ーその後はスムーズに『ドラゴン』に到着し、直ぐに『シークレットフロア』に移動する。
「お帰りなさいませ、マスター」
「ただいま、カノン。……ー」
フロアに入ると、カノンが出迎えてくれた。…そして、俺は彼女の後ろにある『銀色の7つのカプセルベッド』に視線を向ける。
ーその中には、全身銀色の『ヒト』のようなモノが眠っていた。
「…さて、それじゃあ始めよう。
ー『皆』、準備は良いかな?」
『エエ』
『ハイッ』
『OKデス』
『大丈夫ダ』
『何時デモ大丈夫デス』
『良イデスヨッ』
『勿論デス』
俺は、そのカプセルベッドが囲んでいる大きなマシン…カノープスのメインコンピューターに向かって声を掛けた。…直後、7つの返事がスピーカーから聞こえる。…そう、あの中には『セブンガーディアン』が居るのだ。
つまり、これから契約書類に記載された『待遇』の2つ目…『活動に最適なボディ』を『用意』するのだ。
そんで、何で彼女達がメインコンピューターに入っているのかというとー。
「ーそれでは皆様。
『小旅行』を楽しんで来て下さい」
カノンはそう言うと、エアウィンドウに表示された『スタート』をタップする。…直後、メインコンピューター本体が微かな銀の光を放ち始めた。
『ー…ッ……』
すると、彼女達はまるで急激な眠気に襲われたかのように沈黙した。…良し、どうやら問題なく『小旅行』が始まったな。
俺はホッとし、再びカプセルベッドに目を向ける。
ー今、彼女達は『カノープスの中』を『隅から隅まで』見ているのだ。これには、2つの意味がある。
1つは、『これ』をすると『カノープス』自らが『彼女達』用の『副管理者権限』を作成してくれるのだ。
そして『それ』を作っておく事で、俺とカノンが居なくても彼女達やランスター姉妹だけでこの船を運用する事が可能なのだ(姉妹は、プリインストールされていたサイバー空間にて『承認』済み)。
そして、2つ目は『ラーニング』。…まあ、何人かは既に専門ジョブとして動いているがある程度は『他の所のシステム』もラーニングしておけば、サポートに回れるようになるだろう。
ただ、基本的に『専門部署のサポート』はメアリー謹製のコピードール頼りになるだろうから、あくまでもキッチンとかバスとかクリーニングとかの『家事システム』がメインだ。…要は、『家事当番』の為だな。
ーお。
そうこうしている内に、『小旅行』と平行してカプセルベッドにも変化が起こる。
まず、ブラインドが展開し中の様子が見えなくなり…直後に、『それら』も微かに光を放つ。
だが、その現象は数分で収まりブラインドも収納された。
ー勿論、中身は劇的に変化していた。
先程までベッドの中に入っていたモノは、手足を除きピッチリとした白銀のボディースーツに覆われていて、トップスは一目で『ポジション』が分かるジャケット。ボトムスとシューズとグローブはそれぞれ個性豊かなモノを装着していた。
そして、何より『それら』はつい昨日まで彼女達が拝借していたガイノイドと全く同じ姿をしていたのだ。…いや、凄いな。
実際、俺も見るのは初めてだからかなり驚いた。
「ーマスター。『小旅行』間も無く終了します」
すると、カノンは報告する。…その表情は、微かに驚きを顕にしていた。まあ、彼女自身も『見るのは』初めてだから当然だろう。
あえて触れず、俺は『その時』を待った。…直後、メインコンピューターが放っていた光も収まる。そしてー。
『ー……』
彼女達は目を覚まし、同時にベッドのカバーがオープンした。
「ーおはよう。気分はどうだ?」
ゆっくりと起き上がった彼女達に、俺は笑顔で確認する。…すると、彼女達の中心に立つフラクセンカラー(麻亜色)のプリンセスカットの品性が高そうな女性が、真っ先に前に出た。
「おはようございます。マスター・オリバー。…とても清々しい気分です」
彼女は、先日正式にライトクルーになった『元セブンガーディアン』のリーダーの『クローゼ』だ。
「それは良かった」
「…はあ。とても貴重な体験でしたねぇ」
「全くです。…まさか、カノープスが『あれ程』だったとは」
「…というか、『スペック』ヤバくないかこの『身体』…?」
返答に喜んでいると、後ろでメアリー、シャロン、ディータの『技術組み』がそれぞれ感想を口にする。
「まあ、色々感想はあるだろが取り急ぎ出発の準備を初めてくれ」
『ーっ!イエス・マスター』
すると、カノンと彼女達は笑顔で応答し素早くシークレットフロアを出て行った。…さて、俺も行こう。
そして、俺は一度通路に出てから『コクピット』に入る。
「ーお待たせ。
さて、クローゼ。『サブクルー』の皆さんはちゃんと乗っているかな?」
「はい。大丈夫です」
パイロットシートに座りつつ、既に定位置に着いていたクローゼに確認すると彼女は即答で答える。
「良し。
ロゼ、食料は確認したな?」
「はい、こちらで購入した『ベジタブルとフルーツ』を除く2~3週間分の食料品は全てチェック済みです」
「良し。
ティータ、アイーシャ、アイン。『サポーター』はきちんと固定アームでホールドしたな?」
「当然だ」
「勿論ですよ」
「…バッチリだよ」
「良し。
アンゼリカ、『好物』は十分あるな?」
「はい。食料と同じくらいの量は用意出来てます」
「良し。
シャロン、セリーヌ。『出口』の座標は入力済みだな?」
「ええ。ちゃんと『安全な場所』に出られますよ」
「ですからご安心下さい」
それから次々とライトクルーに確認していくと、聞かれたメンバーは即答した。
「良し(いや、ホント今までと比べて『早く』出れるようになったよな)。
ー出発準備完了。…カノン、港の方に繋いでくれ」
「イエス・キャプテン」
俺はスムーズさに少し感動しつつ、カノンにオーダーを出す。
「ーこちら、『アドベンチャーカノープス』。プラトー三世です。出港許可を願います」
『了解しました。-アドベンチャーカノープス-の出港を許可します』
すると、俺用のモニターに管制官が映し出されたのでこちらから名乗り出港許可を申請する。
まあ、当然許可は直ぐに降り『ドラゴン』を固定していたアームが解除される様子がメインモニターに流れる。
「ありがとうございます。
ースラスター、イグニション」
『スラスター起動確認。…キャプテン・プラトー。この度は誠にありがとうざいました』
それを確認し、スラスターを起動。『ドラゴン』を徐行運転で前進させる。…すると、ふと管制官の人が感謝の言葉を述べた。
「お役に立ててなりよりです。
ーそれでは、さようなら」
『ハイッ!どうか、道中お気をつけてっ!』
そして、俺達は見送りを受けつつ宙軍港を出たのだったー。
○
ーSide『マイスター』
ーようやく戻って来た日常に周りの人達は喜びつつ1日を過ごしている中、恐らく彼女…アイリスは唯一しょんぼりしていた。
(…あ、そろそろ『カノープス』が旅立つ時間ですね)
予めプラトーから出発時刻を聞いていたので、彼女は念のため時間を確認してから、空を見上げた。
(…はあ。『正式にクルー』になるには、およそ『1年』ですか……)
内心で何度目かのため息を吐き、彼女は歩き出す。…正直、彼女は『自分が一年早く生まれていれば』と思っていた。
(…まあ、それはそれで『別の進路』を選んでいたでしょうからある意味『良かった』…かもしれませんね……)
「ーあ、フェンリーさん。こんにちは」
『こんにちは』
「こんにちは。ハミルトン先生、皆さん」
そんな事を考えながら、彼女は5コマ目の授業の場所に向かう。すると、道中本日無事に復帰したハミルトン教諭と同級生達と出くわした。
なので、彼女は瞬時に気持ちを切り替え笑顔で挨拶した。
(…それにしても、普通にコミュニケーションが取れるようになりましたね)
彼女は内心で『この状況』…つまり、移民組と何の問題もなく会話が出来ていることに改めて驚く。
「…フェンリーさんは、あまり驚いていないようですね?」
そして、揃って歩き出すとハミルトン教諭は彼女の様子を見て『知っている』と判断したようだ。
「…あ、実は公用語を覚えたての頃ちょうど『当番』だったので彼女にいろいろと聞いたんです」
すると、少し前に彼女を頼って来た男子生徒が事情を説明する。
「…あの時は本当に、ゲート前にて職務をされていたハミルトン先生と同じくらい驚愕しました。勿論、あの日からも日々驚いています」
「…なるほど。…本当に、ブライトさんには感謝しかありませんね」
「…っ。…まさか、ブライト先生が?」
「…いえ、彼は『本職の知り合い』に繋いだだけだそうです。…それでも、十分有難い事ですが」
「…随分と、顔が広いんですね(…本当に、不思議な方ですね。…ポターランカップでは並み居るベテランや『BIG3』を抑えて優勝。 そして此処でも、『あの人』でさえも入手出来なかった『手掛かり』を…。……まあ、焦らずとも『いずれ分かる』でしょう)」
彼女はオリバーの事を考えつつ、彼らと共に実習ルームに向かうのだったー。
ーこの時、彼女は予想すらしていなかった。…『恩人であり将来の雇い主』と『興味を抱いた人』が同一人物である事を。
…そして、『それを知る日』が『前倒し』になる事も。