ーSide『ルーキー』
「ーっ!?こ、これは…」
ふと現場の状況を見たエリゼは、突如起きた現象に驚愕する。
ーモニターの向こうでは、直前まで大暴れしていた『キラーグラスホッパー』の大群がいきなり空中から出現した超巨体な質量の『ボックス』に閉じ込められたのだ。
勿論、『それ』を用意したのは味方ないのは明白だ。
『ー接近しますっ!』
すると、複数のポイントで友軍が『それ』に近くー。
「ー…っ」
…どうやら、『壁』は薄くまたマイクが高性能なので中の音がはっきりと聞こえた。
ーそれはまるで、『貪る』ようなおぞましい音だった。…当然、現場の友軍や彼女や近くで作業しているメンバーもゾッとしてしまう。
『ー『オットー※コールサイン』より、当エリアで展開中の全チームへ通達っ!
総員、速やかに退避をっ!繰り返す!総員、速やかに退避をっ!』
ルームになんとも言えない空気が流れる中、今度はアラームが鳴り響いた。…そして、遊撃部隊隊長から退避のオーダーが出た。
『ーっ!了解っ!』
それを聞いた友軍は、即座に撤退を始めた。
『……』
(ー…多分、『カノープス』が『危険』だと判断したんだ)
一方、ルーム内の空気は一気に緊迫したモノに変わる。…けれど、研究者は冷静に予想する。
「…一体、『何が』起こるというのだ?」
「…『ロクでもない』事なのは、確かなようですね。
とにかく、尚の事急いで『オーダー』を果たしましょう」
隣で作業している同僚の呟きに、彼女はうんざりした感情を含めた声で答えつつ『プラトー』から与えらた『オーダー』を進める。
ー今、彼女達科学研究チームはとあるモノの解析に全力を傾けていた。…それは、ついこの間アーツ使い達を襲った事件で使用された『未知の生命体の体液』だった。
「ー…だな。
それにしても、エリゼ君の『出向先のオーナー』殿は何故に『コレ』を……?」
同僚は彼女に同意しつつ、疑問を口にした。…恐らく、その理由はー。
「ー…もしかしたら、『今後の為』なのかも知れません」
「…っ。…つまり、『コレの危険性』を連盟に広く伝える為だと?」
「ええ。それと同時に、『連中の危険性と違法性』も世に広める狙いもあるかと」
「……。…いや、当然といえば当然だが『スゴイ船』のオーナー殿は『スゴイ頭脳』の持ち主なのだな。
そして、『そんなスゴイ人』にオファーを受けた君もとんでもなく『スゴイ人』だと思う。…本当、同僚として鼻が高いよ」
彼女の考察を通して、同僚は『彼』の優れた頭脳を称賛する。それと共に、彼女を誇らしいと口にした。
「…あはは。ありがとうござー」
そこだけ空気が和んでいたが、直ぐに現実に引き戻される事になる。…モニターの向こうから、『バリバリ』という『嫌な予感』がする音がはっきりと聞こえたのだ。
「ー………」
そう、先程出現した謎の超巨大ボックスの一点に大きな『穴』が出来始めていたのだ。…そしてー。
『ー…っ!』
今度は、『ガンガン』という音と共にボックスが激しく振動し始めた。…まるで、『中に居るナニカ』が『そこ』から脱出を図っているみたいに。
『……?』
けれど、振動は少しして止まった。…だから、彼女達は油断してしまう。
『ーっ!?』
次の瞬間、『ボックス』はまるで最初からそこになかったかのように忽然と消えた。…そして、中に居た『モノ』が姿を現した。
ーそれは、巨体な『エネミー』だった。
「…ウソ……」
「…ば、バカな……。…『融合』したというのか?」
「…いや、もしかしたらー」
「ーっ!?」
それを見た科学研究メンバーは、呆気にとられる。…だが、更に彼らを恐怖させる事態が発生した。
ー『エネミー』は、定点カメラに向かって飛んで来たのだ。そして、カメラを『飲み込んだ』のだ。…当然、数秒後にモニターの映像は強制的に停止した。
『……』
それを見た彼らは、しばらく恐怖に怯えるのだったー。
○
ー…うわ、『雑食』かよ。
俺は、『別のカメラ』が捉えていた情報を見て唖然とする。
「…一体、何が起こったんですか?」
『ー…恐らくだが、-共食い-によるモノだろう』
アイーシャが呟くと、『トラ』のモニターに映るジュール大将は予想混じに答えた。
『先日も言ったが、-アレ-の対処方法は実にシンプルだ。
1ヶ所に集めて、巨体な-ボックス-に閉じ込めてしまえば良い。そうすると、-アレ-は共食いを起こして勝手に自滅してくれる。
…だがー』
ー結局、その『プラン』は使わない事になった。…何故なら、『モンスターエッグ』を視た『ドラゴン』が『その対処方法は危険』だと判断したからだ。
だから、『処理』の工程だけを『サポーター』に差し替える事になったのだ。
「ー『こういう事』になるからだったんですね。…いや、ホント『ビジョン』のシステムを生み出しておいて良かった」
俺は、心底ホッとしていた。…実は、これも大幅な『カスタマイズ』のおかげである。
ーその名は、『ビジョンアイ』。…なんと、遂に『ドラゴン』は『少し先のトラブル』をも観測出来るようになったのだ。
『いや、本当にありがたい。…もし、-警告-がなかったらいつも通りの対処をしていただろう。
ー…だが、結局-敵-はそれを進んで行ったようだ』
『…どうしますか?』
「まあ、『生身』のサポーターは既にアシストしている『トリ』に避難してますから大丈夫でしょう。
…それと、現場に結集しつつある友軍には進軍を停止して貰っています」
『…それが良いだろう。見ての通り、-アレ-は究極の雑食のようだ。下手をすれば、友軍に多大な犠牲が出る。
ー本当に、何から何まで-あの時-とは違うな…』
俺の報告を聞いた老師は、その危険な性質から最悪の想定をした。…そして、『当時』との違いに困惑した。
『…では、どうするのですか?
今の所、-害虫-達はエリアを我が物顔で闊歩しているだけですが、いつ急変してもおかしくはー』
「ー心配無用です。…そろそろ、『彼ら』が到着する頃ですから」
女史は深刻な表情で懸念を口にする。けれど、俺はこんな状況にも関わらず冷静だった。…その理由はー。
『ーこちら、カノン。マスターへご報告します。
帝国防衛軍の高速輸送船、ソンリィに到着しました。順次、-投下作業-に入るようです』
「そうか。…帝国の高速輸送船でも、-ギリギリ-だったか」
ちょうどその時、カノンから『グッドニュース』が届いた。…それを聞いて、ちょっとホッとする。
『…帝国宰相殿に、一体何を頼んだのだ?』
「イデーヴェスの件で『悪用』されていた、『トラのレプリカ』達をこっちに持って来て頂いたのですよ」
『…っ!帝国でも-保管-しているとは聞きましたが……。
…でも、安全なのですか?』
女史は、心配そうな顔になる。…だから、俺は自信満々な表情で返す。
「大丈夫ですよ。
ー『ファングリーダー』、ミッションスタート」
『ーGAOoo!』
直後、俺達の乗る『トラ』の脇に控えていた『ファングリーダー』が応えゆっくりと前に出た。
「今降りて来ている『レプリカ』達は、この『ファングリーダー』に従います。…いや、本当に『間に合って』良かった」
『…いつの間に……。…いや、-サイバー空間-を使えばいつでも-訓練-は出来るのか』
「流石の慧眼です。
『ファングリーダー』、『レプリカ』と共に『エネミー』をこちらに誘導せよっ!」
『GAO!』
そして、俺のオーダーを受けた『リーダー』は勢い良く駆け出した。
ーそれから少しして、『レプリカ』達はエリアの各地に投下される。…直後、『彼ら』は『融合』を始め巨体なサイズに変化しエリアの中を駆け始めた。