ーSide『イリーガル』
『ー…………』
重役用のミーティングルームは、異様な静寂に包まれていた。…その原因は、例によってプレジデントだが『いつも』とは違っていた。
「…………」
プレジデントは、豪華な専用シートから転げ落ちていて…ただ青ざめていた。
ー『いつもなら』、激昂で顔を赤くしているプレジデントが『恐怖』を感じている現実を重役達は受け止める事が出来なかった。
「ーっ。プ、プレジデント、大丈夫ですか?」
少しして、呆然としていた側近がプレジデントに近付き手を差し出す。
「……ああ」
なんとか返したプレジデントは、震えるその手を側近に伸ばしてゆっくりと立ち上がり元通りにされたシートに再度腰掛けた。
「…すまない、諸君。
ー…君、報告を続けてくれ」
「…っ、は、はい」
そして、未だ『恐怖』を抱きながら報告を続けさせた。
「…今の映像は、『作戦』に参加していた同志より送らて来た『最後の報告』です。
ー…この直後、同志達とのコンタクトが一切取れなくなりました。恐らく、現地の部隊に拘束されたのだと思います。
私からは、以上です」
「……ありがとう。
……まさか、『あんな切り札』を用意していた、とはな…」
重役が座ると、プレジデントは震えながら感想を口にする。…無論、他の重役達も言葉にしないだけで皆同じ心境だった。
「…あの『チカラ』は、早急に解明すべき重大な脅威だ。
ー何故なら、『あれだけのチカラ』を得たということは近い将来『侵攻』してくるからだ」
『…っ!?』
プレジデントの確信を持った予告に、重役達は驚愕する。
「…プ、プレジデント。まさか、『過去』も同様の事が?」
すると、1人の『若い』重役が挙手をしながら質問した。…『最近』やたら重役に『穴』出来るせいで、他のメンツた比べて随分と若い重役が上がって来るのだ。
勿論、『忠誠心』、『実績』、『頭の良さ』、『行動力』をプレジデント自らが審査した上でだが…。
「…そうか。『君の世代』は、詳細を知らないのも無理はないな。
…君の予想通り、『あの男』は『恐ろしいチカラ』を得て少しした頃当時の本社に真正面から戦いを挑んで来たのだ。
ーそれも、『攻撃担当』は全て『あの男』が引き受けていて後は陽動や歩兵移動の為の船だった」
『………』
「…今でも、時折思い出す。
ー紛れもない現実というあの『悪夢』の日の事を…」
「…そんな、『恐ろしい』事が……」
「…本当に、『あの日』は人生最悪の日だった。
当然、敵が『恐ろしいチカラ』を持っていたというのもある。…だが、そもそもそんな事態になってしまったのは『私の責任』でもあるのだよ」
『…っ』
その言葉に、重役達はギョッとした。…何故なら、滅多にプレジデントは『反省』をしないからだ。
「…今でも後悔している。
ーあの日、『あの忌まわしき船』の力を見誤らなければ屈辱を味わう事はなかったと」
『……』
「…だが、今回我々はある意味『ツイて』いる」
『……っ』
気付けば、プレジデントは古株すらも見た事もない獰猛な笑みを浮かべた。…だから、重役達はいつも以上に緊張する。
「…何故なら、こうして敵の『最大の切り札』を知れたのだから。
ーさあ、ここから新たな『ステージ』が始まるのだ。…諸君らには、今日この時より決意新たに頑張って貰いたい」
『…っ』
プレジデントはいつも以上にギラギラした瞳を重役達に向けた。…それは、重役達に凄まじいプレッシャーを与えた。
「それでは、これにて重役会議を終了する」
『…っ!お疲れ様でしたっ』
そして、プレジデントの言葉でミーティングは終わり重役達は腰を上げ深くプレジデントに礼をした。
「…では、頼んだぞ」
『は、はいっ!』
プレジデントはゆっくりとシートから立ち上がり、再度彼らに『圧』を掛けてからミーティングルームを後にした。
『……っ。……ー』
それから、重役達はぞろぞろと『仕事』を始める。…勿論、『若手』の重役も行動を開始していた。
(ーまずは、『軍部』にコンタクトを取らねば…。…はあ、何で私がー)
その重役…男はトオムルヘ『現政権』である軍部との交渉担当だった。だが、男は与えられたポジションに内心不満を抱いていた。
ーその理由は、非常に単純だ。
『ー…はい、こちら中央司令室』
少しして、向こうの交渉担当は通信に出た。…その声は、重役と同様非常に『嫌そう』だった。
「(…っ。最近は、隠そうともしないな…。)
任務中失礼する。…先程、重役ミーティングにて我々は新たな方針を立てた」
『…へぇ?
ー今度はどんな、-クソみたい-なプランを捻り出したんですか?』
向こうの応対に苛立ちを感じつつ、重役はさっさと本題に入る。…すると、向こうは明確な嘲笑を浮かべながら聞いて来た。
ー…それだけ、軍部はサーシェスに『振り回されて』来たのだ。結果、人材や物資の損失等を引き起こしいろいろと『手が回らなく』なっているのだから、軍部からすればたまったものではない。
「ー…ほう。『クソみたいな戦力』しか持っていないのに良くそんな口が聞けたものだ」
勿論、そんな事を言われて重役も黙っている筈もなく軍部の『頼りなさ』を痛烈に批判した。…事実、軍部もクーデター以降政治に力を入れるようになり本来の仕事である『軍事』が愚かになって来ているのだ。その上、どういう訳か新たな人材もろくに確保出来ないといった事をはじめ、様々な『問題』が発生しているので加速度的に弱体化が進んでいるのだ。
サーシェスが私兵を使うのも、これが理由だ。
『ー…言ってくれますね。
-我々がいなければ兵器を形に出来ない-のに』
「はあ?
『我々がいなければ兵器の構想する事すら出来ない』貴様達がそれを言うか?」
けれども、両者の関係は軋轢こそあれ分裂する事はなかった。…それは、『相手を切ったら自分達が危ない』と本能的に分かっているからに他ならない。
ー大きな例を上げるなら、今この2人が語った内容だろう。
今さらだが、サーシェスは『ウェンポンディーラー』のカンパニーだ。つまり、『兵器を形にする』ノウハウは持ち合わせていない。
そして、トオムルヘ軍部はお抱えの軍需ファクトリーが居るが『アイデア』を出せる人材はいない。
故に、お互いがお互いを『利用し合って』いかなければ何も出来ないのだ。
「(ー全く、何故プレジデントはこんな『クソ』を利用すると判断したのだろうか?…っ、はあ、そろそろ話を戻さなければ)
…まあ良い。
ーこれ以上、無駄な時間を使いたくないのでオーダーを告げる」
『…っ!』
重役は、頭の中でスケジュールを思い出す事で怒りを沈め『とあるデータ』を転送した。
『…何ですか、これは?』
「それには、あの『忌々しい船』の最新データが入っている。それを解析し、対策を出せ。
ーもし、出来なければもいずれ起こる『侵攻』にて我々も貴様等も『星』となるだろう」
『ーっ!?はあっ、何だそれっ!?』
不穏な言葉を聞いた相手は、当然困惑した。…だがー。
「ーそうなりたくなければ、死に物狂いで解析する事だな。では、次のスケジュールが迫っているので失礼する」
「…っ、お、おいー」
重役は時間が迫っているのを理由にさっさと切ろうとする。…向こうは非常に慌てるが、お構い無しに通信を切ったー。
ーこの時、この重役は…いや、サーシェス全体は大事な事に気付いていなかった。…いつもなら『発覚』が遅れるのに、何故今回に限って『切り札』の情報が直ぐに手に入ったのかという事を…。