ーSide『ライトスタッフ』
「ーおはようございます!」
初夏の早朝。ファームスクールの職員ルームに、『懐かしい声』が轟く。
『おはようございます!』
そして、同僚達も全員立って彼を出迎えた。…そう。今日は、講師ハミルトンの復帰の日だ。
「ハミルトン先生。おはようございます。
それから、復帰おめでとうございます」
「ありがとうございます、学長」
学長のシュミットは、ゆっくりと彼に近き手を差し出す。勿論、彼はその手を握る。
そして、両者は固い握手を交わした。
「…さ、それでは早朝ミーティングを始めましょうー」
学長は本当に嬉しそうにしながら、『今後の予定』について話し始めたー。
ーそれから数時間後。彼はスクールゲートの前にいた。
「おはようございますっ!」
『おはようございます!ハミルトン先生っ!』
『退院おめでとうございます!』
彼にとっても実に1ヶ月ぶりとなる、『生徒との交流当番』だ。
尚この時間は、『部活』に所属する生徒達がちらほらと登校して来ていた。…そして、生徒達は彼を見てとても嬉しそうにする。中には、涙を流す生徒もいた。
それだけ、彼は人望があるという事だ。
(ー本当に、自分は幸せ者だ。…はあ、いけないな。ますます『別れ』るのが辛くなる)
そんな生徒達を見て、彼は幸せを感じると共に…寂しさや辛さも込み上げて来る。
ー何故なら、間も無く『旅立ち』の日…『卒業式』がやって来るからだ。
勿論、今まで彼は何度も経験して来た。だが、やはり3年…場合によっては6年も教えて来た愛しい生徒達の旅立ちは、嬉しく誇らしくもある反面喪失感も与えて来るのである。
『ー…でさぁ、昨日のアレって……っ!』
(ー…いけないいけない。今日は、久しぶりに生徒達と顔を合わせる日だ。元気良く……?)
感傷に浸っていると、生徒達の話し声が聞こえて来たので彼は気持ちを切り替える。…だが、ふとその生徒はこちらを見て固まっていた。
「ー……え?」
そして、直後彼も固まる。…何故なら、『こんな時間に来る筈の無い』と思っていたからだ。
「…あ、ハミルトン先生っ!おはようございます!」
『お、おはようございます!』
「……っ!お、おはよう……」
次に驚いたのは、彼や『彼と似た境遇の生徒達』が他の生徒達と共に登校し…尚且つ彼らやハミルトンと普通に会話出来てるという事だ。
そのせいで、彼は元気良く挨拶を出来なかった。
「…キミ達、いつの間に『公用語』を?」
少しして、彼は生徒達に聞いてみる。…すると、皆満面の笑みを浮かべた。
『ブライト先生に、-色々-して貰いましたっ!』
「…な……」
「…いや、俺達も最初は先生みたいな反応でしたよ」
『…だなー』
3回目の驚愕をしていると、他の生徒達も同感していた。
「…あ、とりあえず『事情』はブライト先生に聞いてください。
失礼します」
『…し、失礼します』
そして、ハミルトンが口を開こうとすると『移民組』と呼ばれていた生徒の1人はそう言い、お辞儀してからスクールに入る。
その後を、他の生徒達…おそらく同じ部活に所属している『メンバー』が慌てて追い掛けた。
(ー私が入院している間に、一体何が……)
ハミルトンは、そんな彼らの後ろ姿を呆然と見つめるのだったー。
◯
ーお、やっぱり『来た』な。
イデーヴェスでの最後の昼時。ランチを済ませた俺は、拠点のリビングでのんびりくつろいでいた。
すると、『予想通り』コールが入ったので素早く出る。
「ーはい、こちらブライトです」
『おはようございます、ブライト先…さん。お昼時に失礼します』
すると、昨日ようやく退院したハミルトン先生がモニターに映し出される。
「いえ。
ーそれで『何から』聞きたいですか?」
『…っ。…私が、通信をする事もお見通しですか』
「まあ、『彼らたっての希望』だったので意図的に『引き継ぎ』しませんでしたからね。…そのご様子だと彼らの『サプライズ』は無事に成功したようですね」
『……なるほど。彼らが。
ーそれでは、-経緯-を聞かせてくれますか?』
「分かりましたー」
そして、俺は『ちょっとぼかし気味』にいきさつを語る。…勿論、彼は更に驚いた。
『ー…伝説の-賢者の塾-が実在していたのも驚きですが、まさか-管理者-までも味方に……』
「まあ、実際味方に付けたのは『我らがリーダー』殿ですが」
『…流石は、-後継者-といったところですか。…ブライトさん』
「何ですか?」
『どうか、彼と-塾長殿-にお礼を伝えてください。
-私と他の先生方の代わりに-問題-を解決して頂き誠にありがとうございます-…と』
「必ずお伝えします」
『お願いします。…それと、貴方にも最大限の感謝を。
貴方が彼らと生徒達を引き合わせてくれたおかげで、生徒達は本当の意味で此処の生徒になる事が出来ました。
そしてそれだけでなく、-特別な教材-まで残して頂き本当にありがとうございます。…でも、本当に良かったんですか?』
ふと先生は、申し訳なさそうに聞いて来た。
ー実は、『ネズミのレプリカ(偽装皮装備)』を先生にお譲りしたのだ。
「ええ。正直、『活用法』がないので。
それに、『リーダー』も『これ以上はキャパオーバーだ』と言っていましたから。
だから、どうか遠慮なく『彼ら』を『生徒達の未来』の為に役立てて下さい」
『…分かりました。有り難く活用させて頂きます。
ーそれでは、またお会い出来る事を願っています』
「こちらこそ」
最後に、ハミルトン先生は改めて別れの挨拶をして通信を切った。…ふう。さて、お次は『2人』かな?
高確率で『次』が来る予感がしたので、とりあえず通信器の前で待機する。…すると、予想通り来た。
「ーよお。ロラン、リコ」
『あ、先…兄さん。こんにちは…。…てか、来るの分かってた?』
『…やっぱり、兄さんは凄いや』
「…んで、『先生』は『どんなリアクション』だった?」
『『…っ』』
俺はまた『予想』を口にする。…勿論、2人は目を見開いた。…すると、ロランが先に口を開く。
『…こっちは、一緒に通学してるのを見られちゃったから凄い勢いで聞かれた。…でもって、一緒の部活に入ってるって言ったら更に驚いてた』
『…こっちも似たようなものかな。
今日は、彼女達と同じグループだったから。…普通にやり取りしてるだけで、先生が超こっち見て来た。
そして授業が終わったら、案の定あれこれ聞かれたよ…』
「大変だったみたいだな。…んで、『いきさつ』は『包み隠さず』話したか?」
『うん。…あ、勿論その教官は-学長や他の教官達以外には口外しない-って言ってたよ』
『こっちも同様です』
すると、2人はしっかりと頷いた。まあ、『俺』が関わっている事を話しておけば先生達は、自主的に『黙秘』してくれると思ったからあえて2人に『包み隠さず』伝えるように言っておいたのだが、予想通りだったな。
「なら良い(…これなら、『例のヤツ』に嗅ぎ付けられる心配もないだろう。)
ーそれじゃ、2人共。元気でな」
『はいっ!』
『兄さんもお元気でっ!』
内心で少し安堵しつつ、こちらから別れの挨拶をした。…そして、モニターから2つのウィンドウが消えた。
ー…さて、そろそろ行くか。
『約束の時間』が迫っていたので、俺は立ち上がりトランクを持ってルームを出る。
「ーあ、ブライトさん。…ご出発ですか?」
そのままきびきびと一階まで降り、管理人ルームの窓口に顔を出す。…すると、予め出発時間を告げていたので管理人さんは直ぐに出てくれた。…その顔は、少し寂しそうだった。
「はい。およそ1ヶ月、ありがとうございました」
なんだかこちらも少し寂しく、そして『別れを惜しんでくれる事』に嬉しくなりがらお礼を言い、ルームのカードキーを返却する。
「…こちらこそ、長くご利用頂きありがとうございました。
…あの、次は『どちら』に?」
それを受け取った管理人さんは、ふと『行く先』を聞いて来た。
「…そうですね。
ー『過去に-手掛かり-が見つかった場所』に」
「…え?」
「それが、『プレシャス』の次の目的地ですからね」
「…っ!なるほど。…あ、引き止めてしまってすみません。
ー…もしまた、『此方に来る事』があればまたご利用下さいね」
「…ええ。きっと。
それでは、さようなら」
「ええ。またいつか…」
最後に管理人さんと握手を交わし、俺は外に出てるのだったー。