グルメライター見習いのアカネです。
今日は古本屋さんを訪れました。そこで、なんとびっくり著名料理人ニッチの日記を発見しました。果たしてどんなレシピが綴られているのか、、、。
「この日記は本物ですか?」
私は街外れの古本屋さんを巡っている時に、著名料理人ニッチの日記が売られていることに気がついた。著名料理人ニッチは18世紀を代表する料理人である。まさか、彼の日記が古本屋さんで売られているなんて、驚きである。
「本物だよ」
古本屋の初老の店主は笑顔で答えてくれた。
ニッチの日記は丁寧にビニール梱包されているので、中身を確認することができない。値段も結構高い。私は購入するかどうか迷った。
「この日記はどこで入手したのですか?」
私は初老の店主に尋ねた。
「ご先祖様にニッチの弟子だった人がいるという旅人が、この日記を売りに来たよ」
初老の店主は入手経緯を教えてくれた。
「そうなんですね、、、。この日記はもう少し安くなりませんか?」
私は値段交渉をしてみることにした。
「うん、いいよ。半額でどうかな?」
古本屋の店主は快く値引きに応じてくれた。
本の値段がいきなり半額になったことに若干の不安を覚えつつも、千載一遇の機会を逃すわけにはいかない。
「ありがとうございます。この日記を買います」
「お買い上げありがとうございます」
私は店主から日記を受け取った。
著名料理人ニッチの未知のレシピに出会える可能性に私の胸が高鳴る。早速、お店の外で日記を開封してみることにした。高鳴る気持ちを抑えながら、慎重に日記のページをめくる。
料理のレシピらしき項目を発見した。そこには、こう書かれていた。
「塩や砂糖の調味料は適量で良い。肉も野菜も適量で良い。ついでに書くと、料理時間も適当で良い。大切なのは、料理への愛情だ」
著名料理人ニッチは天才肌だったのだろう。凡人の私には参考になりそうにない。私は日記を静かに閉じて、古本屋さんに再び売ることを決意した。
翌日は異世界の飲食店から集客キャンペーンの企画依頼があり、打ち合わせに伺った。
「こんにちは」
私は明るい声で挨拶しつつ、クライアントの店に入って行った。
「よく来てくれたね!今日はありがとう」
年配の男性店主が出迎えてくれた。
「お店の集客キャンペーンのご依頼を頂きありがとうございます」
私は男性店主と早速、仕事の打ち合わせに入った。
「お客さんの数を増やしたいんだよ」
男性店主は切実に訴えてくる。何か良いアイデアはないかと、男性店主と私は議論を重ねる。
そこで、私は一つ提案してみる。
「目玉企画として、来店者の合計年齢が88歳で料理代88%オフ、なんてどうでしょうか?」
来店者の人数が多ければ、注文数も増えるので、結果として利益がでるかもしれないと思い、提案した。
「そうだな、利益率の高い料理に限定すれば、できるかもしれないなぁ」
男性店主も目玉企画の案に前向きである。
そこで私は、次に訪問してくるお客さんで目玉企画を試してみないかと、さらに提案してみる。
「おっ!いいね」
男性店主も賛同してくれた。
さて、どんなお客さんが入ってくるのか。入口のドアを見つめつつ、しばらく待つ。
ようやく入口のドアが動いて、お客さんが入ってきた。お客さんは夫婦のようだ。ただし、頭に角が生えたドラゴン族の夫婦だ、、、、。
私はお客さんに企画の趣旨を説明して、夫婦の年齢を尋ねてみた。ドラゴン族の旦那さんは言った。
「我々ドラゴン族は長寿なので、私は500歳、妻は400歳だよ」
二人で合計900歳だった、、、。
集客キャンペーンの企画練り直しが決定した瞬間だった。
異世界の客層の広さは侮れない。
さらに引き続き美味しいグルメを求めて、色々なレストランを取材している。今日は真夜中しか開いていないレストランを取材してみる。
「こんばんは」
私は墓地の中にあるレストランを恐る恐る訪れた。このレストランは真夜中しか開いていない。しかも、立地場所は墓地の中心。
「いらっしゃいませ」
メイド服姿の可愛らしい女性が応対してくれた。
「あの、このレストランのお薦め料理は何でしょうか?」
私はメイド服の女性に尋ねた。
「そうですね、骨付き肉のステーキがお薦めですよ」
メイド服の女性は笑顔で答えてくれた。
「真夜中の墓地で、骨付き肉のステーキは雰囲気ありますね」
私は素直な感想を述べた。
「みなさん、同じ感想を言いますよ。すぐに準備するので、お待ちください」
メイド服の女性は柔らかい口調で言った。
私は蝋燭が置かれたテーブルで待つことにした。このお店の明かりは蝋燭の光だけ。全体的に暗い。真夜中なので、遠くで謎の鳥が鳴いている声が聞こえる。
「お待たせしました」
メイド服の女性が骨付き肉のステーキを運んできてくれた。香ばしい匂いが食欲をそそる。
「この料理はどうやって食べるのですか?」
テーブルの上にはナイフもフォークもない。不思議に思って、私はメイド服の女性に尋ねた。
「この料理は手で食べるんですよ」
そうか、手づかみで食べるのか。私は覚悟を決めて、骨付き肉のステーキを口に運んだ。
「美味い!」
私は口に広がる肉の美味しさに思わず叫んでしまった。焼き加減が絶妙で、歯ごたえも良い。料理の味は満点だ。
「ところで、このお店はなぜ真夜中の墓地で営業しているんですか?」
私は疑問点をメイド服の女性にぶつけた。
少し沈黙するメイド服の女性。緊張する私。
そして、メイド服の女性がゆっくりと口と開いた。
「それは、、、家賃が格安なんですよ」
そうか、家賃が安いのか。私は合理的な理由に納得して、食事を続けることにした。
「ごゆっくりどうぞ」
メイド服の女性は優しい口調で食事を促してくれた。
「ありがとうございます」
私はテーブルから離れるメイド服の女性にお礼を述べた。その時、初めて気がついた。メイド服の女性は足が半透明で空中に浮いているように見える、、、、。
ちょっとお化けが苦手な私は翌日に有給休暇を取得することにした。そして気分転換にクッキーを作ることにした。グルメライターを志す者としては、自分自身の料理の腕も磨いておきたいところである。
「とりゃっ!」
私は気合を入れて、クッキーの生地を伸ばしたり、丸めたりした。生地に愛情を込めると見せかけて、日頃のストレス発散のために、クッキーの生地を弄ぶ。生地の心地よい弾力に気分を良くした私は、思いっきり生地をテーブルに叩きつける。
「あっ、しまった!」
うっかりクッキーの型をテーブルから落としてしまい、破損させてしまった。このままではクッキーの形を作ることができない。ちょうど、その時であった。
「あっ、猫だ!」
窓の外を猫が優雅に通り過ぎて行った。私は慌てて窓に駆け寄り大きな声でお願いした。
「猫さん、猫さん。ちょっとだけ、クッキーを作るの手伝ってくれませんか?」
私は白い毛並みが美しい猫にお願いした。猫は私を見つめて「ニャー」と鳴いて、私にすり寄ってきてくれた。
「ありがとう、猫さん。美味しいクッキーにするからね」
そういって、私は猫を伸ばしたクッキー生地の前に連れて行った。
猫さんは引き延ばされたクッキー生地を興味深く見つめていた。そして、ゆっくりと手を前に出して、肉球でクッキー生地を押し出した。
「わぁ、素敵。猫の手を借りた結果、面白い形のクッキーができたわ」
私は猫の手で作られたクッキーをまじまじと眺めた。そして、あることに気がついた。
「猫さんの手を洗っていなかったから、せっかくのクッキーが汚れちゃった、、、」
私は自分の過ちを悔いるように、独り言を言った。
「まぁ、いいか。これはゴンザブロウ先生にあげよう。先生の胃袋は頑丈そうだし」
そんな私の独り言を聞いた猫さんは小さなか声で「ニャー」と鳴いていた。