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第26話 エリサ=フロテナーザの恋話(その2)

私はフロテナーザ財団の一人娘で、名前はエリサ=フロテナーザだ。

結構、モテるのが悩みの種である。

きっと、幼いころに恋愛のパワースポットに出向いて、一生懸命にお祈りしたからに違いない。


「これよかったら、貰ってくれない?」

隣の高校の男子生徒から赤い紙袋を渡された。

「いいの?」

私は聞き返してみた。

「うん、いいよ、いいよ」

「ありがとう」と、私はお礼を言って、頂いた紙袋の中身を取り出した。

「わぁ、前から欲しいと思っていた香水だ!うれしい」

私の喜びの様子が想定通りだったようで、その男性高校生は満足げに頷いている。


「これよかったら、食べてくれる?」

八百屋のおじさんから白い紙袋を渡された。

「いいんですか?」

私は聞き返してみた。

「いいよ、いいよ、ぜひ食べて欲しいから」

「ありがとう」と、私はお礼を言って、頂いた紙袋の中身を取り出した。

「わぁ、私の好物の苺だ!うれしい」

私の喜びの様子が想定通りだったようで、その八百屋のおじさんは得意げな顔をしている。


「これよかったら、使ってくれない?」

親戚のおじさんから黄色い紙袋を渡された。

「いいんですか?」

私は聞き返してみた。

「いいよ、いいよ、ぜひ使って欲しいから」

「ありがとう」と、私はお礼を言って、頂いた紙袋の中身を取り出した。

「わぁ、私の洋服に似合いそうな真珠のネックレスだ!うれしい」

私の喜びの様子が想定通りだったようで、親戚のおじさんはご満悦だ。


「はい、これプレゼント」

保育園に通う甥っ子から青い紙袋を渡された。

「いいの?」

私は聞き返してみた。

「うん、いいよ。あげるよ」

「ありがとう」と、私はお礼を言って、頂いた紙袋の中身を取り出した。

紙袋の中から可愛らしい文字で書かれた手紙が出てきた。

「ぼくのおよめさんになってください」

私は思わず微笑んだ。

まだまだ私のモテ期は続くようだ。


また、突然告白されて困ることもある。

ある時、いつも通学時にすれ違う男子高校生に告白されたことがあった。

「俺で、どうかな?」

突然の交際の申し出に私は驚いた。彼の存在は知っていたけど、今まで意識して生きてきたことはない。

私の視線は泳ぐ泳ぐ。

改めて彼を見てみる。

髪の毛や肌は適度に手入れされていて清潔感がある。

身長も私よりは高い。

服のセンスも悪くない。


「う~ん」

唸る私。彼は私の目を真っ直ぐ射抜くように見つめてきてくれる。

でも、どうにも顔が好みではない。何というかトキメカナイ。そう、ときめかない。心が全くときめかない。自分でも驚くくらいに。

「そうね、、、」

私はどうしたものかと悩む悩む。

このままキープの意味で交際をしてみても良いかもしれない、という悪魔の囁きが聞こえてくる。

ダメダメ!恋はいつでも全力でなくちゃダメだよ!ときめかない恋なんて不純だ、という天使の助言が聞こえてくる。

「う~ん」

また、唸る私。いっそのこと、私が悪女ならどうするだろうか。彼の心を弄ぶのだろうか。

「俺じゃ、だめかな?」

彼は少し不安げな様子を混ぜながら、再度尋ねてくれる。


「う~ん」

さらに、唸る私。「私は悪女、私は悪女、私は悪女」と、心の中でとりあえず念じてみる。

まったく心がときめかないが、ここは悪女になりきってOKの返事をしようか、という考えが頭をよぎる。

「そうね、、、」

また、私は同じセリフを呟いて、考え込む。

そして、決心した。

にっこりと微笑みながら、彼の目を見つめて、ゆっくりと口を開いた。彼の目が微かな希望の光で揺らいでいるのを確かめながら。

「ごめん、無理。だって、心がときめないから」

私は悪女にはなりきれない。自分の心に偽って、彼と交際することはできない。

彼の目は、さきほどの希望の光は消失して、絶望の闇が覆っていた。

そして、彼は弱々しく呟いた。

「この悪女め、、、、」

どうやら私は悪女になってしまったらしい。


そんな私でも意外なことにハヤテとは馬が合った。

同じアニメ好きだし、なんだか心の警戒心を下げてくれる。

そんなハヤテとカフェに行った時だった。


コーヒーの香りが店内に充満している。お店にはハヤテと私の二人だけだった。

「一目惚れです」

そのハヤテは力強い目で私を見つめてくれる。その堂々とした雰囲気に、私は圧倒されてしまった。

「一目惚れ、、、ですか?」

私は言葉の意味を噛みしめるために自分でもその言葉を繰り返してみた。

「はい、一目惚れです」

ハヤテの返事は清々しい。ここまではっきりと言ってくれる人は珍しいかもしれない。

「そうですか、、、、」

私は次に自分が何を言うべきか考え込んでしまった。一目惚れというのは、相手と自分との恋愛における温度差がある。気持ちの盛り上がりのタイミングがなかなか一致しないところが難しい。私は考えても仕方ないと思い直し、尋ねてみることにした。

「具体的に、私のどこが気に入りましたか?」

この返答次第で状況が大きく変わると、私は考えていた。

もし「顔が好み」という回答だったらどうしようか。確かに悪い気はしない。でも、それはただのナンパではないか。いや、既にこの状況はナンパだ。

例えば「雰囲気が素敵」という回答だったらどうしようか。それも悪い気はしないが、抽象的すぎる。なんというか、押しが弱い感じがする。

混乱しつつある私を知ってか知らずか、ハヤテは口を開いた。


「靴下です」

一瞬、何を言っているのか、わからなかった。確かにハヤテは「靴下」と言った気がする。いや、「靴下」と言った。

サラサラの髪の毛でもなく、大きな瞳でもなく、手入れした爪でもなく、「靴下」と言った。

「靴下、、、、ですか?」

私は念のために尋ねてみた。

「はい、靴下です」

ハヤテの目に迷いはない。そして、ハヤテは柔らかい口調で続けた。

「その猫のデザインの靴下は素敵だと思います。そして、その靴下を選ぶ貴方のセンスに魅力を感じます」

確かに、今日は猫の絵柄が描かれた靴下だ。そして、その猫はちょっとおどけた雰囲気を醸し出している。

「猫、好きなんですか?」

私は思わず笑いながらが聞き返してしまった。

「はい、大好きです」

ハヤテは猫好きか。なんだか一気に好感度が増してしまった。そして、やや身構えていた私の心のガードを下げてしまった。


この不思議な出会いをもう少し楽しもうと私は思うようになった。

もしかしたら、このハヤテの高度な戦術なのかもしれないけれど。

「私もこの靴下はお気に入りなの。良かったら、もう少し話をしない?」

気づけば、私から会話を促していた。

「ありがとうございます。これからもよろしくお願いします」

ハヤテは満面の笑みで答えてくれた。

ハヤテの、少し気の早い返答に驚きつつも、この状況を楽しもうと思い始めていた。


「はい、これプレゼント」

ハヤテから金色の紙袋を渡された。

「いいの?」

私は聞き返してみた。

「うん、いいよ。あげるよ」

「ありがとう」と、私はお礼を言って、頂いた紙袋の中身を取り出した。

紙袋の中から整った文字で書かれた手紙が出てきた。

「異世界ものアニメ詰め合わせセット」

私は思わず微笑んだ。

ハヤテも微笑んだ。ハヤテはプレゼントをしげしげと眺めて言った。

「感想聞かせてね」

まだまだ私のモテ期は続くようだ。

さて、帰ったら早速観てみようかな、このアニメを。

「ちなみに、ハヤテは観たんだよね?」

私は聞き返してみた。

「俺は保存版と普段観る用の二種類持っているぞ」

ハヤテは自信満々に答えてくれた。

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