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『当日・直前』

「ほう。…ちなみに、作品名を伺っても?

 あ、セキュリティ上の関係で仕事用と私用の端末をこちらで用意させて頂きますので、予めインストールしておきたいだけですよ?」

「…っ!…そ、そうですか……。

 えと、ホロムービーの方は『ヒストリー物』が好きです…」

 彼女が答える傍ら、クローゼは『瞬き』をした。…これは、『記憶完了』の合図だ。

「…そ、そして、データノベルの方は……。

 こ、こちらも、『ヒストリー物』。…それから『アドベンチャー物』……と、特に『プレシャス』が大好きですっ!」

 彼女は、だんだんと緊張しながら『プレシャス』のファンだと言った。

「(…なるほど。彼女は、『なるべくして』のパターンか。)

『初代』の活躍をご愛読頂き、本当にありがとうございます。

 それでは、貴女が船に乗るまでには準備しておきましょう」

「…は、はいっ!」

「……」

 彼女は嬉しそうに返事をした。…一方、所長は少し驚いた。

「(…なんだ?)後は、そうですね。

 ー受け付けない食材や、苦手な料理はありますか?」

「……はい?」

「……」

 すると、2人はまたまたぽかんとした表情になる。…なので、このタイミングで『あのルール』を話す事にした。


「実は、私の船には『クルーは出来るだけ3食を共にする』というルールがありましてね。

 そして、『楽しく食事』をして欲しいので予め確認しておきたいんです」

「……な、なるほど。……」

 すると、彼女は『どうして?』…という表情をした。…しかし、俺はー。

「ー申し訳ありませんが、『詳しい理由』は後で説明しますね」

「…っ!…す、すみません……。

 えと、食材や『その他』のアレルギーはありません…」

 彼女は謝罪しつつ、大丈夫だと答えた。

「分かりました(…まあ、『こういう所』に勤めてる人だから当然といえば当然か)。

 …とりあえず、今日はこの辺りにしましょう。

 ー後は、『旅の中』で見定めたいと思います。…そういう訳で、『宜しくお願いしますね?』」

「……。…っ!?」

 最後に俺は彼女に手を差し出す。…すると、彼女は少ししてぎょっとした。

「ーやはり、『最初から』採用するおつもりでしたか…」

 一方、所長はこちらの意図を正解に読み取っていた。

「…まあ、『仲間』や『上』が既に承認している状況ですしね。

 ー先程も言いましたが、ただ単純に彼女の事が知りたかっただけですよ。…そして、今回は『共同生活』は特に問題ないと分かりました」

「……」

「…それはなによりです」


「…あ、正式な契約は『後始末』が完了してからになります。まあ、『あまり時間は』掛からないですよ」

「は、はい、分かりました」

「……」

 彼女は恐縮しながら頷くが、所長は『後半の言葉』に引っ掛かっていた。

「(…いや、本当に鋭い方だ。)

 それでは、これにて失礼致します」

「失礼致します」

 俺は内心感服しながらクローゼと共に礼をして、ルームを後にするのだったー。



 ◯



 ー数時間後。ファイターエリアに戻った俺はランスター達とさっとランチを済ませ、会場内のカーファイコミュニティにて待機していた。

『ーせいやっ!』

『はっ!』

 コミュニティ用のルームにあるモニターでは、『カラテアーツ』としなやかな動きの『ソフトアーツ(柔拳)』のファイター達が拳を交えていた。…はあ、マジでレベル高いな。

『ーとおりゃっ!』 

『ふっ!』

 2人の腕に圧倒されていると、試合は佳境を迎える。…カラテアーツの人が放つ素早く力強い拳を、ソフトアーツの人は巧みに回避し素早く背後に移動しー。

『ーそこまでっ!』

 ソフトアーツの人が掌打を放とうした瞬間、レフェリーは試合を止めた。…勿論、ソフトアーツの人はきちんと寸止めをしていた。

 なぜなら、それが『ルール』だからだ。

『ーワアアアーーッ!』

 試合の勝敗が決まると、今まで固唾を呑んで見守っていた観客が一斉に歓喜する。

「ー良し、次は我が門下の出番だ。…相手は、クロフォードの者か」

 それを見ていた老師匠は、静かに告げた。…いや、正直『イメージ』が出来るので有難い。


『ーおおっ!』

 すると、ステージを挟んだ左右の入場ゲートにライトが当たりそこから2人の選手が出て来た。

『ーさあさあ、次はカーファイ流とクロフォード流の-若手指導員-同士のマッチだ。果たして、勝つのはどちらだっ!?』

 2人がステージに上がるまでの間、実況は簡潔に2人を紹介した上で会場をヒートアップさせる。

『……っ』

 そして、映像はこれから戦う2人の顔をアップになる。…その時、老師や師範クラスの人は僅かに『おや?』…という顔をした。

 なので、俺もモニターを注視する。…ライトサイドに立つ先輩は、こんな大舞台にも関わらず過度の緊張は見られなかった。

 まあ、『慣れ』もあるのだろう。そして、レフトサイドに立つ女性選手はー。

『ー………』

 凄い決意に満ちた様子だった。…というか、何だか『必死さ』すら感じる。

『ー礼っ!』

 それに気付くのと同時に、両者はレフェリーの言葉に従い互いにお辞儀をしそれから審判にも礼をする。

『始めっ!』

『ーおおっと、アニ選手素早く-武踊-を始めたっ!』

 …なるほど、あれがフェンアーツの『舞』か。

 彼女は、開始直後鮮烈な『武踊』と呼ばれる『ダンス』を始めた。それからほんの少し後に、先輩が高速の3連突きを放つ。だがー。

『ーああっ、ジーノ選手の攻撃はアニ選手に届かないっ!』

 …『攻防一体』か。

 実況の言うように、先輩の攻撃は悉く彼女のフェンに弾かれる。…うーん、これは随分と『ハード』だな。


『……っ』

 先輩は一度随分と距離を取り、そこからダッシュで彼女に向かう。そして、直前でジャンプした。

『ージーノ先輩、跳んだっ!そのまま、バトンを……いやっ!?』

 しかし、彼女は既に最初の位置からかなり移動していた。…カメラが切り替わっていたのは、およそ10秒。

 その間に、あんなに遠くに。…流石は、若手指導役と言った所か。

『ーなんとっ!アニ選手も距離を取ってしまったっ!?

 さあ、ジーノ選手どうするっ!?』

「ー……っ」

 先輩の対処をしっかり目に焼き付けようと意気込んでいると、『仕事用』の端末が振動した。…はあ、仕方ない。後は、『闘いながら』だな。

 正直凄く試合内容が気になるが、俺は一旦コミュニティルームから出てトイレに向かう。

『ーサイバーコマンダーより、エージェント殿へ。

 試合前の大事な時に申し訳ありません。ですが、どうしても速やかに共有しておきたい情報がありご連絡させて頂きました』

 メールを確認すると、相手は『サイバーコマンダー』…ディータ中尉からだった。


『現在、全ポイントの制圧作戦は一時中断しています。その理由は-下の画像-にあります』

 ー…うわ、何だこれ……。

 スクロールすると、巨体でグロテスクな見た目の『エッグ』が表示されたので思わず顔をしかめてしまう。

『恐らくは、-コレ-こそがサーシェスの仕掛けた-凶悪な爆弾-なのでしょう。問題は、-コレ-の扱いです。

 今の所、発動の気配はないようですがモーントと-こちら-はレッド判定です。つまり持ち出す事も、現場で無力化する事も難しい状況です』

 …マジか。…まあ、それが『トリガー』になりかねないしな。かと言って、『時間』が来るまで放置ってのはもっと無しだー。

 俺は、直ぐに返信のメールを送る。…勿論、ちゃんと『対策』を記載している。

 ー…はあ、本当『丁度良い』タイミングだな。

 そんな事を考えながらメールを完成させ、返信する。そして、コミュニティに戻るとー。

『ーそこまでっ!』

『オオオオ~ッ!』

 やっぱり、試合は終わっていた。…どうやら、勝ったのはアニ選手のようだったー。

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