俺の名前は雪村光太郎だ。
現在、女神サンクリファニアと異世界での俺の職業について、さらに交渉中だ。
もう交渉の期間は延長戦のようなものだろうか。
これまでに提案した職業は散々たるものだった。
勇者もダメ、剣士もダメ、魔法使いもダメで、召喚士と格闘家もある意味でダメだった。
だが、俺はまだ希望を捨ててはいない。
異世界に行って、ユニークな職業に就いて、色々な魔物を倒して、凱旋門帰国して、美女達にチヤホヤされる展開が待っているのだ。と、強く心で思うようにしている。
俺は不満を女神サンクリファニアさんにぶつけた。
「俺が行く異世界って、けっこう色々と制約あるんですね?」
「何回も言うけど、そりゃそうよ!なんだって思い通りになんかならないわよ!」
再度の説教。
女神サンクリファニアさんは頑固だ。もう少し柔軟な考えでも良いのではないか。
「わかりました、わかりました。では、ここは違う職業で妥協していきます」
俺はさらに代替案を考えることとした。
パッと思いつく、人気職はいろいろと制約があるようだ。
なかなか厳しい展開だ。
よし、こうなれば数撃てば当たる作戦しかない。なんて安直な作戦なんだ。
「あの、弓使いとかどうでしょうか?遠隔から魔物を倒す奴です」
俺の頭の中では、異世界に行って、弓使いになって、色々な魔物を射抜いて、つでに魔王とか討伐して、凱旋門帰国して、美女達にチヤホヤされる展開が巡っていた。
俺の中の弓使いのイメージはエルフだ。
もしかしたら、エルフ族の多くの美女達からもモテるかもしれない。
弓が上手いと夢は広がるな。
さぁ、どうだ!女神サンクリファニアよ。
「う~ん。あなたは弓使いって使ったことないでしょ??」
「もちろん、帰宅部の俺は弓を使ったことがない」
弓道部やアーチェリー部とかに入部しておくべきだったか。
いまさら、過去を後悔してもしかたない。
「例えば、ボウガンとか命中率のよい武器とかないですか?」
ここは武器の進化に頼ろう。
素人でも扱える武器はあるはずだ。
「あぁ、そういうのならあるわよ」
女神サンクリファニアさんは、あさりと有効そうな武器の存在を認めてくれた。
これはもしかして脈ありではないか。ついに弓使いで異世界で活躍できるのか。
俺は自然と顔がほころんでくる。人間、先の見通しを得られると元気がでるものだ。
「でもね、、、」
女神サンクリファニアさんは、首を傾げはじめた。
なんて不穏な空気なんだ。俺は内心でビクつき始めた。
「弓矢は高価だよ」
「えっ、弓矢ってお金かかるんですか?」
「当たり前よ。弓矢が無料でもらえるわけないじゃない」
俺、絶句。
たしかに、弓使いに弓矢は必要だ。そして、弓矢は消耗品だ。
そこは、弓矢を無限に生成できる能力とか付与されたりしないのだろうか。
よし聞いてみるか。
「例えば、俺に弓矢を無限に生成できる能力とか付与されたりしないですか?」
弓使いが弓矢を無限に生成できたら、ある意味無敵だ。
さぁ、どうだ女神サンクリファニアよ。
「そんな、弓みたいな能力あるわけないじゃない。ちゃんと働いてお金稼いで、弓矢を購入するのよ」
まさかの勤労の勧め。
たしかに汗水垂らして稼いだお金で弓矢を買ったら、弓矢に対する愛着は沸くだろう。
それはもう、一本一本、大切に弓を放つだろう。
そして、弓矢が相手に当たるかどうかわからない状況では、弓を放つのを躊躇するだろう。
でも、弓使いはそれでいいのだろうか。
「ちなみに、弓矢って一本どれくらい何ですか?」
以外と弓矢の値段は安いかもしれない。
そこに期待してみよう。
「そうね、だいたいあなたが一カ月働いて弓矢が一本買えるかどうかの値段だと思うわ」
女神サンクリファニアさんは、さらりと回答する。
それはもう涼しい顔で言い放つ。
「めちゃくちゃ高いじゃないですか、弓矢!」
まさか異世界で弓矢がこんなにも値段が高いなんて。
もはや貴族の遊びでしか弓使いは成り立たないのではないか。
「わかりました、弓使い辞めます」
俺は渋々、弓使いの道を断念した。
女神サンクリファニアさんは、「あらそう」とあっさりと受け流す。
勇者もダメ、剣士もダメ、魔法使いもダメ、召喚士も格闘家も弓使いもダメ。
なかなか異世界の就職状況は厳しいな。
女神サンクリファニアさんは、おもむろに公園の時計に目をやった。
「あら、もうこんな時間だわ。そろそろ天界に帰らないと門限に間に合わないわ」
「えっ、女神でも門限あるんですか?」
「そりゃそうよ、天界の門が閉まってしまうわ」
天界って、そういうものなのか。
俺は焦り出した。ここまで交渉して、何の実りも得られないなんて悲しすぎる。
女神サンクリファニアさんは、ゆっくりとした口調で言う。
「ちょっと時間がないから、質問は最後にしてね?」
「わかりました」
俺はさらに焦りだした。
「じゃぁ、じゃぁ、、、、」
とりあえず、俺は口から音を発するが、頭の整理が追い付かない。
どうしたものか、どうしたものか、何か無いか。
あっ、閃いた。
「あの、、、精霊使いってどうですか?」
俺は晴々とした表情を女神サンクリファニアさんに向けた。
さぁ、どうだ女神サンクリファニアよ。
精霊使いならさすがに空きはあるんじゃないか?
俺は期待に満ちた目で女神サンクリファニアを見つめる。
女神サンクリファニアさんはニッコリと微笑む。
ついに、ついに、俺は理想の職業を手に入れることができたか。
「はい、精霊使いは却下です」
あっさりと拒絶されてしまった。
「えっ!何でですか?精霊使いはダメですか?」
食い下がる、俺。
ここは粘るしかない。
「精霊使いって神聖な職業なのよ。いきなり精霊使いにはしてあげられないわ」
女神サンクリファニアさん、やれやれといった口調で説教する。
「そうなんですか、、、、じゃあ、精霊使い見習いならアリですか?」
いきなり精霊使いにはなれない、ということは他の手段があるはずだ。
俺は希望を失わずに女神サンクリファニアさん尋ねた。
女神サンクリファニアさんは、しばしば沈黙。
そして、おもむろに口を開いた。
「まぁ、精霊使い見習いっていうならアリだわね」
なんと!精霊使い見習いになれるチャンスがあるのか。
「精霊使い見習いはアリなんですね、やったー」
俺は歓喜の雄叫びを上げた。
これで俺の異世界での生活は薔薇色になるかもしれない。
ようやく展望が開けてきた。
「それで、精霊使い見習いって何するんですか?」
俺は念のために確認を怠らない。
きっと、精霊使いの美人な師匠のもとで精霊のイロハを教えてもらえるに違いない。
今から胸の高まりを感じるぜ。
女神サンクリファニアさんは、しばしば考え込んでから口を開いた。
「まずは、座学かな?」
俺は拍子抜けした。
「へぇ、座学ですか?精霊と触れ合ったりとか、無いんですか?」
俺の想像とちょっと違うようだ、精霊使い見習いって。
「そりゃ、そのうち精霊とも触れ合ったりするわよ。精霊とも触れ合わないと、精霊使いにはなれないわよ」
女神サンクリファニアさんは、さも当然のように答える。
「そりゃそうですね」
俺は納得の理由で了解しつつも、疑問を口にした。
「でぇ、座学って何するんですか?」
女神サンクリファニアさんは、笑顔で応じてくれた。
「受験よ!まずは精霊使い見習いの学校に入るために受験しないと!」
「えっ、受験ですか?」
「ちなみに、精霊使い見習いの学校の受験倍率は高いから頑張ってね」
俺、絶句。
「結局、今の状況とたいして変わらないじゃないですか、、、」
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光太郎くんは管理人の僕に思いのたけをぶつけて去っていった。やれやれ。