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第25話 エリサ=フロテナーザの恋話(その1)

マンション管理人の僕は、住民の恋バナに付き合うのも、ある種の義務である。今日は、エリサ=フロテナーザの恋話に付き合いました。

************************************************

雪が降り始めた12月のある日、総理大臣が記者会見でこんなことを言い出した。

「晩婚化の原因の一つに、社会の階層化が挙げられる。我々の日常的に接する人達は限定されている。果たして、これでいいのだろうか」

神妙な面持ちで総理大臣は声を張り上げた。

「だから私は新たな法律を作った。ランダムで決められた男女がクリスマスの日に強制的にプレゼント交換しなければならないという法律を!」


そんな法律ができてしまって、最初のクリスマスが訪れようとしている。

お嬢様学校に通う私のもとに届いた相手の男性は、、、、県内一と呼び声が高い不良高校に通う男子生徒だった。

どうやら高校生は高校生の相手から選ばれるらしい。


次の日、学校に行くと、友人達は相手が誰になったかの話題で盛り上がっていた。

有名進学校、スポーツ強豪校、セレブの多い高校などなど友人達の黄色い声が漏れてくる。

「ねぇねぇ、エリサはどんな人が相手なの?」

友人が私に声を掛けてきた。

私の名前はエリサ=フロテナーザで、お嬢様学校に通う女子高生だ。フロテナーザ財団の一人娘で、いわゆる箱入り娘だ。

友人達に私のプレゼント交換の相手が不良高校の男子だと言うと、みんな揃いも揃って微妙な表情になる。

「えっと、、、、、」

と、困惑している様子を示す友人はまだマシな方だ。

「絶対、バットに釘がいっぱい刺さっている物が贈られるよ」

「いやいやいや、バイクでしょ、バイク!なんか音の凄いうるさいやつ」

「不良と言えば、メリケンサックでしょ。トゲトゲとしていて喧嘩とかで使うやつでしょ」

「刀じゃな!?きっと護身用とかで持ち歩いてるんだよ」

口の悪い友人達は、妄想を膨らませて勝手に盛り上がっている。

他人の気持ちも知らないで、、、、。まぁ、実際、他人だしね、、、、。


そんな気持ちが重くなる日々が続いて、ついにクリスマスの日。

私は指定された場所に向かった。

ちなみに、このプレゼント交換の儀式をサボると、強制的に留年になるらしい。とんでもない法律を作ってくれたものだ。

私が成人になったら、絶対にこの総理大臣を支持している政党には票を入れないぞ。

そんな、怒りと諦めが混じった感情で私は沸々していた。


ブルルルッ!


爆音が響き渡り、改造バイクが近づいてくる。

色々な光で点滅しているバイク。クリスマスのイルミネーションだろうか。

未知の世界の到来に私はすっかり気負ってしまった。

バイクから降りてきた金髪で長身の青年はぶっきらぼうに言った。

「あんたが、俺とのプレゼント交換の相手?」

私は怖くて目を合わすことができない。とりあえず、こくりっと頷く。

「はい、これ。プレゼント」

彼は紙袋を私の前に差し出した。

「あっ、、、ありがとう」

私の声は掠れ掠れだ。私も勇気を振り絞って、持参したプレゼントを相手の前に差し出す。

私が選んだのはハンカチ。

果たして不良がハンカチなんか使うのだろうか。そんな疑問もあったけど、他に何も思い浮かばなかったので、ハンカチにした。

「俺、何を選んでいいのかわからなくて、、、、。色々と探したんだけど、、、、」

彼の声が聞こえる。もう一度ありがとうを言おうと思って、顔を上げると、既に彼はバイクに乗っていた。

「じゃあ」

彼は素っ気なく言って、バイクと共に走り去ってしまった。

私は自分の早い鼓動を感じながら、彼からもらった紙袋の中を、恐る恐る覗いてみた。


紙袋の中から、可愛い猫の縫いぐるみが表れた。

猫のあどけない表情に癒される。

彼が、この縫いぐるみを選んでいる様子を思い浮かべると、思わず笑みがこぼれる。

紙袋から猫の縫いぐるみを取り出してみると、首輪のところに手紙らしきものが挟まっていることに気がついた。

手紙を開いてみると、彼の連絡先と、そして短くこう書かれていた。

「良ければ、友達になって下さい」

冬の冷たい風を頬で感じながら、未知の世界の到来を感じた。

「この不良めっ!」

手紙に向かって、私は呟いていた。

ちなみに彼の名前はハヤテ=サンモンジのことであった。意外と字は綺麗である。


そんな私と彼が出会たクリスマスの日からもうずいぶんと月日が経っていた。

私達はあれから連絡を取り合い、親交を深めていった。

ある日デートをすることになった。


レストランの入り口のディスプレイの前で、どの料理にしようかと悩む私。

飽きれた口調で彼が言う。

「何を食べてもだいたい同じでしょ?胃の中に入れば全部消化されるし」

私は少しムッとして言い返す。

「料理に対するリスペクトが足りないよ。食事を大切にすることが私のモットーだから」

「わかった、わかった。ごめんよ」

彼は平謝りする。そんな彼を横目で見ながら、私は口を開く。

「まぁ、でも、このお店にしましょう」

そして、私達はお店の中に進んだ。

注文を終えて、料理が運ばれてきた。


私が頼んだのは好物のトンカツ。

彼が頼んだのは好物かもしれないエビ天丼。

「わぁー、サックサクッ!」

私はトンカツを口の中で味わう。至福の時間だ。

彼の様子を伺うと、彼はエビの天ぷらを口に入れるところだった。

「あれっ?そのエビの天ぷらおかしくない?」

私は思わず疑問を口にした。

どうみてもゴボウだ。エビの尾すらない。

「本当だ、ゴボウだ」

彼は少し驚いた様子で、ゴボウをじっくりと見て言った。

「まぁ、エビの二アリーイコールはゴボウかな。まぁ、いいや」

なんてポジティブなんだ。

良く言えば”寛大”だけど、悪く言えば”適当”だ。

そんなことを考えながら、彼をまじまじと観察した。

彼は「美味しい、美味しい」と言って、平然と食べている。

まぁ、料理に対するこだわりがあまりないと、私が料理を作る時は楽だな、そう思うことにした。

彼のことを色々と知っていくと、初めの不良という印象からは想像できないくらい繊細な人であることがわかった。人は見た目によらないんだな。


また、色んな他愛もない会話にも付き合ってくれる。

「ねぇ、ハヤテってテレビとか何を観るの?」

私は何気なく聞いてみた。きっと、カッコいい不良ドラマとか任侠ものの映画とか観るんだろうなと勝手に想像していた。

ハヤテはボソッと一言呟いた。

「えっ、、、、アニメ」

意外な回答に私は驚いてしまった。

「アニメ観るんだ!?」

「悪いかよ?」

ギロリと私を睨むハヤテ。その眼光の鋭さは野生の力が宿っているようだ。

「それより、エリサの方は、何を観るんだよ?」

逆に私が質問されてしまった。

「私もじつは、、、アニメかな」

そう、私もアニメが好きなのだ。

「へぇ、エリサはアニメも観るのか意外だな」

ハヤテは素直な反応をしてくれる。そう、私はフロテナーザ財団の一人娘だけど、アニメは好きである。乗馬とか、生け花とか、茶道とか、日本舞踊なども一通り習得したけれど、やはりアニメは楽しい。

「で、どんなアニメが好きなの?」

私達は声を揃えてお互いに尋ねた。そして、笑う。意外と波長が合うのかもしれない。

「じゃあ、ハヤテから聞かせて、好きなジャンルを」

私は先に質問する側になった。

「え~、エリサが先に言えよ」

ハヤテは渋っている。

「レディーを丁重に扱いなさい」

そんなハヤテを私は軽く受け流す。

ハヤテは納得していない顔をしているが、抵抗する気もないようだ。

そして、ハヤテは口を開く。

「異世界転生ものかな」

「えっ、私も異世界転生もののアニメ好きだよ」

これまた意外だった。

私達はけっこう話が合うようだ。

ハヤテの意外な一面を知ることができて、私は満面の笑みとなった。

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