「なるほど、ただのスライムってわけじゃないんですね」
「そうじゃ、ダニエルよ」
「その魔物の名前は何でしょうか?」
俺はごくりと唾を飲み込んだ。
「地上で水魔法を操る魔物は、魔獣アメバリアスと呼ばれている」
「魔獣アメバリアス、、、、」
「うむ、奴らはスライムのような外見をしておるが、色が通常のスライムとは違うのじゃ」
「スライムとは色が違うんですか?どんな色の魔獣なんですね?」
「奴らは、水色に光り輝いておる。決して、侮っていはいけない。アメバリアスは知能が高く、人の言葉を喋れるのじゃ」
「えっ、人間と意思疎通が可能なんですか?!」
まさか、我々と同じ言語を話せるなんて思いもしなかった。
高等魔族の中には、人語を理解できる者もいるとは聞くが、アメバリアスもその一種のようだ。
「魔獣アメバリアスは、どうやって地上で水魔法を操るんですか?」
俺は疑問を口にしていた。恐怖よりも好奇心が勝っている。どんな魔物なのか、俺の中で高揚感を感じる。
「魔獣アメバリアスは、体内に魔道石を保有しておるのじゃ」
「希少な魔道石を保有しているんですね!」
「うむ、希少な魔道石を持っておる。そいつを倒したことがある魔術師は、王国内でも数名しかおらんぞ」
魔道石を体内に保有している魔獣はとても希少価値がある。そのため、王国内では血眼になって探している者も多いと聞く。さぞや、高値なんだろうな。
「魔獣アメバリアスと遭遇した場合、どうしたら良いでしょうか?」
俺は対抗策がないか、師匠に尋ねた。
師匠は一呼吸おいて、話しだした。
「決して、魔獣アメバリアスの水魔法の水に触れてはいけない」
「えっ、水に触れてはいけないんですね!?」
「そうじゃ、奴らの水は溶解液じゃ。人間なんて簡単に溶けて、跡形も無くなってしまうのじゃ」
「それは恐ろしい。わかりました、師匠。水には触れないように気を付けます。でも、その場合、どうやって戦えば良いのですか?」
俺はついつい博士な師匠に頼ってしまう。せっかく師匠のもとで魔道具学を学んでいるのだ、吸収できる知識が吸収したい。まだまだ俺は弟子気分だ。
「強力な炎魔法を使えばいいのじゃ」
「えっ、強力な炎魔法ですか?俺は炎魔法を使えないので、戦えないのではないですか?」
俺は苦戦する姿を想像して、当然の疑問を師匠にぶつけた。
師匠の口元がニヤリと笑ったのを俺は見逃さなかった。
「だから、冒険者ギルドでは、炎魔法の相棒を探すのじゃ」
「なるほど、炎の魔導師ですね!」
「そうじゃ、炎の魔導師じゃ。炎魔法の技の範囲は広く、五感と炎を同調させる技だってあるぞ。まぁ、奥義らしいがな」
「そんな奥義があったんですね?」
俺は炎魔法に奥義があるなんて知らなかった。
「うむ、炎魔法の奥義は限られた者しか操れないのじゃ。魔導師の日々の研鑽で体得するしかないのじゃ」
どうやら教科書的な勉強では習得できない代物らしい。
なんて厄介な奥義なんだ、、、。まぁ、それがあれば魔獣アメバリアスにも対抗できそうだ。
「どうやったら体得できるか、もう少しヒントはないですか?」
俺は早く答えを知りたくて、師匠を急かし始めた。きっと、師匠なら知っているに違いない。
「極限状態に術者自信を追い込むことじゃ。そうすれば、炎魔法の方が歩み寄ってくれるらしいぞ」
「なるほど、炎魔法の方が術者を助けてくれるのですね」
炎魔法の歴史は古い。今まで数多くの人間達が炎魔法の研究を繰り返し、技術に磨きをかけてきた。きっと、すぐには体得できる技ではなだろうけど、知識として知っておくにこしたことはない。
「色々と知識を与えてくださりありがとうございます、師匠!」
俺は素直に師匠に感謝の言葉を述べた。
「ダニエルよ、わしは魔道具ゴーレムに期待しておることがある。それは、魔道具ゴーレムと炎魔法の融合だ」
「えっ、魔道具ゴーレムと炎魔法の融合ですか?」
魔道具ゴーレムを魔法で操るだけではなくて、さらに魔法と融合を考えているなんて。師匠の展望の広さには脱帽してしまう。
さらに師匠はゴフォンと言って、話を続ける。
「魔道具ゴーレムによる物理攻撃に加えて、炎魔法での攻撃も可能となるだろう。近距離と遠距離の両方を満たせる攻守のバランスに優れた組み合わせだ」
「なるほど師匠!物理攻撃と魔法攻撃の組み合わせですね」
どうやら魔道具ゴーレムは究極の戦略兵器にもなり得る可能性が出てきた。
「ダニエルよ。魔道具ゴーレムの発展の可能性として、炎魔法を信じるのじゃぞ」
師匠は俺の目を見つめて、力強く励ましてくれた。
「はい、懸命に取り組んでみます、いつか師匠が思い描いた魔道具ゴーレムに到達してみます」
「うむ、その心意気じゃ、わははっ、さすがワシの弟子じゃ」
俺は照れくさくなってきた。
「くれぐれも魔獣アメバリアスには気を付けるように」
真面目な顔に戻った師匠は俺に念押ししてくる。
「わかりました、師匠。魔獣アメバリアスにはくれぐれも気を付けます。そのためにも良い炎魔導師を探し出します」
俺は、これ以上、師匠を心配させまいと思い、優しく返答した。
「名残惜しいが、そろそろ出発の支度をします。明日は冒険者ギルドに行くので」
俺は時計に目をやった。今から準備を整えて、ここを出発すれば明日の夕方には冒険者ギルドに到着するだろう。
「冒険者ギルドに到着したら、魔道具ゴーレムの研究をしていることをアピールするがよい。ワシが紹介状を書いておくぞ。きっと、興味をもった炎の魔導師に出会えるはずじゃ」
師匠は段取りを俺に伝えてくれた。
冒険者ギルドの受付に魔道具ゴーレムに関する師匠の紹介状を渡せば、俺は晴れて魔道具ゴーレムの援助者も兼ねた炎の魔導師を探すことができる。
「師匠、大変お世話になりました。ダニエル=ウィスカーツは、師匠のもとで魔道学を学ぶことができて、とても幸せでした。どうか、お体を大切になさってください」
「ありがとう、ダニエル。立派な魔道学者になるんじゃぞ」
師匠の目にはうっすらと涙が浮かんでいた。
俺は感慨深い気持ちになりながら、冒険者ギルドへの出発に準備を進めた。
ダニエル=ウィスカーツの魔道具ゴーレムを生み出す物語が始まろうとしている。
俺は一体、これからどんな出会いをしていくのか。
期待に胸を膨らませて、冒険者ギルドへ向かって、師匠のもとを後にした。
冒険者ギルドに着いた俺は扉を開けて中に入っていった。
そして、受付を済ませて尋ねた。
「あの、スキルの高い炎魔導師はいませんか?」
「そうね、、、」
受付の女性は困った顔をして首を傾げた。
「炎魔導師は需要が高いため、人材不足なの」
「そうですか、、、」
俺は溜息交じりで返答した。これからどうしようか。いきなり想定外だぞ。
その時であった。
一人の女性がゆっくりと立ち上がり近づいてきた。
「ダニエル、久しぶり」
その声には聞き覚えがあった。
俺はその女性をまじまじと見つめて、嬉しさのあまり口元が緩んでしまった。
「アルワティーヌじゃないか!?どうしたの」
そう、そこに居たのはダニエルの旧友であるアルワティーヌだった。
アルワティーヌは、にっこりと微笑んだ。
「私はダニエルと一緒に過ごしたいの。だから、炎の魔導師の試験にさっさと合格してきちゃった。これからはあなたの傍でサポートするね」
「ありがとう、アルワティーヌ!一緒に魔獣の墓地まで魔道石を探しに行ってくれるかい?」
「もちろんよ、ダニエル。これからは一緒に冒険していこう!」