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第20話 アルワティーヌ(その2)

結局、アルワティーヌと俺は気まずい別れをしてしまった。

俺は魔道具学の勉強をするために、辺境の土地に来ていた。

魔道具学を修めるために専門家に弟子入りする必要がある。

俺も慣例に従い、一人の魔道具学者に弟子入りしていた。


魔道具実験棟の実験室で、俺は師匠と向き合っていた。

「ダニエルよ、お前は魔道具に何を見出す?」

師匠は俺に魔道具のイロハを教えてくれていた。そして、今は魔道具についに語らい合っている。

「俺は魔道具に希望を感じています。師匠は魔道具に希望を感じないんですか?」

俺は師匠に念のために尋ねる。

「うむ、そなたの言う通りじゃ。じつに立派な回答である。そう、魔道具は希望だ」

「ありがとうございます、師匠」

俺はようやく師匠から炎系統の魔道具の製作法を伝授される段階になっていた。

俺はダニエル=ウィスカーツで、年齢は二十歳、魔道具ゴーレムの製作を目指している。

魔道具ゴーレムは人型で、魔法により操ることができる搭乗型の魔道具である。

もちろん、意のままに操るためには魔法の体得が必要不可欠であるけれども。

もし、魔道具ゴーレムが完成すれば、魔導師が生身をさらして戦闘する必要がなくなる。結果的に、魔導師の戦闘での死亡率を下げることができる。

今は魔道具ゴーレムの基礎的な動作原理を詰めいている段階だ。


「そなたが、ワシのところで学んで何年になるかの?」

「ちょうど一年になります」

この一年間、俺は必死に魔法の習得に励んでいた。

アルワティーヌへの想いを断ち切るために懸命に勉学に励んだ。

長かった月日が思い起こされる。

「そなたは、やはり魔道具ゴーレムは魔道石を媒体として魔法を増幅させることに固執するのか?」

「はい、その考えに変わりはありません」

師匠は俺の決心が揺るぎないか確かめているようだ。

貴重な魔道石を媒体として採用して良いのか?もっと、他の手段はないのだろうか。ここ最近は、もっぱらこの議論に終始しているような気がする。

「わかった。では、心して励むように。方針が定まってからが本番じゃぞ」

「心得ております」

俺は気を引き締めた。

「しかしながら、魔道石を入手するとなると高額な予算が必要になるぞ。そなたどうするつもりだ?」

師匠は魔道石の入手方法について尋ねてくれた。

「それなら俺に考えがあります!」

「ほぉ、考えがる、とな」

「はい、師匠。魔獣の墓地へ魔道石を探しにいこうと思います」

俺は以前から温めていたアイデアを師匠にぶつけてみた。

「なるほど、、魔獣の墓地か。いや、しかし、あそこは過酷な場所だと聞くぞ」

師匠の心配ももっともである。魔獣の墓地は、その名の通り魔獣たちの墓場だ。

かつての冒険者たちが討伐した魔獣を捨てた場所だとされている。

正確な場所は誰にも知らない。

しかしながら、そこに辿り着くことができれば魔獣の死体から長い年月を経て魔道石が生み出されている可能性がある。

「まぁ、確かに市場に入手するよりは、格安じゃな」

師匠は髭を右手でなぞりながら思案しているようだ。

「しかし、ダニエルよ。危険がともなうぞ。その点、お主はどう考えておる?」

「冒険者ギルドを頼ろうと思います」

「うむ、まぁ、そこしかないじゃろうな」

自分の研究素材は自分で入手するしかない。

よい相棒が見つかれば、きっと魔獣の墓地まで辿り着いて、魔道石を入手できるはずだ。

「明日、冒険者ギルドに行ってみるとよいぞ、いい相棒が見つかれば良いな」

「はい、師匠。明日、早速、冒険者ギルドで依頼を受けてくれる方を探してみます」

「うむ、そうじゃな」

師匠はこくりと頷いて、また神妙な顔に戻っていた。

冒険者ギルドで良い相棒が見つかる確率と、そしてその相棒が魔獣の墓地の探検を引き受けてくれる確率。なかなか難しい交渉になりそうだ。


「ところで、ダニエル。魔性の勉強も進んでいるかね?」

師匠は話題を変えて、魔法について尋ねてきた。

魔道具ゴーレムは魔法により操ることができ仕様のため、魔法の関する知識も必須だ。

「はい、師匠。魔法の系統は、炎、雷、水、土、光、闇があるとされています」

そういえば、アルワティーヌは炎の系統に適正ありと判断されていたっけ。きっと今頃は、炎魔導師の師匠のもとで炎系統の魔法の訓練に勤しんでいる最中だろう。俺はアルワティーヌの顔を懐かしい気持ちで思い出していた。

「ところで、ダニエルよ、数多くいる魔獣の中でも魔道石が多く保有しているとされる魔物は知っておるか?」

俺の目を見て、師匠は問いかけてくる。

なかなかの難問である。

俺は黒色の髪の毛を掻き上げて、しばらく頭を悩ませた。

「ドラゴンですか?」

俺は神話級の魔物を口にしてみた。

「はははっ、まだまだだな、ダニエルよ」

師匠は俺の見て、愉快そうに笑っている。

どうやら俺の答えは検討違いのようだった。

「答えは、スライムじゃ」

「えっ!スライムですか?」

「そう、スライムじゃ。よく覚えておくようにダニエル」

俺は予想外の答えに驚いてしまった。

「なぜ、スライムなんですか?」

俺は素直に疑問を師匠にぶつけてみた。

「やつらは、何でも溶かすからの。その過程で魔道石の核が生成されるんじゃ」

「なるほど、、、スライムとは盲点でした」

魔物と魔道石の関係はまだまだ未知の部分も多い。

きっと、最新の研究事例なんだろう。

「わかりました。今度、スライムと遭遇することがあれば、じっくりと観察してみます」

「うむ、その心掛けじゃ。頑張るのじゃぞ、ダニエル」

「ありがとうございます、師匠」

俺は師匠との対話を楽しんでいる。師匠の博識には頭が下がる思いだ。


さらに師匠は俺に問いかける。

「炎属性の魔法を体得した者の場合、脅威となる魔物は何じゃ?」

俺は師匠に魔法の知識を試されている。

「炎属性の魔法を体得した者の場合、水属性の魔物ですか?例えばオクトパスとか?」

俺はさらりと回答した。

オクトパスは海に棲む巨大タコのような魔物だ。

炎属性は水属性の魔物と相性が悪い。

お互いに魔法の効果を打ち消し合うため、なかなか魔物に有効なダメージを与えることができないことで知られている。

もっとも、圧倒的にどちらか一方の魔法力が高ければ、この限りではないのだが。

師匠はゆっくりと口を開いた。

「まぁ、答えとしての方向性は合っておるな。水属性の魔物も恐ろしいのぉ」

俺は師匠の回答を聞いて、自分の考えが間違っていなかったことに安堵した。

「的外れな回答ではなく良かったです。炎属性の魔法を体得した者にとって、水属性の魔物は脅威だと心得ております」

俺はあえて再度繰り返し述べた。

俺は師匠が親心から忠告をしてくれたのだと感謝した。

「でもな、ダニエルよ。本当に恐ろしい水属性の魔物は地上で活動する奴らじゃぞ」

「ち、地上で活動するのですか!?」

俺は驚きのあまり、ついつい大きな声を出してしまった。

地上で活動する水属性の魔物とは一体何のことだろうか?

「師匠、地上で活動する水属性の魔物なんて本当にいるのですか?」

「その魔物は確かに存在するぞ」

師匠は深刻な顔で俺に忠告してきた。

俺はごくりと唾を飲みこんだ。

「やつらは、水魔法を操り、攻撃範囲は広範囲じゃ。そして、変化自在なんじゃ」

「えっ?!変化自在ですか?」

人間の魔法使いで変化自在な者は、過去に存在したとは聞いていない。

人間が出来ないことを、やりとげてしまうのが魔物である。一体どういうことだ。

「概念的には、スライムが一番近いじゃろうな」

「スライムって、そんなに強くないですよね?」

師匠はこくりと頷いた。

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