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第13話 グルメライターのアカネ(その1)

管理人の僕は、マンション住人であるグルメライターさんのお話を聞いている。

********************

いつも購読しているグルメ雑誌がある。

この雑誌の中で、とても素敵な記事を書くライターさんがいる。繊細で可憐な文章だ。

このライターさんは正体不明だが、世間では「グルメ記事の女王」と呼ばれている。もちろん私が推している人物だ。

「きっと、素敵な女性なんだろうな」

私は同じ女性として、彼女の文章に魅かれていた。彼女の記事からは、料理の美味しそうな味や匂いが伝わってくる。私も彼女のようなグルメライターになりたいと思い始めていた。


19歳になった私は、一念発起して「グルメ記事の女王」にファンレターを書くことにした。丁寧に、そしてしっかりと想いを込めて手紙を書いた。

「私は貴方を推しています。できれば、弟子入りしたいです」

そんな言葉も添えてみた。

返事は期待していなかったけど、手紙を投函する時は緊張した。


数日経ったある日、家の郵便受けを覗いてみると、綺麗な文字で書かれた手紙が届いていた。

「グルメ記事の女王からだ!」

私は嬉しくなって、急いで手紙を開封した。綺麗な文字を目で追っていると、「弟子入り歓迎です。3日後に街の噴水の前で待っています」という一文があった。私は嬉しくなって、思わず飛び上がった。私のグルメライターとしての道が開かれようとしていた。


そして、約束の日。

私は清楚な服装で彼女との待ち合わせ場所に向かった。

「きっと、この噴水の前から私の物語が始まるんだ」と未来へ向けて想いを膨らませていた。その時であった。

「アカネさんですか?」

野太い声がして私は振り返った。目の前には、強面の坊主頭の巨漢男が立っていた。

「えっ、、、」

私は驚きのあまり口をパクパクさせていた。その男は続けてこう言った。

「俺、ゴンザブロウです。世間ではグルメ記事の女王と呼ばれています。弟子入りありがとう」

私は彼の姿に圧倒されて、思わずこう言ってしまった。

「おねがいします」

そして、私は憧れの「グルメ記事の女王」に弟子入りすることになった。


上司のゴンザブロウさんに色々と指導されながら、何とかライターとして働いている。

「ちょっとアカネにお願いしたいんだけど、異世界のグルメ記事の執筆依頼を受けたから取材してきてくれない?」

坊主頭で強面の上司であるゴンザブロウさんが私に命じてきた。


翌日、新しい料理を求めて、とある料理屋さんに来てみた。

街から少し離れた隠れ家風のお店で、洞穴の中にある。知る人ぞ知る秘境のお店だ。

どんな料理に出会えるか、わくわくしている。

「こんにちは」

私は元気な声で店主らしき人物に訪問を告げた。

「おっ!いらっしゃい。よく来たね」

初老の店主が物腰柔らかく応対してくれた。

「シェフの気まぐれサラダが有名と聞いたのですが、お願いしていいですか?」

私は事前の調査で入手した情報をもとに素早く注文を済ませた。

「了解です。今日はおもしろい食材が入手できたから、それを出してあげるね」

初老の店主は慣れた手つきで料理を始めた。どんな料理が出てくるのか期待に胸を膨らませて、待つこと十分。


「おまたせ」

初老の店主がテーブルまで二つのサラダを運んできてくれた。

「こちらが海鮮サラダで、こちらが昆虫サラダです」

目の前には、盛り付けが美しい昆虫サラダと、盛り付けが汚い海鮮サラダが置かれた。

「好きなサラダを食べてね」

初老の店主は優しい声で、究極の二択を迫ってきた。

私はテーブルに置かれた昆虫サラダと海鮮サラダを、じっくりと眺めた。

昆虫サラダの盛り付けは美しい。虫の躍動感がよく表現されている。だが、決して食欲をそそるわけではない。

一方、海鮮サラダの盛り付けは汚い。というか、サラダがお皿からはみ出している。あと、ワカメとか中途半端にしか切れていない。それに少しだけ腐敗臭がする。こちらも食欲をそそる感じではない。

私は困惑しながら二つのサラダを見比べた。店主は何故か私の目の前に立ったままだ、、、、。

私の第六感が「海鮮サラダは危険」と告げている。よし、覚悟を決めて昆虫サラダを食べよう。私の第六感は「昆虫サラダの方が安全」と囁いている。

「いただきます」

私は、昆虫サラダを口に運んだ。


「おいしい。コリコリして美味しい」

思わず感想を口にした。昆虫の独特な食感が癖になりそうだ。

「見事な食べっぷりだね」

初老の店主が笑顔で言った。

「昆虫サラダだけ出すと、食べないお客さんが多いので、こうして究極の二択を迫るようにしているんじゃよ」

店主は笑いながら言った。

「二択しかない状況下で、この昆虫サラダを食べると、なんだか一層美味しく感じますね」

私は笑顔で答えた。


次の日、私はお腹を壊して、一日中トイレに籠ることになった。

私にとって、昆虫サラダはまだレベルが高かったようだ。


昆虫サラダによる体調不良から復帰した私は新しい料理を求めて、口コミで人気のキノコ料理屋さんに来てみた。

噂によると、お客さんが全員笑顔になるというお店だそうだ。

どんな料理が出てくるのか楽しみである。


「こんにちは」

私は、とあるキノコ料理屋さんを訪れた。

「こちらのお店に、お客さんが全員笑顔になる料理があると聞いたのですが、本当ですか?」

私は店長らしき中年男性に話しかけた。

「お嬢ちゃん、よく知っているね!それは、うちの店のお勧めのキノコ炒めのことだね」

店長は得意気に言った。

「噂は本当だったのですね! ぜひ、注文したいです」

私は弾んだ声で料理の注文を済ませた。

「了解!今から作るから少し待ってね」

慣れた手つきでキノコ炒めを作りだす店長。

待つこと十分。食欲をそそる匂いと共に、キノコ炒めが運ばれてきた。

「熱いから、気をつけてね」

そう言って、店長は私の前にキノコ炒めを置いてくれた。

見た目がシンプルなキノコ料理だった。微かにバター醤油の香りがする。

「盛り付け方はシンプルですが、この香りがいいですね」

私は素直な感想を述べた。

「小細工なしで、料理を楽しんで欲しいから、あえてシンプルな盛り付けにしているんだよ。香りを楽しみながら食べてね」

店長はそう言って、食べるように促した。

キノコをフォークに刺して、口に運ぶ。そして、嚙んでみる。口の中にバター醤油の甘辛い味が広がった。

「おいしいですね」

私はこの味が気に入った。次々とキノコを食べていく。バター醤油の甘辛い味に自然と笑顔になる。

「なんだか、楽しくなってきました」

私は不思議と笑顔になってきた。このバター醤油の甘辛い味の影響かな、と思いつつどんどん食べた。そして完食。自分の顔が笑顔になっている。そうか、私は満足したのか。


食べ終わって十五分も時間が経過したけど、まだ笑顔である。


私は笑顔のまま冷静になって、気がついた。

「もしかして、これってワライタケですか?」

店主に尋ねてみた。店主は目を逸らした。

私は、毒キノコの一種である笑茸を食べてしまったのだと確信した。

「しばらくすると、笑顔の効果が無くなるから大丈夫だよ」

店主は開き直って、明るい声で言った。

「あははっ、そうですか、、、、」

私が、このキノコ料理の秘密を知った瞬間であった。


異世界にある料理屋さんは、なかなか個性的である。挫けないで、まだまだ取材を続けていく。昆虫サラダやキノコ料理なんかよりも、もっとインパクトのある料理を探し求めていくぞ。

 でも、体調を崩さない料理がいいな。できれば見た目も綺麗な料理がいいな。

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