と聞いたのですが、お願いしていいですか?」

私は事前の調査で入手した情報をもとに素早く注文を済ませた。

「了解!今日はおもしろい食材が入手できたから、それを出してあげるね」

初老の店主は慣れた手つきで料理を始めた。どんな料理が出てくるのか期待に胸を膨らませて、わくわくした気持ちを必死に抑えていた。

「おまたせ」

初老の店主がテーブルまで二つのハンバーガーを運んできてくれた。

「こちらがドラゴンハンバーガーで、こちらが昆虫ハンバーガーです」

目の前には、盛り付けが美しい昆虫ハンバーガーと、盛り付けが汚いドラゴンハンバーガーが置かれた。

「好きなハンバーガーを食べてね」

初老の店主は優しい声で、究極の二択を迫ってきた。

私はテーブルに置かれた昆虫ハンバーガーとドラゴンハンバーガーを、じっくりと眺めた。

昆虫ハンバーガーの盛り付けは美しい。虫の躍動感がよく表現されている。だが、決して食欲をそそるわけではない。てか、昆虫の脚が見えてますけど。さすが異世界。

一方、ドラゴンハンバーガーの盛り付けは汚い。というか、赤い。具材がお皿からはみ出している。あと、肉とか中途半端にしか切れていない。それに少しだけ腐敗臭がする。こちらも食欲をそそる感じではない。そして、匂いがすでに辛い。

私は困惑しながら二つのハンバーガーを見比べた。店主は何故か私の目の前に立ったままだ、、、、。

私の第六感が「昆虫ハンバーガーは危険」と告げている。よし、覚悟を決めてドラゴンハンバーガーを食べよう。私の第六感は「ドラゴンハンバーガーの方が安全」と囁いている。

「いただきます」

私は、ドラゴンハンバーガーを口に運んだ。


「辛いっ!なんだこれは!激辛だ!」

思わず感想を口にした。口から火が出そうになる。

「見事な食べっぷりだね」

初老の店主が笑顔で言った。

「ドラゴンハンバーガーは炎竜に着想を得たんだ!どうだ、すごいだろ」

店主は笑いながら言った。

「二択しかない状況下で、このドラゴンハンバーガーを食べると、なんだか一層美味しく感じますね」

私はひきつった顔で答えた。

このあと、大量の水をがぶ飲みした。


次の日、私はお腹を壊して、一日中トイレに籠ることになった。

私にとって、ドラゴンハンバーガーはまだまだレベルが高かったようだ。

ドラゴンハンバーガーによる体調不良から復帰した私は新しい料理を求めて、口コミで人気のキノコハンバーガー屋さんに来てみた。

噂によると、お客さんが全員笑顔になるというお店だそうだ。

どんな料理が出てくるのか楽しみである。


「こんにちは」

「こちらのお店に、お客さんが全員笑顔になるハンバーガー料理があると聞いたのですが、本当ですか?」

私は店長らしき中年男性に話しかけた。

「お嬢ちゃん、よく知っているね!それは、うちの店のお勧めのキノコハンバーガーのことだね」

店長は得意気に言った。

「噂は本当だったのですね! ぜひ、注文したいです」

私は弾んだ声で料理の注文を済ませた。

「了解!今から作るから少し待ってね」

慣れた手つきでキノコハンバーガーを作りだす店長。

待つこと十分。食欲をそそる匂いと共に、キノコハンバーガーが運ばれてきた。

「熱いから、気をつけてね」

そう言って、店長は私の前にキノコハンバーガーを置いてくれた。

見た目がシンプルなキノコハンバーガーだった。微かにバター醤油の香りがする。

「盛り付け方はシンプルですが、この香りがいいですね」

私は素直な感想を述べた。

「小細工なしで、料理を楽しんで欲しいから、あえてシンプルな盛り付けにしているんだよ。香りを楽しみながら食べてね」

店長はそう言って、食べるように促した。

キノコハンバーガーをフォークに刺して、口に運ぶ。そして、嚙んでみる。口の中にバター醤油の甘辛い味が広がった。

「おいしいですね」

私はこの味が気に入った。次々とキノコハンバーガーを食べていく。バター醤油の甘辛い味に自然と笑顔になる。

「なんだか、楽しくなってきました」

私は不思議と笑顔になってきた。このバター醤油の甘辛い味の影響かな、と思いつつどんどん食べた。そして完食。自分の顔が笑顔になっている。そうか、私は満足したのか。


食べ終わって十五分も時間が経過したけど、まだ笑顔である。

私は笑顔のまま冷静になって、気がついた。

「もしかして、これってワライタケですか?」

店主に尋ねてみた。店主は目を逸らした。

私は、毒キノコの一種である笑茸を食べてしまったのだと確信した。

「しばらくすると、笑顔の効果が無くなるから大丈夫だよ」

店主は開き直って、明るい声で言った。

「あははっ、そうですか、、、、」

私が、このキノコハンバーガーの秘密を知った瞬間であった。


異世界にあるハンバーガー屋さんは、なかなか個性的である。挫けないで、まだまだハンバーガーの食材探索を続けていく。もっとインパクトのあるハンバーガーを探し求めていくぞ。

 でも、体調を崩さない料理がいいな。できれば見た目も綺麗な料理がいいな。


あっ!先生にはドラゴンハンバーガーとキノコハンバーガーを冷凍して送っておこうっと。

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?