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『後日』-ミーティング-

 ー事件から2日後。ようやく日常を取り戻した筈のナイヤチは、異様な静寂に包まれていた。勿論、住民や一緒に戦ってくれたプレシャスメンバー、遊撃部隊をはじめとする軍、現地協力員に負傷者は出てないし、建物やエリア内のインフラに大きな損害はない。…にも関わらず、ナイヤチの3つの都市惑星はいつも通りの慌ただしい喧騒に包まれる事もなく、ましてや歓喜に沸く事もなかった。

 ーその理由は、事件の日の夜に宙に現れた『炎の龍』だろう。…それは、間違いなく人々の脳裏に焼き付く鮮烈な光景だった。

 故に、今日もナイヤチの住人は宇宙に…『ドラゴン』が休んでいる星系防衛軍の方向を静かに見ていた。

 まあ、中には…特にカーファイ老師と同世代の方々は低頭しながら深い感謝の祈りを捧げていた。

 一方、政府や防衛軍等は今日も慌ただしかった。…無論、彼らもふとした時に『アレ』を思い出したり宙域軍港の方向を見たりしていた。

「ーなるほど。そういう仕組みだったのか…」

 そんな妙な状況の中、ファイターエリアの政府関連施設のとあるルームには『関係者一同』が集結していた。…そこで俺は、『モーント』の隊長であるシリウス卿に『切り札』の事を説明していた。

「…いやはや、まさか今になって『進化』を遂げるとは思いもよらなかった」

「…ええ」

 当然、他の方々も聞いていたのだが彼らは驚いたり感涙していたりしていた。…うん、本当後者の『女傑殿』はぶれないなぁ。 


「…ありがとう。

 ーそれにしても、本当に『あの船』には興味が尽きない。…君の話によると、『自己判断』で『切り札』をセッティングしたのだろう?」

「ええ。…まあ、実をいうと『構想』は練っていたんです」

「ほう…。…もしや、そちらに居るクルーガー殿の奪還任務の時からかな?」

 卿は、感心したリアクションを見せ…的確な予想を口にした。

「…っ」

「…いやはや、本当に卿は凄まじい慧眼の持ち主ですね。

 …本当に、あの一件は『連中』の危険度を知る貴重な経験でした。そして同時に、危機感が足りない事を痛感した事件でもありました」

「…帝国政府も同様だ。

 あの事件が起こるまでは、『サーシェス』を『黒い噂の絶えない兵器運輸企業』としか見ていなかったからな」

「…まあ、危険な兵器と『思想』を持ってるだなんて『ここの先達』以外誰も気付けませんよ」

「…確かに、我々は気付いていた。

 だが、何らかの『報復』が来る可能性があったので迂闊な事は言えなかったのだ。…済まない」

 ジュール大将がマオ老師を見ながらそういうと、マオ老師は少し申し訳なさそうに謝ってきた。


「…そんな。老師が謝る事では……」

「そうです。むしろ、懸命な判断です。…もしかしたら、ロクに対策が出来ていない中で『今回のような』事件が起きていた事でしょう」

「…そうか」

 しかし、ブラウジス閣下やシリウス卿はフォローを入れた。…俺もそう思う。

「…本当、味方は勿論敵にも被害が出ないのはしっかりとした『準備』をしたからですよね。

 まあ、そのほとんどはボスに任せっきりでしたが」

「…私は、武装と移動手段とフィニッシュを担当しただけですよ。

 それに、用意していたプランも大して役に立ちませんでしたから…」

「まあ、『あんな事』が起きるなど誰も予想は出来ないだろう…。…ところで、私からも質問をして良いか?」

「どうぞ」

 謙遜していると、今度は老師がフォローしてくれた。…そして、質問をして来る。多分ー。

「ー何故、『沈黙させなかった』のだ?」

「…あ、私も気になっていました」

「右に同じく」

 すると、女史と大将も興味深くこちらを見て来る。

 ーいつもなら、『切り捨て』を遅らせる為に敵の船や拠点を『沈黙』させるのだが、今回はあえて宙軍とモーントに『沈黙』をしないように頼んでいたのだ。

「1つは、今回の主犯も増援も『大した情報』を持っていなかったからです」

「…はい?」

「…いや、ちょっと待て。

 どうやって、『判断』した?」

 俺の突拍子もない説明に、女史は唖然とし大将は話の途中にも関わらず突っ込んで来た。

「…ジュールよ。とりあえず、最後まで聞いてみようではないか」

「…っ。…失礼しました」

 すると、老師は大将を窘めた。…そして、お三方は再びこちらに意識を向ける。


「…まあ、大将のお気持ちは良く分かりますよ。

 事実、『キャプテン』である俺もなかなかビックリしてますから」

 俺は苦笑いしながら、『とあるフォト』を表示した。

「ーっ。…これは、『新入り』のスミルノフが所有している『端末車』だな?」

「もう片方は、『サイバーダイブ』に特化した『ヘビ』ですな…」

「ええ。…これは、巨体化した『害虫』を誘導している最中に起きた事らしいのですが、情報班と行動を共にしていた『ヘビ』と『コレ』が突如協力し合って敵地上拠点の端末に侵入し、『チラ見』したのですよ」

「…っ」

「……」

「…スミルノフの『端末』が、『副産物由来のモノ』なのは知っていましたが……。まさか、『ヘビ』が『仲間以外』と協力するなんて…」

「私も、この話を聞いた時はかなり驚きましたよ…」

「…同志プラトー。…改めて聞くが、一体『何が』起こったのだ?」

 集まった関係者達は、驚愕したり同意したりしていた。…そんな中、閣下は改めて聞いて来た。

 実は、事件解決後いつものように閣下には『顛末』を真っ先に報告していたのだ。…勿論、閣下は今日のように聞いてこられたがその時は俺もライトクルーも混乱していたので、『今日までには予想を立てます』…と言って先送りにして貰っていたのだ。

 …けれど、昨夜いろいろ考える前にふと『理解』したー。


「ー確かなのは、『手がかり』にはまだまだ私達の知らない『秘密』があるという事です。

 …けれど、きっと『それ』はこれから我々が行う事の『大きな助け』になるでしょうね」

「……。…『解放作戦』の事か?」

「…え?」

「…まさか……」

「「……」」

「私はそう信じています。

 ーそして、それが2つ目の理由になります。…まあ、これは『仕込み』の意味合いが強いですが」

「…つまり、あえて『連中』に『炎の龍』の姿を見せたのはいずれ実行するトオムルヘ解放の、『布石』とする為だという訳か。

 ー見事なり」

「…なるほど。…向こうの『副産物』に対しての、『アプローチ』という訳ですか。

 ーとても、『素敵』な考えですね」

「…いや、良く考え付いたものだ」

「…流石だ」

 すると、顔役達や『ファン』は俺の言いたい事を理解し称賛を送ってくれた。

「恐縮です」

「ーっ。すまないが、そろそろ移動しなければならない。…皆、今日は疲れている中早い時間に集まってくれてありがとう」

 若干照れていると、ルームの外に居る閣下の秘書がインターフォンを鳴らして来た。なので、自動的に話し合いの場はお開きとなる。


「いえ、とんでもない。

 むしろ、とても貴重な話が聞けたので大変有意義な時間を過ごす事が出来ました」

「その通り」

「ですな」

「右に同じくですわ」

「私も同じく」

「…それでは、私は先に失礼する」

『お疲れ様でした』

 そして、閣下は一足先にルームを出て行きシリウス卿も少し間を開けてからルームを出た。

「ーさて、我々は引き続き後処理を手伝うとしよう。…そして、お前は『例のポイント』の調査を頼む」

「ああ、それがありましたな」

「確か、カノープスの『新入り』が案内してくれるのでしたね?」

「ええ。…っと、噂をすれば。

 すみませんが、私もこれで」

「ああ」

「それでは、またいずれ」

「吉報を期待していますわ」

 そんな時、カノープスの端末がコールしたので俺も顔役達にお辞儀をしてからルームを出たのだったー。

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