「ーっと」
次の瞬間、リーベルト選手は『武踊』を始めるが俺は距離を取る。…直ぐに攻撃を仕掛た所で、確実に防がれるのならちょっとの間『観察』してみようと思ったのだ。
そして、俺は直ぐにその場からも動き出す。
『ーおおっとっ!?ブライト選手、距離を取ったかと思ったらリーベルト選手の周囲を走り出したぞっ!?
やはり、攻めあぐねているのかっ!?』
ーしかし、本当に綺麗な『舞』だ。…帝国放送でやってる『ナイヤチダンスレッスン』や『ダンスモノ』のホロムービーで見るやつとは、また違った『美しさ』がある。
実況がそんなコメントをする中、気付けば彼女の『武踊』に見惚れていた。…しかし、どうやらあまり悠長にしていられないようだ。
ーだんだんと、彼女の動きが『大きく』なって来たからだ。…そろそろ『当てて』来るだろう。
『ーおやっ!?リーベルト選手のダンスの範囲が広かって来たぞっ!
ま、まさか、高速で駆け回るブライト選手に攻撃を当てるつもりなのかっ!?』
「ー螺旋」
なので、俺は足を止めてその場で横回転を始めた。
『おおっ!ブライト選手、迎撃態勢に入ったっ!
果たして、リーベルト選手の一撃を止める事は出来るのかっ!?』
実況がそう言っている間に、彼女はどんどん迫って来た。…そしてー。
「ーコォォォォッ」
彼女とぶつかる直前、俺はリミッターを外し更に回転スピードを上げバトンを手放した。
「独楽(コマ)っ!」
「ーっ!」
当然、バトンは凄まじいスピードで彼女に向かって飛んで行った。…さあ、どうする?
直後、俺は回転を止めー。
「ー甘いっ!」
『おおっと、リーベルト選手バトンを華麗に-迎撃-っ!
…って、ブライト選手いつの間にあんな所にっ!?』
実況の言うように、俺は一足先にバトンの『予想通過地点』に居た。…そして、彼女によってスピードが穏やかになったバトンを難なく回収した。
『おおっ!?ブライト選手、攻めに転じたっ!』
直後、俺は彼女に素早く迫る。…さっきバトンを全力で防いだせいか彼女の『舞』はだいぶスピードが落ちていた。もしかするとー。
「ーまさかとは思いますが、『今なら攻撃が通る』等と考えていませんか?」
すると、彼女は的確にこちらの『甘い予想』を読んでいた。…直後、彼女の『武踊』は先程のスピードに戻る。けれどー。
「ーははっ!まさかそんな『愚かな事』考えてませんよっ!」
俺は笑いながら否定し、接近を続ける。そしてー。
「ー三点衝。
一つ!」
「はっ!……っ」
俺はその勢いを維持したまま、突きを放つ。…勿論、その一撃は容易く防がれる。
「ー二つ!」
だから、僅かに後退し今後は『足』に狙いを定めて突きを放つ。
「せいっ!…っ……」
けれど、やはり次の攻撃も防がれた。…その際、彼女はほんの少し『驚いた』。
「ー三つ!」
何故なら、こちらが後退せずにそのまま身体の中心を突いて来たのだから。…だから、彼女はー。
『ーええっ!?リーベルト選手、武踊を止めて後退したっ!?』
『なっ!?』
防御をせず、回避した彼女に会場はどよめいた。
「ー…まさか、舞に『合わせて』来た上に止められるとは思いもしませんでした。
お見事です」
「どういたしまして(…本当、厄介な『判断速度』だ)」
彼女は素直に称賛の言葉を口にした。…そう、俺は彼女の動きを分析し『利用』し僅かな『隙』を突こうとしたのだ。
「…その才能と頭脳に敬意を評し、『私の一番得意な闘い方』をお見せしましょう。
参りますー」
「ーっ!?」
すると、彼女は纏う空気を一変させ…次の瞬間目の前から消えた。…っ!
俺は直感的に『前進』する。…その数秒後、さっきまで俺の居た場所に小さな着地音が聞こえた。
ー…っ、早い……。
そして、彼女は俺を追跡し始めた。…その距離は、あっという間に縮まる。
「ー背衝」
とりあえず、牽制で後ろに突きを放ってみる。…けれど、手応えがなかった。はあ、巧みに躱されたかな。
「ー捕まえた」
直後、彼女は俺のバトンをガッチリと握った。…うわ、びくともしない。
一見、細くしなやかな体型だがおそらく軍人並みに鍛えているのかバトンはピクリとも動かなかった。
『ああっ!?リーベルト選手、一撃を叩き込もうとしているっ!
ブライト選手、絶体絶命かっ!?』
「ーハアアアッ!」
けれど、俺は素早く身体を反転させ渾身の力を込めて彼女ごと持ち上げた。
「ーっ!」
すると、彼女は瞬時に手を離し床に着地する。…直後、彼女は攻勢に転じる。
ー…あー、『そろそろ』キツイな……。
ただ、『限界』だったので俺は回避行動が出来ずその場に膝をついてしまった。
「ーっ!そこまでっ!」
「ー………っ」
それを見たレフェリーは、直ぐに試合を止めた。勿論、彼女は素早く止まった。
『ーああっとっ!?ブライト選手、-スタミナ切れ-だっ!…という事はー』
「ーブライト選手、試合続行不可によりリーベルト選手を勝者としますっ!」
『ーっ!…………』
『な、な、な、なんとっ!この勝負、滅多にない-判定勝ち-で決まりましたっ!』
レフェリーが下したジャッジに、会場は唖然とし実況は非常に珍しい状況に興奮した。
『ー…っ。…………っ。……』
「ー大丈夫ですか?」
「…あー、お手数ですがストレッチャーをお願い出来ますか?」
「…っ。分かりましたー」
やがて、会場が騒然となり始める中レフェリーの人は俺に声を掛ける。…まあ、マジで動けないのでストレッチャーの手配をお願いした。
すると、彼は即座に運営本部に連絡を入れてくれた。
「ー………」
とりあえず、床にドカッと座り『それ』が来るのを待つ。…そんな俺の前に、彼女は正座した。
「…あの、戻らないんですか?」
「…『普通』に闘いが終わったのなら、そうします。
けれど、相手が救護を要する状態なら『きちんと見届ける』のも『戦士』の礼儀です」
なんか気まずくなったので、彼女に問う。すると、彼女は凄く真っ当な答えを口にした。…そういえば、ぶっ倒れるほど全力を出した後『専務殿』も『隊長殿』もそうしてくれていたような。
あれって、『此処』がルーツなのかな?
「………」
そんな事を考えていると、彼女はジーッとこちらを見る。…あ、もう『身バレ』してるな。
「ーお待たせしました。ストレッチャー、到着です」
彼女の瞳には『疑惑』が宿っていたので、俺は覚悟を決めた。…そして、ちょうどその時ストレッチャーが到着する。
「ーあ、掴まって下さい」
「ありがとうございます」
俺は救護班の人に支えて貰いながら立ち上がり、ストレッチャーの上に寝る。
「ー…そうだ。…多分、今日中に『ボス達』から通達が来ると思いますのでフリーでいて下さいね?」
そして、ストレッチャーがフロートしたタイミングで傍に立つ彼女に『メッセージ』をした。
「ーっ!……」
「ーそれでは、出発しますね」
「あ、はい。お願いします」
まあ、案の定彼女は『それ』で完全に確信を得たようだ。…そして、彼女が驚愕するなか俺はストレッチャーに運ばれてステージを降りる。
『ーっ!スゲーぞっ!』
『見事だっ!』
すると、カーファイコミュニティから称賛の声が上がる。
『ーウオオオオーーッ!』
それを皮切りに、呆然としていた観客席は一気に盛り上がった。…だがー。
『ー……』
会場を出て救護ルームに向かう途中、今日の試合で勝った人達に出くわす。…彼らは、皆驚愕の表情でこちらを見ているのだったー。