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第16話 タイムリープ青年の話(その1)

マンション管理人の僕は、住民であるタイムリープ青年の話を聞いている。

*****************

朝焼けが綺麗に色づき始めている。

「もう朝かぁ」

俺は寝ぼけながら窓に近づき、太陽の光に包まれ始めている街を眺めている。

「綺麗だな」

自然光の優しい光は癒される。もう少し眠ろうと思い、再びベットに身体を沈めた時だった。

俺は部屋の窓をノックする音に起こされた。

タワーマンションの最上階の部屋の窓をノックするなんて、、、鳥でも追突したのか。そんなことを考えながら、また窓に近づくと、そこには神様がいた。

なぜ、神様と判ったかって?それは、神様が自分で神様と名乗ったからだ。

「おはよう、神様だよ」

空中を浮遊しているザ・神様がそこにいた。漫画の世界でしか見たことが神様がそこにいた。

「あの、、何しているんですか?」

人はあまりに変なことに遭遇すると、意外と冷静のようだ。

「ちょっと、散歩をしておる」

神様は当たり前のような口調で返答する。

「空中浮遊は散歩になるのか?」という無粋な疑問を抱きながら、この事態を冷静に分析しようとしている俺がいる。

「それで、何か御用ですか?」

俺は努めて冷静に尋ねた。とりあえず、俺は部屋の窓を開けて、神様を部屋の中に招き入れた。

「お外、寒かったでしょ?」

俺は当たり障りのないことを尋ねてみた。神様は俺をまじまじと見つめてニヤッと笑うと、俺の前に丁寧に座り直して、ゆっくりと手を挙げた。

「外はそんな寒くなかったよ。あっ、君はいいやつだね。よし、異能の能力をやろう」

「えっ異能ですか?」

神様は何かを唱え出して、手を俺の前に差し出した。

「とりあえず、握手しようか?」

神様は俺に握手を促してくる。しぶしぶ握手に応じる俺。神様の手と俺の手が触れ合っ

た。神様の手は意外と温かい。

「う~ん、君にはタイムリープの異能を授けよう。タイムリープとは、自分自身の意識だけが時空を移動し、過去の自分の身体にその意識が乗り移る能力じゃあ」

「えっ、何か凄いですね」

俺はタイムリープというSFの世界でしか知らなかった単語に興味を持った。

また、神様はニヤリとして口を開いた。

「使用回数は二回までね」

「えっ、回数制限あるんですか?」

「当たり前じゃ、何事も無制限に使えるわけがなかろう」

俺は少し落胆してしまった。まぁ、タイムリープという能力なんてあまり使うことは無さそうだけど、、、、。

「あっ、そうそう重要なことを言い忘れた。タイムリープを使うと、移動した先の世界は移動前と比べて、少しだけ変化しておるからな」

「じゃあ、同じ世界の過去には帰れないんですね」

「まぁ、そういうことになる。上手く使いこなしてくれ」

何て微妙な能力なんだ。まぁ、せっかくだし今度使ってみるか。

「あっ、あとたまにワシからも発動させることがあるからな」

「えっ、神様が勝手にタイムリープを使っちゃうの?」

「わははははっ、そうじゃ。面白いじゃろ」

「えぇー」

これが私と神様との出会いだった。

二十年間生きてきたけど、神様には初めて出会った。


朝のニュース番組でお天気コーナー担当のキャスターが流星群の到来を告げていた。

「流星かぁ。見てみたいなぁ、、、」

そう呟いた俺は焼いたクロワッサンを一口かじり、ブラックコーヒーでクロワッサンを胃の中に流し込んだ。

今夜の流星群は数百年に一度しか見られないらしい。

そんな日に学校なんかに行っている場合ではない。これは仕方がない。

俺はスマホで素早く学校の職員室の連絡先を探し出し、電話を掛けた。


「あっ、先生!すいません、今日、調子悪くて休みます」

「えっ!そうなの、、、。わかった、じゃあ今日は安静にしてね」

普通の授業しかない日だったので、あっさりと休みが了承された。

多少の罪悪感を感じつつも、有意義な休みを過ごすことは学生のたしなみである、と昔の偉人も言っていた気がするので、まぁこれはこれでいいか。


俺は部屋の片隅に置いていたリュックサックを手に持って、荷物を詰め始めた。

チョコレート、ペットボトルのお茶、スマホのバッテリー、読書用の本などなど。

子供の頃に体験した遠足の前日の気持ちを大人になっても味わうことができるなんて、なんて贅沢なんだ。


「流星群を見るためには、やっぱり空気が澄んでいる山の方がいいよな」

特に行き先を決めていなかった俺は、駅の切符売り場の前で熟考していた。

無計画に過ごしてみるのもいいのではないか、そんなことを考えていた。

決められた路線から外れていくのも悪くはない。

だって、今日は流星群が来るのだから。


山の中の知らない街の駅で降りてみた。

知らない街を一人きりで散策するのは楽しい。

警戒心と好奇心が混じった感情で、俺は五感をふるに活用して、街の表情を捉えていく


夕暮れ時の空は茜色に染まっていた。

「少し休憩しようかな、お腹も空いたことだし」

どこか空腹を満たせそうな場所がないか、周囲を見渡してみた


少し先の方に、カフェらしきお店がある。

おとぎ話に出てくるような可愛らしい外観のお店だ。

「よし、あのカフェにしよう!」


俺はカフェに向かって駆け出していた。

そして、俺は恐る恐る窓から店内の様子を探る。

「怖い魔女がいたらどうしよう」と、俺の心はすっかり童話の主人公になっていた。

お店の中には観葉植物が綺麗に飾られている。夕日に照らされた観葉植物達は緑色とオレンジ色が混ざり合い、絶妙な色彩である。

気持ちを奮い立たせて、入口の扉を開ける。


「いらっしゃいませ」

爽やかな声が俺を出迎えてくれた。そして、金髪の少女が厨房から顔を覗かせている。

「本日のお薦めの飲み物しかないけど、、、、いい?」

少女は少し申し訳なさそうに俺に尋ねてくれる。

「それで大丈夫ですよ」

少女の美しさと清潔感に好印象をもった俺は快く返事した。


「好きな席に座ってください。飲み物を用意しますので、少しお待ちください」

その言葉を残して、少女はまた厨房に姿を消してしまった。

俺は夕暮れの空の様子を観察するために窓際の席に座ることにした。

白を基調とした店内は夕日の暖かな日差しに包まれて穏やかな時間が流れている。


「お待たせしました」

少女の穏やかな声とともに、可愛い星形のラテアートが描かれたカフェラテがテーブルの上に優しく置かれた。

「素敵な星形のラテアートですね」

俺は素直に感じたことを伝えた。星の白い模様が液面に浮かんでいて幻想的だ。

徐々に星の境界線がコーヒーと混じり合いぼやけてくる。


少女は少し照れた様子で、こう言ってくれた。

「今夜は流星群がくるから」

窓際の観葉植物が夕日に照らされて、キラキラと輝いている。

コーヒーの香りが店内に充満している。

お店には俺と少女の二人だけだった


「星、好きですか?」

少女は力強い瞳で俺を見つめてくる。その堂々とした雰囲気に俺は一瞬言葉に詰まってしまった。

「星は、、、好きではないです」

俺は、照れ隠しのために正反対の返答をしてしまった。

「そいうですか、、、」

明らかにがっかりとする少女。

俺は自分の返答の不味さを後悔し始めていた。


突然、頭の中に神様の声が聞こえてきた。

「君は何をやっておるのか?その子が君の運命の女性だぞ!このバカたれが!」

いきなり神様に怒られてしまった。

「そんなこと言われてもなぁ」

俺は頭の中で神様に反論した。

「よしわかった、ここは一発タイムリープ発動じゃ!」

「えっ、ここで?この状況で?それしか挽回するチャンスはないの?」

俺はタイムリープの無駄使いではないかと、頭の中で神様に抗議した。

「タイムリープ、発動!」

神様は声高く宣言した。

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