「ーっ!(…はあ、また『ココ』か)」
パインクトに来て2日目。今日も俺は、シミュレーション空間にて『攻略』のトレーニングをしていた。…のだが、今日も『同じポイント』で引っ掛かっていた。
「ー(…まだ『時間』はあるな)リセット」
『ラジャー』
俺は直ぐに気持ちを切り替え、リアルの時間を確認してからシャロンにオーダーを出す。
すると、赤い非常灯に照らされたコクピットは元の状態に戻りメインモニターに映る光景も『スタート地点』に戻っていた。
『それでは、take20を開始します。
カウント、10ー』
そして、彼女はカウントを開始しゼロになるのと同時に俺は操縦桿を前に倒す。
直後、モニターの映像は『巨体彗星の真ん前』になった。…っと。
俺は、『ウシ』をその彗星に『ライド』させる。これは、随分とスムーズに出来るようになった。…ただー
『ーライトサイド、アングル15!カウント10!』
少しして、シャロンは『到達地点』の位置をアナウンスする。
『ー3、2、1、0!』
ゼロのタイミングで1つ目の彗星から降り、『そこ』に無事に着地した。
ー…そう。実は今の時点で、既に到着までの工程は出来るようになっていたのだ。
つまり、問題は『帰り』の工程だ。…これが、なかなかにシビアなのだ。
『ーターゲット回収完了っ!
リターン用通過まで、カウント15』
そして、『回収フェーズ』が完了し俺は帰還の準備をする。…だがー。
『ー…っ!』
またしても、『難関ポイント』で操作ミスをしてしまいコクピットは赤い非常灯に照らさてしまった。
『ーミッション、フェールド』
「…はあ」
そして、目の前には『失敗』と表示されたエアウィンドウが展開する。…いや、マジでムズい。…っと。
ガックリとしていると、堅い印象を受けるアラームが鳴った。
「…わりぃ。ちょっと休憩がてら『定時連絡』を聞いてくる」
『了解しました』
『それでは、ログアウトを始めますー』
2人にそう言った直後、俺はリアルに戻り始めたー。
「ーお疲れ様です、イリーナ班長」
そして、俺はシュミレーションルームから通信ルームに移動し『ゲスト』の元にいる遊撃部隊
メンバーと通信を始める。
『お疲れ様です。
…それでは、-こちら-をご覧下さい』
班長は挨拶の後、データを表示した。…ふむ。
『まず、午前の段階で10人の調査が終わりました。…今の所、-それらしき-人物は見当たりませんでした』
「分かりました(…まあ、そう簡単には見つからないか)」
『そして、もう1つの調査の方はこちらです』
「ありがとうございます。…っ。これはー」
モニター内にサブウィンドウが展開すると、見出しの直ぐ下に『変装』の事が記されていたのだが、それを見て少し驚いてしまう。
「ーなんて事だ。…あの『ワーカー』達は、トオムルヘに出入りしていたのか」
『…はい。後は、上から順に-ファクトリー代表-、-バイヤー代表-、-民間人-となっていますね』
「……(…うわー、案の定上の2者はロクデナシだな~。そして、民間人はかなりタイプが分かれてる。
…厄介なのは、この『情報屋』だ。)
…『情報屋』について、ゲストはなんと?」
俺は、『要注意』と特記された情報屋について聞いてみる。しかし、班長は申し訳なさそうにした。
『…それが、どうも-そこ-はかなり細分化しなければならないようなのです。
しかも、どうやらゲストは一部しか把握していない可能性があります』
「…なるほど(…はあ。ちょっと不安事項が出てきたなぁ。…場合によっては、『エネミー』判定で対処するしかないな)」
下手をすると、そこから『連中』に俺達の事が漏洩しかねないので予め備えておく必要がある。…やる事が増えて頭が痛くなるが、とりあえず次の項目…『文化』を見た。
「ー…まあ、特に変わった習慣や『禁止』もしくは『変更』になってそうなモノはないですかね」
『こちらとしては助かりますがね。…ただ、実際先行調査してみてからですが』
「…ですね(…まあ、結局は『ナマ』で見た情報が一番強いんだよな)」
俺も班長も、予想だけで判断はしない。何故なら、ゲストから聞いた情報は『鮮度が不明』だからだ。
「となると、先に『言語』の方に取り掛かりましょう。
…ところで、ゲストとは『通訳』を介してお話したのですか?」
『半分の方々とはそうですが、もう半分の片方とはそのまま会話しました。
あ、音声データを送りますね』
「ありがとうございます(…驚いたな。ディノー氏だけではなかったとは。…もしかして、彼が教えたのだろうか?)。
では、引き続き宜しくお願いします」
『了解です』
そして、通信は切れたので俺は再びシミュレーションルームに戻るのだったー。
○
ーSide『ゲスト』
ー艦隊共通時間で、そろそろ午後になる頃。昼食を終えたトオムルヘのゲスト達は、ゲスト用のフロアに戻ってそれぞれ自由な時間を過ごしていた。
『ー…っ』
そんな時、彼らはまたビクっとしてしまう。…何故なら、自分達とは違い見事に鍛え上げられた体躯を持つ眼光の鋭い集団…かの有名な『カノープス』のクルー達と出くわしたからだ。
『ー何で、彼らは我々の処に?』
ゲスト達は、皆当然ともいえる疑問を抱いていた。…中にはー。
『ーもしや、我々の中に-内密者-がいるのでは?』
クルー達はまるで犯罪者でも探すようなピリピリした空気を纏っていたので、そんな疑惑を抱く人もいた。…ただー。
『ー……ウザ』
その2つの反応以外の感情を込めた視線を向ける人達もいた。1つは、新たな自分達のテリトリーに侵入して来た彼らに苛立ちを見せる者ー。
『ー……うぉお、マジ感激~』
1つは、文字通り連盟内に星の数程いるファンと同じ歓喜の視線を向ける者(どうやら、『乗っ取られる前』は普通に流通していたようだ)。
…そしてー。
(ー…………)
彼らの放つ威圧的な空気を感じ、咄嗟にトイレに隠れる者。…その人は、個室に入り冷や汗を流した。
(…ヤバい。…完全に、『疑って掛かって』来てる)
つまりは、オリバー達の想定した通り『内通者』は居たのだ。
(…ふう、『敵対グループ』に同調出来たのは幸い…かどうかは微妙な所だか、『取り調べ』を回避する事はー)
『ーゲストの皆様にお知らせします。今から名前を呼ぶ方々は、-可能ならば-第1~第10ミーティングルームにお越し下さい』
その人がそんな事を考えていると、本日2度目のアナウンスが流れる。…あくまで、『任意』だからこそそんな回避策が出て来たのだろう。
(ー…とりあえず、呼ばれたら直ぐに彼らとコンタクトを取ろう)
その人は、いつでも連絡を取れるようにしていたのだがー。
『ー以上です。それでは、失礼します』
結局、2度目もその人は勿論グループの人も呼ばれる事はなかった。
(…ふう。…生きた心地がしないな)
とりあえず、その人は安堵し念のため外は様子を伺ってから個室を出た。
(…ただ、回避出来たとして『纏めて疑われる』可能性もある。…クソ、貧乏くじ引かされた)
その人は、グループの元にまっすぐと向かって行く。…その心中は、穏やかではなかった。
(…はあ。いくら『今後の保証』の為とはいえ、『リスク』がデカ過ぎる。
…ああ、なんかトラブルでも起きねぇかな~?)
ー実は、この人物はサーシェスに『もし-今住んでる星系に来たら-偶然を装って乗り込め』と依頼されていたのだ。…そして、その見返りに『ヴァル』と『仕事』と『住む場所』を貰う事になっている。
だが、今のこの状況は確実にこの人にとって非常にマズいのだ。…もし、自分が内通者だとバレればサーシェスから『切られる』のは勿論、即営倉行きだろう。…そして、近くの連盟内星系で厳しい判決が言い渡され牢獄かあるいは資源衛星送りだろう。
つまり、かなりヤバい橋を渡っているのだ。…だから彼は、願わずにはいられない。
ーデカい『トラブル』が起きて、『取り調べ』をしている余裕がなくなる事を。
…奇しくもその願いは叶う事になる。ただ、それは決して偶然ではなく必然的に起きる事をその人は知る由もなかったー。