『ー…やれやれ、かなりの面倒が舞い込んだな』
それから1時間と経たずして、俺の報告メールを見たブラウス閣下から折り返しの通信が来た。…まあ、案の定閣下の表情には俺以上の困惑が浮かんでいた。
…その理由は、例の船に乗っていた人達の『出自』だ。
「…私も、まさか『純粋な生まれ』の人達が乗っているとは思いもしませんでしたよ」
そう。…なんと、『レプリカ船』に乗っていたのは『トオムルヘ出身』の人達だったのだ。
ーそもそも、かの星系は『サーシェス』の本拠地ではあるが…実はかの企業は、トオムルヘで誕生した企業ではなく別星系から来た企業らしいのだ。
その証拠に、かの企業の大半の人間は『多星系人種』なのだ。…まあ、多分『いろんな非加盟星系』を『テリトリー』にしながら渡り歩いて来たからだろう。
そして、今から凡そ10年前にトオムルヘに『本社』を設立した。…のだが、トオムルヘはとある加盟星系の『お隣』だった事もありそこから『とんでもなく恐ろしい噂』が流れて来た。
曰く、『サーシェスはトオムルヘ政権に不満を持つ軍に兵器を-無償で渡し-、クーデターを起こさせて政権を打倒させその見返りに、本拠地として承認させ本社を築いた』…と。
…ただ、残念な事にその噂を流した『トオムルヘ人』らしき人は精神に異常をきたしており、その星系の医療組織や政府もまともに相手をしなかったそうなのだ。
まあ、『サーシェス』に因縁がある人達…例えば『初代プラトー』やその『友人』等は『充分あり得る』と考えていたが、様々な『リスク』を考え調査をしなかった。
ーそれが、今になって『現状』を受け入れているであろうかの星系生まれの人達が『レプリカ船』に乗って、こんな超危険な場所まで来ているのだ。…どう考えてもー。
『ー…しかも、まさか同志プラトーと面会したいと申し出ているとはな……』
「ええ(…絶対『トラブルの種』だよなぁ。)…どうしましょう?」
『…下手をすると、-大事-に発展する可能性のある事案だ。
私の一存では、到底決める事は出来ない。…かと言って対応が遅れれば、-最悪-な事態が発生する可能性もある。……ー』
閣下は非常に悩んでいた。…だが、少しして顔を上げられた。
『ー…とりあえずは、彼らの-事情-を聞くしかないだろう。
その上で、もし仮に超極秘かつ緊急対応が必要な事案ならば陛下にご判断して頂くしかない。
なので、事情を聞いたら-判断を待って貰って欲しい-と伝えてくれ』
「了解しました。それでは、失礼します」
『頼んだぞ』
そして、通信は切れると同時にユイセランに繋ぐ。
『ーあ、エージェント・プラトー。…どうでしたか?』
「たった今、ブラウジス閣下から『許可』が出ましたので-面会-の準備をお願い致します」
『分かりましたー』
中将は了承した後、彼らの代表が居る通信ルームにオーダーを出す。
それから少しして、モニターの画面は切り替わり代表の少しやつれた男性が映し出された。
「ー初めまして。私が、『プラトー三世』です」
『…ッ、貴方ガ……。…コチラこそ初めマシテ。
私ハ、ジャック=ディノーと申しマス』
彼…ディノー氏は、カタコト混じりに話した。…通訳機頼りじゃないのか。…つまり、ある程度『教養』のある人という事だ。
彼の名乗りを聞いた瞬間から、『予想』し始まめる。
「宜しくお願いします、ディノーさん。
…それで、早速お聞きしたいのですが……。
ーどうして貴方達は私に『助け』を求めて来たのですか?」
俺は真剣な表情で、彼に問う。
『ーッ!…どうして……』
「(…はあ、やっぱりな。)…なに、『状況』と『情勢』と『噂』からそう予想しただけですよ」
すると、案の定図星だったのか彼は驚愕した。なので、簡潔にタネを明かした。
『……やはり、貴方ハ紛れもナク-後継者-なのですネ。
…出来レバ、-もっと早く-お会いしたかっタです……』
…うわ、分かっていたけどやっぱり『あの噂』はマジだったんだ…。
それを聞いた彼は、納得の直後非常に残念そうな顔をした。…つまり、彼はー。
『ー…スミマセン。
…まずハ、私の-かつての身分-から明かしましょう。
私ハ、前トオムルヘ政権外交官です』
「…っ!(なるほど。…だから、連盟共用言語を習得していたのか)
そうでしたか…。…となると、他の方達も前政権の要職の方々なのですね?」
『その通りデス。
…けれど、今ヤ我々は-現政権-に追い回される身の上になってシマイました』
すると、彼は沈痛な面持ちで本題に入る。…『飼い殺し』でなく追放処分でもなく、追跡対処になってるってどういう事なのだろうか?
『…その理由は恐らく、前政権の-トップ-と我々ガクーデターの-不当性-を知る数少ない-証人-だからです』
「…なっ!?(噂じゃ、前政権…すなわち旧『トオムルヘ王国』の国王はクーデターの最中『星』になったんじゃ……。)
…まさか、国王陛下が生きておられるのですか?」
『…そのゴ様子だと、どうやら-撒いて貰った-噂ガ効いてイルようですね。いや、良かっタ』
俺の反応を見た彼は、かなり意外な事を言う。
「…『撒いて貰った』?…もしや、外部にサポーターがいるのですか?」
『ハイ。…実は、陛下と我々ガ無事二トオムルヘを脱出出来たのも-その方-のおかげなのデス。
その上、その方は偽の情報を流してくれマシタ。…曰く、-その方ガ、サーシェスにとって困る事になる-と』
…とんでもねぇ人物がサポーターになってるみたいだな。…まず、前政権のトップや重臣達に信用を得られている事事態が信じられない。
いくら、『今』とは違うとはいえ一体どうやって中枢にコネを?
それに、かなりの度胸と『ラック』…場合によってはかなりの『戦力』がある。
サーシェスを出し抜けたとして、バレれば『要排除ターゲット』に認定され四六時中狙われる事になるのは分かっていた筈だ。
そのリスクを冒してでも、そのサポーターは国王と彼らを助ける事を選んだ。それを成すためには、度胸とラックと…『ウチ』並みの戦力が必須だ。
そして、最後に情報の分野においてかなり『信用』があるのは間違いないだろ。…現に、こうして信憑性のある噂として『かの星系』経由で広かっているのだから。
俺は、正直そんな人物が存在しているとは信じられなかった。…だから、自然と聞こうとしてー。
ー…いや、止めておこう。…彼らにとってはまさに命の恩人なその人物の事を解き明かすのは。
なんとなく、『俺(プラトー)』と近い感じな人物だと思い聞くのを止めた。多分、それが『互いにとって良い事』だろうから。…それよりもー。
「ーそうでしたか…。
…あの、1つ確認しておきたい事があるんですが……。
貴方達は、『国王陛下』と別行動を取っているのですか?」
『……ハイ。…実は、最近になってトオムルヘ軍や-支社-のある星系の軍で構成された-合同追跡部隊-に捕捉されルようになってしまったのデスク……。
なのデ、-3つ-に分割したのです』
「(……なんか、引っ掛かるな。)…それって、『レプリカ』を運用してからですか?」
『…イエ。そもそも、このレプリカは脱出時に-恩人殿-が手配してくれたモノなのデス』
話の流れで気になっていた事を聞いたら、またもやとんでもない答えが返って来た。
「(……いや、本当何者だ?…ただ、それだけの手回しの出来る人間が『そんな些細なミス』をするとは思えないな。
となると、考えられるのはー)…なるほど。事情は分かりました。
ーですが、大変申し訳ないのですが返事は直ぐには出来ません」
俺は、心底申し訳なくなりながら彼に言った。