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第8話 孫のケイタロウは手強い

川のせせらぎの音が村に癒しの時間をもたらす。

鳥のさえずりが村に安らぎをもたらす。

喉かな時間が緩やかにながれている山村の光景。


そんな中、私は孫のケイタロウにおもしろい話を強要されていた。

「ゴンゾウおじいちゃんにもう少しお願いがあるんだけど、、、いいかな?」

ケイタロウがもじもじしながら、私の方を上目づかいで見つめてくる。

「うん?どうしたケイタロウ、遠慮しなくていいよ」

私は平静を装う。

可愛い孫の頼みである。祖父の立場としては、できるだけ叶えてあげたいと、ついつい思ってしまう。孫は本当にかわいい。

「さぁ、ケイタロウ、遠慮せずに言ってみなさい」

私はケイタロウに話の続きを促した。

「じゃあ、言うね」

ケイタロウは私の目をしっかりと見つめて口を大きく開けた。

「ねぇ、おじいちゃん、おもしろい話を聞かせてくれない?」

またまた、私は絶句してしまった。

これは困った。

おもしろい話だって、、、一体何を話せばいいのか。


私はこれ以上失敗を重ねるわけにはいかない。

これまで話した二つの物語は、孫のケイタロウの心には響かなかったようじゃ。

隣の家のシゲゾウさんなら大うけじゃったのに。

孫のケイタロウは都会っ子だけあって、目が肥えておる。

私は少し狼狽しながらも、懸命に物語を考え出した。


「配線ぐちゃぐちゃ、というお話じゃ」

私はケイタロウがロボットアニメが好きだけど、実は脇役の方にときめきを感じるタイプの子供なのかもしれないと思い直して、咄嗟に創作話を聞かせることにした。


・・・・

怪獣が出現して人類を襲うようになってから百年が経過した。

人類は怪獣への対抗手段として、汎用型ぬいぐるみロボットを創り出した。

今春に整備士学校を卒業した俺は、汎用型ぬいぐるみロボットの整備課へ配属された。希望通りの人事だったのでとても嬉しかった。


今日が整備課への初出勤である。

身だしなみを整えて、職場へ向かう途中であった。

「緊急警報、緊急警報。怪獣が街に接近しています!」

怪獣の襲来を伝える防災放送が街中に鳴り響いた。

初出勤日に怪獣の襲来に遭遇するなんて、俺はついていない。

大型バイクに乗り、渋滞する自動車の隙間を縫って、整備課のある基地へ急行した。

基地へ到着して事前に配布されていた作業服に着替える。

「さて、俺のチームはどこかな」

期待と不安が入り混じった感情で、俺は整備課に顔を覗かせた。

「おつ!新人きたな」

白髪の混じった初老のオジサンが俺を見つけて声を掛けてくれた。

「今日からお世話になります。整備士のミケレレです」

声を張り上げて自己紹介した。何事も最初が肝心である。

初老のオジサンが俺を見つめながら、手で合図する。

「新人。今は怪獣襲来の緊急事態で、すまないが、さっそく汎用型ぬいぐるみロボットの整備をお願いする」

「わかりました!」

「今日は白ウサギ型ぬいぐるみロボットが出撃するぞ。新人、配線チェックを頼む」

「了解しました、このミケレレ、学んできたことを存分に発揮します」

俺はロボットがある整備室へ駆けて行った。

俺は自分の技術力をさっそく活かせる機会に恵まれたことに感謝しつつ、ロボットの電気盤を開けた。

「えっ!」

絶句した俺は、自分でも情けない声を挙げてしまった。そして、叫び続けた。

「配線が全部白色です!なぜ、白色のケーブルしか使っていないんですか!?しかもコネクタも全て同じで、テプラなどの表記もないじゃないですか!?」

白ウサギ型ロボット恐るべし!

・・・・


「どうじゃ、ケイタロウ。おもしろい話じゃろ?」

私はドヤ顔をしてケイタロウを見つめた。

ケイタロウの反応は、、、、さっきとまったく同じで微妙であった。

「うーん、ゴンゾウおじいちゃん。配線材は色を変えるべきだと思うよ。特に電源ラインはアースをしっかりとらないと、感電とか怖いもんね」

まさかのダメだし。

「そうか、、、、ちょっと、ケイタロウの好みに合わなかったようじゃの。というか、ケイタロウはロボットアニメ好きなだけあって、色々と詳しそうじゃの」

私は潔く負けを認める。

最近の子供の知識の豊富さには脱帽してしまう。

「ねぇ、おじいちゃん、もっともっと、おもしろい話を聞かせてくれない?」

私は絶句してしまった。

これは困った。

もっともっと、おもしろい話だって、、、一体何を話せばいいのか。


「じゃあ、緊急の呼び出し、という話じゃあ」

私はケイタロウがロボットアニメが好きだけど、実は脇役の方にときめきを感じるタイプの子供ではなかったことを考慮し、人物に焦点をあててみることにして、咄嗟に創作話を聞かせることにした。

私は重い口ぶりで、再び語り出した。


・・・・

空には雲が一つもなく、空気は澄んでいる満月の夜だった。

耳を澄ませば、虫たちのオーケストラが聴こえてくる。


「深夜だけど、散歩にいくか」

スマホと財布をポケットにいれて、僕はスニーカーを履いて、玄関を出た。


街灯に照らされる道路。

夜風と一緒にダンスする草や木や花たち。


特に目的地はない。

「せっかくなので、普段とは違う場所に行ってみるか」

僕はそう呟いて、気分にまかせて、街を巡ることにした。

深夜の街の表情は、昼間の街の表情と違って、どこか他人行儀の雰囲気だ。

きっと、人々が眠っているからに違いない。


池のある公園に来てみた。

「子供の頃に、よくここに来たの覚えてるよ。懐かしいなぁ」と、僕は心の中で呟き、ブランコを探してみる。

ブランコは公園の隅にひっそりと置かれていた。

「久しぶりにブランコに乗ってみるか」

ブランコのチェーンを手で持つと、ひんやりとした触感が伝わってくる。

まるで僕の身体の体温をブランコに分け与えているようだ。

「失礼します」と、僕はブランコに語りかけて、ブランコの座板に自分のお尻を置いた。


ブランコの座板に自分の体重を移していく。

そして両足をゆっくりと浮かす。

「地面からの解放だな」

やや大げさな表現をして、この状況を楽しんでみた。

深夜の公園で一人の青年がブランコに乗っている光景は他人からどう映るのだろうか?

そんなことを考えながら、ゆっくりとブランコを漕ぎ出す。

両足を前後に振ることで、徐々にブランコは円弧軌道を描いていく。

僕の身体はブランコの揺れと同期して、前後にゆっくりと揺らされる。

頬に当たる風を感じながら、ブランコを漕いでいく。

「楽しいな」

ブランコに乗ることがこんなに愉快だなんて、すっかり忘れていた。


ブルルッ!

深夜の静寂を破って、僕のスマホが鳴る。

そして、指令が伝えられる。

「怪獣が出現したから、出撃せよ」

やれやれ、今夜も長い夜になりそうだ。

・・・・


「どうじゃ、ケイタロウ。おもしろい話じゃろ?」

私はドヤ顔をしてケイタロウを見つめた。

ケイタロウの反応は、、、、いままでと同様に微妙であった。

「うーん、ゴンゾウおじいちゃん。深夜の呼び出しはダメだよね。そういう職場は辞めた方がいいよ」

まさかのダメだし。

「そうか、、、、ちょっと、ケイタロウの好みに合わなかったようじゃの」

また、私は潔く負けを認める。

さすがケイタロウは都会っ子だけあって、登場人物の労働条件にも容赦のない指摘をしてくる。きっと、多くの大人に囲まれて育ってきたからかもしれない。

この田舎で育っていれば、自然に囲まれて伸び伸びとできたかもしれないのに。


川のせせらぎの音がさらに大きく聞こえてくる。

鳥のさえずりが私の背中の汗をついばんでいく。

子供とは、なんと残酷なものなんじゃ、と私は心の中で呟いた。

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