「…っ!…イエス・ユアハイネス。
…ですが、ちょっと此処だと……」
すると、アイリスは少し悩んだ後『答える』と言ったが同時に周囲を気にした。…それに対して皇女はー。
「ーああ、それなら心配ありません。
では、お手数ですがちょっと端っこに移動しましょう」
「…分かりました」
とりあえず彼女は、笑顔の皇女の言葉に従う事にした。
そして、皇女は兄妹の方を向く。
「それでは、失礼致しますね」
「失礼致します」
「…っ!は、はい…」
「…ひ、ひゃいっ!」
当然、皇女と専属騎士は兄妹に一礼を受けた2人はまたまた驚愕した。…勿論、周りでそれを見ていた人達もだ。
ーそんな人達の視線を受けつつ、皇女達はルームの端っこに着いた。すると、皇女は専属騎士に目線を送った。
それを受けた彼女は無言で頷き、左手の指に装備した指輪を口元に近付けー。
「ー『オーダー』、『シークレットバリア』」
静かにそう呟いた。…だが、一見すると何も起きなかった。
「ーこれで大丈夫ですね」
「…もしかして、その指輪は……」
けれど、皇女は自信満々にそう言った。…それを見てアイリスは先程の指輪の正体に気付いた。
「はい。こちらは、『サイレントリング』といいまして『サイレントアウル』のシステムの簡易版をインストールしたアイテムです」
すると、専属騎士は特に隠さずに肯定する。…多分、アイリスが『ライトクルー』だからだろう。
「…やはり。……というか、もしかしなくともお2人は私の『お役目』の事も?」
「ええ。…実は、帝国出発前に『彼』と『面会』をしたのですがその時に直接教えて頂きました」
アイリスの確認に、皇女は細心の注意を払いながら返す。…何故なら、専属騎士はピクニックシートを床に敷きつつ主に鋭い視線を向けていたのだから。
「…そうだったのですか……」
「ーさあ、お2人共。粗末な敷物で恐縮ですが、どうぞお座りになって下さい」
そして、専属騎士は何事もなかったかのようにシートを丁寧な所作で示した。
「…ありがとう、オリビア」
「あ、ありがとうございます」
皇女はホッとしつつ、アイリスは恐縮しつつお礼をしてシートに座る。
「…それでは、お話して頂けますか?」
「イエス・ユアハイネス。
ー…えっと、まずはあの『サポーター』達の正体からお話ししましょう。
実は、『彼ら』はイデーヴェスでの事件の際に悪用された『レプリカ』です」
「ーっ!?……」
「……」
衝撃の真実に、皇女も専属騎士もギョッとした。
「あ、事件後政府主導で『調整』をしたので安全性は確保されてますのでご安心を」
「…な、なるほど(恐らく…いや間違いなく『彼』がプランを立てたのでしょうね)」
皇女は、とりあえず相づちを打ちつつ内心で正確な予想をする。…実際、彼女の予想はほぼ当たっていた。
「そして、今回の私達が『ボランティアスタッフ』に任命された際わざわざキャプテン・プラトーが、『レプリカ』を持ち出せるように手配してくれたんです。…その少し後、メッセージを貰いました。
ー『出来る事ならナイヤチで-トラブル-は発生させたくはありませんが、万が一そうなってしまった時はサポーターの力を借りて下さい。
大きな-トラブル-を経験した貴女達なら、きっと冷静に行動出来るでしょうから』…と」
「…そうだったのですか。
本当に、信頼されているのですね」
「…あはは。身に余る光栄な事ですね…」
「…あの、ところでフェンリーさんは『エネルギーオフ』の詳細な理由もご存知ですか?」
「…いえ。ただ、キャプテン・プラトーは事前に『代理の方』を通してホテルと私に『エネルギーオフ』を伝えていました」
「…『代理の方』?もしかして、ランー『プレシャス』の方かしら?」
気になるキーワードを聞いた皇女は、つい特定の人物を口にしてしまう。…その時、専属騎士は鋭い圧を放ったので皇女は直ぐに不特定多数の名称に切り替えた。
「はい。…まあ、『その方』と直接お会いした訳ではありませんがね」
「…というと、通信でのやり取りを?」
「ええ…」
すると、アイリスは何か困惑した表情になる。
「…?どうされました?」
「あ…。
…実は、かなり驚いたんです。
ーだって、私の居場所を教えていないのに、『その人』から伝言が来たんですから…」
「………え?」
「……」
またまた衝撃発言に、皇女は唖然とし専属騎士は『まさか』という顔をした。
「…ねえ、オリビア。私、不思議と心当たりがあるのだけれど?」
「恐らく、間違いないでしょうね。
ーどうやら、キャプテン・プラトーは『例のハッカー』を味方に引き入れたようです」
主も同じ予想をしていたようなので、専属騎士は答えを口にした。
「…やはりでしたか……」
それを聞いた彼女は、困惑を深めた。…それを見た皇女はふと口を開く。
「ーやはり、『傍に置いてコントロール』するのが目的かしら?」
「……あ」
「それしか考えられないでしょうね。
…そうなると、キャプテン・プラトーは既に『ハッカー』のプロファイリングを済ませている事でしょう」
その予想に、アイリスは納得し専属騎士は深い予想を出した。
「……ー」
すると、アイリスは何か決意した表情になった。…恐らくー。
「ーああ、そうだ。
フェンリーさん。1つ『お願い』しても宜しくて?」
「…っ!え、あ……。……はい」
直後、皇女は『イタズラを思い着いた子供』のような笑顔を浮かべて唐突にそんな事を言う。…アイリスは、考えが読まれている事に心底驚きつつしっかりと頷いた。
「キャプテン・プラトーから『ハッカー』の人となりを聞き出して頂けますか?…あ、勿論報告は貴女のタイミングでよろしいですよ」
「…イエス・ユアハイネスー」
『ーっ!?』
アイリスは、その『お願い』にきちんとした所作をしつつ了承した。…その直後、不意にシェルター全体が揺れたのだったー。
○
ーSide『ガーディアン&ハッカー』
「ー…っ。……クシュンッ」
現場の状況が『第2フェーズ』…『モンスター』の大群がエリアに解き放たれようとしているなか、不意にヒューバートはクシャミをしてしまう。
「……?」
一応、健康には気を付けているつもりなので彼は何でクシャミが出たのか分からなかった。…するとー。
「ー…大丈夫ですか?」
彼の『端末』の中で共に作業に当たっていたトマスは、心配そうな顔で聞いて来た。
「ああ、すみません。…多分、風邪の類いではないと思うのですが……」
「…そうですか。
ーあ、ひょっとして『誰かが噂』してるのでは?」
ホッとした調査担当は、ふとそんな事を口にした。
「…え、それって『此処』の迷信では?」
だが、ハッカーはいかにも信じてなさそうな顔で返した。…やはり、『明確な情報』しか信じない信条のようだ。
「いやいや、案外当たってー」
しかし、調査担当はその説を推す。…そんな、今の状況とは真逆の非常に平和的なやり取りをしている最中、ハッカーの『端末』はまるで2人を現実に引き戻すかのようにアラームを鳴らした。
「ーっ!…やれやれ、本当に規格外な『相棒』ですね……」
「恐縮です。……ー」
その『優秀さ』に調査担当は改めて驚かされつつ称賛し、ハッカーは少し嬉しそうにしながら『メッセージ』を確認した。…すると、その表情は一気に深刻なモノになった。
「……っ」
「…どうやら、『直ぐ近くの奴等』が街に出たようです。
位置はー」
急激な変化に、調査担当は固唾を飲んだ。…そして、ハッカーは恐れていた事態が発生した事を報告した。
「ー『ドライバー』、応答して下さいっ!」
直後、調査担当は素早くドライバーに通信を入れる。
『こちらドライバー。どうしました?』
「たった今、こちらの『感知システム』がエネミーを捉えました。
ーおよそ5分で、『エンゲージ』しますっ!」
『ーっ!?了解っ!
直ぐに、-バリア-を展開しますっ!』
調査担当の予測に、ドライバーは驚愕するが直ぐに『防御』開始を宣言した。
「ーっ!少尉殿、モニターをっ!」
直後、ハッカーは『ウマ』の背中に配備した『眼』の情報をモニターに表示した。
「…っ、『コレ』は……」
それを見た調査担当は、見るからにゾッとしていた。
ー何故なら、『画面イッパイ』におびただしい数の『ナニカ』が映ったのだから。