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『当日・直前』-意志-

 ーSide『マスタークラス』


「ーさて、今の所はつつがなく進行しているがまだまだ気は抜けない」

 それからおよそ1時間後。各道場の当主達はミーティングルームに集まっていた。…そして、彼らは皆いつも以上に真剣な表情だった。

「まずは、交流試合の最終戦…我が門下であるオリバーとクロフォードの門下であるミリアム若獅子頭との勝負が無事に終わるのを見届けたい。

 …本来なら、その後に議会を行うが今回はもしかすると試合直後に『災禍』が起こるやも知れん」

『……』

 その言葉に、当主達は僅かに顔を歪ませた。勿論、代表のカーファイもだ。

 ー本来なら試合を終えた門下を労いたいのに、それを我慢して集っているからだろう。

「では、『長老会』を始める。

 まずは、『紹介する者達』の確認だ」

『はい』

 すると、彼らの持つタブレットに試合に勝った選手達がリストアップされた。

「ー…問題は、彼らに『強い意志』があるかどうかですね」

「…確かに。…いくら強くとも『争い』の経験がない彼らはきっと迷うでしょう」

 ふと、誰かが彼らのメンタルを心配した。…果たして彼らに、『危険を伴う戦い』に身を投じる意志はあるのだろうか?

「……」

「…そういえば、クロフォード殿の所のアニ門下生は随分と『気合い』が入ったな」

 そんな中、クロフォードは悩んでいた。それに気付いたマオは感想を口に出す。


「…ふう。マオ老師や皆様もお気付きでしょう?

 彼女の『必死さ』を」

「…やはりか。…確か彼女は、若獅子頭の事を非常に尊敬していたな」

「…ええ。恐らくは、勝って自分も『選んで』貰う為でしょうね。ただー」

「…実際は、ミリアム若獅子頭は『プラトー殿』の船に乗るから離れ離れだ。

 つまり、簡単に『意思』が揺らいでしまう。…下手をすれば、足手纏いになるだろう」

「…どうします?…いっそ、アニ門下生もかの御仁の船に移動というのは」

「ーそれは無理であろう」

 その提案に、マオは『待った』を掛けた。

「…もしや、『プレシャス』方面から何か通達があったのですか?」

「ああ。

 ー実は、昼前に『代表』から通達があってな。…何でも、『防衛軍から-必要な人材-を派遣して頂いた』との事だ」

『ーっ!?』

「…あの、『必要な人材』とは?」

「…そうだな。皆には説明しておこう。

 そもそも、『彼』の船には各星系防衛軍の優秀な人材で構成された『エリート』部隊がいる。

 だがー」

 その質問に、カーファイは前置きをした上でマオを見た。

「ー実はな、前々から『代表』に相談を受けていたのだ。

『非殺傷アーツの指導役を探している』…と。その理由は、彼の船の『正規乗組員』を鍛える為だ」

『……っ』

「…それは、初耳ですね」

「済まない。…知っての通り『彼』と彼の船は極秘事項の塊故おいそれと話題に出来なかったのだ」

『…あ』

 女性当主の言葉に、彼は謝罪した。だが、『理由』を聞いたメンバーは納得した。


「…そんな折、昨日カーファイ老師とクロフォード殿から話を受けミリアムを『指導役の1人』として派遣する事になったのだ」

「…そうだったのですか。……?あの、『鍛える正規乗組員』は複数居るのですか?」

「ああ。

 その『2人』は、血が繋がった『家族』なのだが『適性』は綺麗に別れていてな。

 それに合わせ、『2つのアーツ』からそれぞれ指導役を派遣して貰うつもりだったが……」

「…まさか、防衛軍の科学研究員が『柔拳』の『指導役資格』まで取得していたとは思いもよらなかったな……」

『………。……』

 カーファイ達は、揃って『ソフトアーツ』の当主を見た。

「…ま、まさか、アルジェント門下生が抜擢されたのですか?」

「ああ。まさに、『文武両道』の逸材だ」

 カーファイは、その類い稀なる才能に称賛する。

「だから、アニ門下生を代表の船に派遣する事は出来ないのだ」

『……』

「…かといって、『未だ未熟』な当人に『否』を突き付ける訳にもいかないでしょう。

 ー憧れるミリアムと離別し、尚且つ『勝ったのに不採用』となれば今後の修練に身が入らなくなるでしょうから…」

 結論を聞いたメンバーは沈黙し、クロフォードは困った様子で予想を立てる。


「…仕方ない。ここは一度、『先方』に『その2つ』について伺うとしよう」

「…それが良いだろう。皆は?」

『異議なし』

 マオの問いに、メンバーは頷いた。

「では、『災禍』を無事に鎮めた後聞くとしよう」

『……っ』

「…あの、マオ老師。…現状等は、どうなっているのですか?」

 すると、誰かが『関係者』であるマオに質問をした。

「…現在、プレシャスと現地警備部隊と協力者による合同制圧部隊によって『危険な箇所』は制圧出来ている。…ただー」

 マオは、昼頃(カーファイを経由して)聞いた『厄介な情報』を語る。

「ー…なんと……」

「………。…もしや、『あの時』と同じ災禍が……」

「ー…代表や我々『顔役』も、そう考えている。

 ただ、代表は『決して当時のような被害にはさせない』と言っていた。…恐らく、既に『対策』を施しているのだろう」

『…おお』

「…本当に、凄まじい『力』を持った後継者だな。

 なので、我々は前日決めた『行動』をする。…良いな?」

『承知!』

 最後の確認に、メンバー全員は覚悟を決めて頷くのだったー。



 ○



 ーナイヤチの空が黄昏に染まる頃。俺は、メインフロア手前の通路で『その時』を待っていた。…気付けば、『証』を握る手に力が入っている上じんわりと汗で湿っていた。

 …久しぶりだな。『直前』で、緊張するのは。

 反対の手を胸に当てると、心臓は随分と激しいリズムを刻んでいた。

『ーさあ、皆様お待たせしましたっ!

 いよいよ、メインイベントの時間ですっ!』

「ー行ってこい、オリバーッ!」

「頑張れよっ!」

 だが、そんな俺の心境を知る由もない実況は『その時』を告げた。そして、応援に来てくれた先輩達のエールを受けー。

「ー押忍っ!」

 俺は緊張を振り払うように、腹の底から返事をしゲートを出た。

『ーおおっとっ!まずは、ライトゲートからオリバー選手が入場だっ!

 まさかまさか、-外-の門下生がこのイベントに参戦するとは一体誰が予想したでしょうかっ!?』

 直後、スポットライトが集中し実況はコメントを始める。

『しかし、その実力は条件付きとはいえあの-BIG3-を上回る程っ!故に、彼はまだルーキーながら-プレシャス-に抜擢されたのですっ!

 果たして、今日彼はどんなバトルを魅せてくれるのかっ!?』

『ウオオオーッ!』

『頑張れよーっ!』

 すると、観客席からも雄叫びやエールが飛んで来た。多分、『ポターランカップ』を見た人達だろう。


『ーさあて、お次はあの人っ!』

 そして、ステージに上がると今まで掛かっていた勇ましい入場曲が消え…優雅な曲が流れ始める。

『さあ、皆様っ!レフトゲートにご注目っ!』

 そのアナウンスに合わせ、複数のライトがゲートに集中した。…そしてー。

『ー来たぁーーっ!ミリアム=リーベルト選手だぁーっ!』

『キャアアアーーーッ!』

『ミリアムお姉さーーんっ!』

 リーベルト選手がゲートから出て来ると、実況は興奮しながら彼女の名前を叫ぶ。直後、会場は黄色い声に染まる。

『彼女は今回で3度目の参加とはなりますが、-若獅子頭-としては紛れもなく最初の公式試合となりますっ!

 また、噂ではこの大会後に-ラウンド・オブ・カノープス-の専属警護メンバーとしてこの地を離れるとかっ!?」

『ーっ!?』

 突然ぶっ込まれる衝撃情報に、当然会場は驚愕する。…うん、『ちゃんと』やってくれたようだ。

『仕掛人』である俺は『ちょっと驚いた』感じを装った。…まあ、直ぐに彼女には『バレる』だろうが。

『ーもしかすると、名実共に-若手最強-となった彼女の闘いは今日で見納めかも知れませんっ!』

 そんなコメントが終わるのに合わせ、彼女もステージに上がって来た。

「ー……。…本日は宜しくお願いします」

 そして、俺の前に立った彼女は直ぐにこちらの顔を少しの間じっと見て来た。…その後、短く挨拶する。

「(…あ、もう『60%』は越えたかな?)

 こちらこそ、宜しくお願いします」

 俺は彼女の内心を予想しつつ、挨拶を返す。

「ー礼っ!」

 直後、レフェリーの言葉に従い俺と彼女は互いに深く頭を下げそれから審判にも礼をした。…それが終わると互いに武器を構えー。

「ー始めっ!」

 それを見たレフェリーが、試合開始のコールをした。

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