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第15話 グルメライターのアカネ(その3)

「ねぇねぇ、ゴンザブロウさん、何か武勇伝を語ってくれない?」

飲み会でいい感じに酔っぱらった私は、上司であるゴンザブロウさんに絡む。

ゴンザブロウさんも適度に酔っていて上機嫌である。

「わはははっ、俺の武勇伝か。いいだろう、いいだろう。特別に語ってあげよう」

「よぉっ!待ってました!」

私はゴンザブロウさんの気分を盛り上げるように努める。

そう言えば、ゴンザブロウさんの過去のことは良く知らないな。

「えー、俺の武勇伝であるが、、、、」

ゴンザブロウさんは懐かしいものを見る目で語り出した。

ゴンザブロウンの頭はいつにも増して輝いている。私は話に集中しなければと思いつつ、ついついゴンザブロウンの頭にも意識がいってしまう。なんて罪な頭なんだ。


「異世界では鬼のゴンザブロウと言われるほどに、俺は強かった。二刀流の使い手として、俺は一目置かれていた。大きな刀を両手に持ち、荒れ狂うモンスター達を次々と倒していた。ドラゴン、ケンタウロス、魔人などなど多くの凶悪なモンスターを倒したぞ。

そんな俺であったが、ある事件がきっかけで引退することにした。長い間、大きな刀を振り回すことしかしていなかったので、引退後に生計を立てていく手段がない。もちろん、二刀流の指導者になるという選択肢もあったが、俺は心安らげる仕事を探していた。」

 どうやらゴンザブロウさんは見た目通り凶悪だったようだ。うん、私は薄々気づいていた。さらにゴンザブロウさんは続ける。

「そんなある日、異世界のゲートを通って、俺は日本という国に行ってきた。日本でぶらぶらと過ごしていた俺であったが、大きな神社の前を通りがかった時に、お祭りを開催していたので、見物していくことにした」

ゴンザブロウさんは遠い目をして語り続ける。


***********************

「これが、噂に聞く、日本のお祭りかぁ」

目の前には賑やかな光景がひろがっている。金魚すくいや射撃など、いままで本を通してしか知らなかった光景が実際にある。

「すごいな」

俺は、この言葉を何回も繰り返した。

ある屋台の前を通った時、「雲」を食べている人達がいた。

「彼女達が食べているものはなんだ?」

俺は、屋台の店主に話しかけた。

「あれは、ワタアメだよ」

そして、屋台の店主は、俺に丁寧にワタアメの説明をしてくれた。説明しながら、店主が右手に持った棒を機械の中で回し始めると、徐々に白いワタアメが棒に蓄積していった。とても感動的な光景であった。

「店主、俺でもできるか?」

俺の目はきっと、輝いていたに違いない。

「あぁ、もちろん」

店主は俺に場所を譲ってくれた。俺は一生懸命に機械の中で棒を回し始めた。

しばらくすると、白いワタアメが棒のまわりにこびりついてきた。

ここで、俺は決心した。

「ワタアメ屋になろう」

そして、今では両手に棒をもって、ワタアメを作る「二刀流ワタアメのゴンザブロウ」と呼ばれるようになった。

***********************


ゴンザブロウさんは気持ちよく武勇伝を語ったようであった。

私は突っ込まずにはいられなかった。

「片手に棒を2本持って作っても同じだと思うんですけど、、、」

私のツッコミを聞いたゴンザブロウさんはしばらく沈黙した後に口を大きく開いて「ワッハハハッ」と豪快に笑った。

「ゴンザブロウさん、笑って誤魔化そうとしていませんか?」

私は悪戯っぽく尋ねてみた。

ゴンザブロウさんは必死に話を逸らすために、別の話題を話始めた。

「そうそう、そういえば俺、今朝おもしろい夢を見たんだよ」

どうやらゴンザブロウさんの夢の話を聞けるようだ。

「ゴンザブロウさんでも夢を見るんですね?」

私はまた悪戯っぽく言ってみた。こんなにもフランクに話せるのはお酒の席だからであろう。

「そりゃ、俺だって夢をみるよ。うん、めちゃくちゃみるぞ。なんだったら、仕事中も夢見ているぞ!ワッハハハッ」

そういえば、ゴンザブロウさんはときどき職場で居眠りしている。

私は眠りこけているゴンザブロウさんを起していいのかどうか毎回悩む。きっと夜遅くまで仕事をしているからだ、と信じたい。

「まぁまぁ、俺の夢の話を聞けよ」

ゴンザブロウさんはそう言いだして、今朝見た夢の話を始めた。


*************************

ある日、目が覚めると、周囲には丸い物体しかいなかった。

丸い物体をよく見てみると「ガチャガチャカプセル」だった。

どうやら俺は「ガチャガチャカプセル」に転生したらしい。


てっきり生物に転生できると思っていたから意外だった。

人工物にも転生できるんだ、という驚きと困惑。

自分で自分の体を動かすことができないもどかしさ。

自分の置かれた状況に悲観していると、突然大きな振動を感じた。


グッグッグッ……。


回転式レバーを回す音が箱の中に響いた。

どうやら人間が硬貨を入れて、回転式レバーを回しているようである。

そしてしばらくすると、カプセルの落下音が聞こえた。


「やったー!これ欲しかったんだ」


小学生低学年くらいの男の子の弾んだ声が聞こえてきた。

どうやら、お目当ての物が入ったカプセルが出てきたらしい。

喜んでいる声っていいなぁ、と感慨深く思った。人の喜ぶ声は心を癒してくれる。歓喜の声のなんと素敵なことか。

「ガチャガチャカプセル」にとって、唯一の楽しみは歓喜の声を聞くことだと気がついた。


グッグッグッ……。


しばらくすると、再び硬貨が入れられる音と、回転式レバーが回される音が響いた。


「えぇー!これヤダー」


小学生高学年くらいの女の子の悲哀に満ちた声が聞こえてきた。

どうやら、欲しくない物が入ったカプセルが出てきたらしい。

悲しんでいる声ってつらいなぁ、としみじみ思った。

できれば喜びの声が聴きたい。哀しみの声は嫌だ。これは人間の本能かもしれない。


それから、様々な人間達が、どんどんと回転式レバーを回していった。

そのたびは、俺は歓喜の声や悲哀の声を聞いた。


とうとう俺の順番がやってきた。

回転式レバーが回される音。

突然、体が軽くなった。

自分が落下しているのだと理解した。

急に視界が明るくなり、外の世界に出た。


カプセルの俺を手に取ったのは小さな女の子だった。

女の子の顔には見覚えがあった。

娘のアンナである。


アンナは驚いている俺に気がつく様子もなく、小さな手で一生懸命にカプセルを開けようとしている。幼いアンナには、カプセルの俺を開けることが難しいらしく、俺を滑り落としてしまった。


パカァッ!


落下した衝撃でカプセルの俺は開いたらしい。


「わぁー!やったー」


娘の満面の笑みを見ることができた。

どうやら欲しかった物が俺の中に入っていたらしい。

心の底から安堵した。同時に、心が温かい気持ちで満たされた。


そして、徐々に視界が暗くなる中で思い出した。

この世界では、「人に対する優しさ」を失い始めると、強制的に転生させられてしまうことを。

どうやら俺は日々の忙しさの中で、娘に対する優しさを失い始めていたらしい。

優しさを思い出すことができた俺は再び父親として、元の状態に戻ることができる。


元に戻ったら、娘を強く抱きしめて、そして謝ろう。

「寂しくさせてごめん。でも、大好きだよ」と、伝えよう。

*************************

ゴンザブロウさんは夢を話を熱く語り終えた。

私は再び尋ねた。

「ゴンザブロウさんって娘さん、いましたっけ?」

ゴンザブロウさんはニヤリとして答えた。

「いや、いないよ。てか、俺は独身だぞ」

酔っぱらいの話を真剣に聞いた私がバカだった。

でも、こんな他愛もない会話ができる職場が好きである。これからも異世界で美味しい料理を探し求めてライター業を続けていこうと思う。

次はどんな料理に出会えるのか、私のワクワクはまだまだ止まらない。

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