『…やはり、そうですよネ……』
「勿論、早急に対処させて頂きます。
…それと、出来れば陛下の行方を教えて頂けますか?」
『…ありがとうございマス。…確か、陛下の方は連盟領域外ノ-未開発星系-経由で-ブルタウオ-に向かう手筈になっテいます』
そう言うと、彼は沈んだ表情を少し明るくし『予定』を答えてくれた。
「(…とりあえず、閣下と防衛軍本部に連絡だな。)分かりました。
…では、一旦通信を終わらせて頂きます。何か動きがありましたら、そのつど艦の人にお伝えしますね」
『ハイ』
そして通信を切り、ブラウジス閣下とブルタウオ星系防衛軍に報告メールを送った。
ー…あ、もうディナータイムか。
それが終わると同時に、ディナータイムを伝えるメロディが鳴る。
俺は端末をウェイト状態にして、ダイニングルームに向かう。
「ーあ、こんばんは。オリバーさん」
すると、なんの因果かウェンディー少尉と最初に顔を合わせた。
「こんばんは。ウェンディー少尉(…どうしよう)。
今からですか?」
とりあえず、何にもない風を強く装いチラリとルーム内を見渡す。
すると、彼女だけでなく他の隊員もいた。どうやら、今日は早めに終わったようだ。…まあ、『明日からの予定』に備えての事だろう。
「はい。…えっと多分オリバーさんは、隊長達から直接聞いていると思いますがー」
そして、少尉は図らずともこちらの予想が合っている事を教えてくれた。
「ーなるほど。…ただ、もしかするとちょっと変則的になるかもしれないですね」
「…そういえば、先程隊長陣が少しピリピリしていましたが。
…結局、『レプリカ』に乗っていた人達は『問題ない人達』なんですよね?」
「ええ。そこは間違いないです」
「ーあ、マスター。それとアルスター少尉。お疲れ様」
「「お疲れ様です」」
並んで話しながらカウンターに行くと、エプロンを着けたティータとランスター姉妹(フェイクモード)が出迎えてくれる。今日は、彼女達が夕食当番だ。
「お疲れ様です」
「3人もお疲れ様」
俺と少尉が返事をすると、3人は慣れた手つきで、素早くそして丁寧に非常に美味し…いやら確実に美味しいという匂いを漂わせるディナーメニューを揃えカウンターの上に2つのトレーを置いた。
「…どうやら、ウデを上げたようだな?」
「…まあね。マネージャー・カノンや、『メンバー』内のクッキング好きにいろいろ教わってるし」
「…あはは。…こっちに来るまで基本インスタントでしたから、最初は不安でしたよ。
でも、皆さんのおかけで大分出来るようになりました」
「…まあ、かなりスパルタだったけどね。…こんな事なら、クッキングスキルもマスターしておくんだった」
その事を褒めると、ティータは少し照れながら、アイーシャは嬉しそうに、イアンは『その事』を思い出したのか若干憂鬱になっていた。
「あはは…」
「大変だったみたいだな。…じゃあ、頑張ってな」
最後のを聞いて、少尉は苦笑いを浮かべつつトレーを持つ。一方俺は、軽く返してトレーを持ち3人に笑い掛けてカウンターを離れた。…さてとー。
そして、また並んでそこから少し離れた所にある席に向かう。ちなみにこの席は、俺のお気に入りの場所だ。何せ、今このカノープスに乗っている人達全員が見れる場所にある席なのだから。
「ー……けれど、その人達はどうやって『レプリカ』を入手したのでしょうか?」
席に座ると、少尉は先程の話を再開した。
「…その辺りは、後で皆さんにお話ししますよ」
「…もしや、彼らとリモートで面会したのですか?」
それだけで、少尉は察したようだ。…いや、本当スムーズに話しが出来るな。
そんな事を考えつつ、俺は頷く。
「ええ。…彼らはなかなかハードなトラブルを抱えていましたよ。
恐らく、此処での『チャレンジ』が終わったタイミングで結成直後に発令されたあの奪還任務以上の、高難易度ミッションが発令されるでしょう。
ーその時はどうか、力を貸して下さい」
「……了解です」
俺は淡々と予想し、最後に真剣に頼んだ。当然、彼女はとても真剣に応えてくれるのだったー。
◯
「ー総員、注目っ!」
それから、一旦はディナーを楽しみつつゆったりとした時間を過ごした後は気持ちを切り替え、俺はミーティングルームに来ていた。
そして、オットー隊長の隣に立つと隊長は真剣な声でオーダーを出す。
「こんばんは、『同志』の皆さん。
まずは、お疲れのところ集まって頂きありがとうございます。
…さて、既に聞いているかもしれませんが改めてお伝えします。
先程、当宙域にて『レプリカ』に乗った『トオムルヘ』の方々が監視艦隊に『保護』されました」
『……』
まずは、状況説明から入る。…それを聞いた若手メンバーは、若干動揺していた。
「…まあ、皆さんのお気持ちは良く分かります。
ただ、カノープスが『大丈夫』という判断を出したので皆さんもそのように対応して頂けると助かります」
『はっ!』
「ありがとうございます。
…次に、『待機期間中』についてですがこれも既に聞いている通り、翌日から『攻略』開始日までの間『戦闘に関わるメンバー』は監視艦隊に短期出向し、合同訓練をする事となりました。
…しかし、今の状況は『万が一』の事態が発生しかねないので第1陣と第2陣に分けます。
それについては、この後レンハイム隊長より発表があります。
…そして、出向する艦ですが向こうの責任者殿とミーティング前に『協議』した結果、『かの人達』が居る『トライグウィン』になりました」
『……っ』
当然、またしても彼らは動揺する。
「…その理由は、2つあります
1つは、この先ほぼ確実に起こりうる『任務』に備えトオムルヘの方々と交流をして貰う為です。
…少なくとも、言語や文化等は理解し身に付けて頂ければ『任務』をスムーズに行う事が出来るでしょう。
勿論、私も『やります』し『専属講師』による講義や『シュミレーション』による実践形式でのテスト等の『サポート』もしますので、ご安心ください」
『……』
『有難うございます!』
『…っ!有難うございます!』
こちらの告げた内容に、対象の若手メンバーは一瞬固まる。すると、オットー隊長含めた年上の対象メンバーはすかさず感謝を述べて来た。
それにより、若手メンバーはハッとし慌てながらそれに続いた。
「どういたしまして。
…ちなみに、出来れば残りのメンバーも可能な限り参加して頂ければと思います」
『はっ!』
「…そして、2つ目の理由ですが。
ーこれは主に、情報班にお願いしたのですが…。『彼ら』への『一次調査』をして頂けないでしょうか?」
『…っ!?』
『……?』
俺の要望に、情報班メンバーは驚愕する。一方、他の班は聞き慣れないワードに首を傾げた。
「…あの、エージェント・プラトー。質問をしても宜しいでしょうか?」
「勿論です」
すると、代表してユリア副隊長が質問して来た。
「…ありがとうございます。
『一次調査』というのは、どういうモノなのですか?」
「…そうですね。
ー簡単に言うと、『中立グループ』の中に『内通者』がいないかを『それとなく』探る調査の事ですよ」
『…っ!?』
そこでようやく、他の班も驚愕する。…まあ、『安全』って言っておいて『内通者』が居ると聞けば当然の反応だろう。
「…というか、良くご存知でしたね?」
イリーナ班長も俺が『専門用語』を知っている事に驚いた様子だった。
「まあ、ほとんど『例のスパイノベル』から得た知識ですよ」
「…そういえば、『アレ』もモデルは初代殿でしたね。
ー…あの、私も質問宜しいでしょうか?」
「勿論です」
すると、班長も質問の許可を求めて来たので頷く。
「ありがとうございます。
ー何故、『大丈夫』だという判定が出ているのに『内通者』が居るという判断されたのですか?」
「…そうですね。
これは、あくまでも私の『カン』ですがそもそも彼らがサーシェスに『再』捕捉されたのは、『内通者』がいたからだと考えています」
『……』
「…まあ、そうでなくとも『発信機』ぐらいは仕込まれていると考えるべきでしょう。
ー例えば、『それ』を仕込んだ地元民を適当な理由で追放し合流させるとか」
「……そんな場当たり的な……。…いや、連中ならその方が『星』になっても痛く痒くもないから、平気でやりかねない……」
「でしょうね。
まあ、もしかしたら幾つかの方法があるかもしれません。
…で、何でこれを皆さんにもお伝えしているかというと、『そういう空気』にして欲しいんですよ。
…というのも、多分ですが『向こう』もそんな予感をしているのでしょう。ただ、『身内を疑う事に非常に抵抗』を抱いているようにも感じました」
『……あ』
「…なるほど。その点、我々は『部外者』ですから『遠慮なく』疑えると。
…全く、つくづく恐ろしい人ですね」
「すみません、『嫌な役割』を手伝わせてしまって。…でも、彼らの身の安全を確保する為にはどうしても必要な事ですから」
「分かっています。
ー皆もそうだな?」
『はっ!』
オットー班長は嫌な顔をせずに了承し、メンバーに確認する。勿論、彼らも即座に敬礼し応えてくれるのだったー。