「っ!」
すると、フロアにファンファーレが鳴り響き正面の大きなドアが開いた。
「…はあ、なんとかなりましたね……」
「……」
「2人共。まだゴールしていませんよ」
その瞬間、緊張の糸が切れたのかクルー2人は脱力する。すると、女史はニッコリしながら歩き出した。…いくら、肉体的な疲労はないとはいえあれだけ緊張感のある激闘で精神的な疲労は溜まっているはずだ。なのに、ああも余裕を見せるとはな。
2人同様、若干脱力していた俺はそのメタルメンタルに改めて『ベテラン』のタフさを実感した。
「…っと」
「…はい」
2人は、なんとか踏ん張りゆっくりと歩き出す。そんな2人を、『プラトー』は後ろから見守るよう…つまり『疲労』を感じさせない表情でゆっくりと歩いていた。…まあ、『彼』は『そういうの』とは無縁だからな。
そして、そんな事を考えながらドアを通過するとー。
『ーCongratulation!!!!』
直後、『電子的でない』賞賛のコメントが聞こえたかと思ったら一番最初のプレーンな空間に戻っていた。…はあ、『やっぱり』このパターンか。
「ー…こうも『あっさり』見抜かれると、真面目に『フェイク』していたのがバカらしくなって来ますね……」
なんとなく予想はしていたが、つい直前まで一緒に居た女史とクルーの2人は姿が見当たらず…
若干落ち込んだカノンだけが傍にいた。
「ー『あっさり』だなんてとんでもない。実際、『最後の一撃』の瞬間まで確信が持てませんでしたよ。
それに、『フェイク』が解除されてしまうのは『管理者権限』という名の『チートプログラム』ですから、決して『カノープス』自体が劣っている訳ではありませんよ」
すると、背後にパステルピンクのポニーテールとチェリーブロッサムカラーの瞳の真面目そうな女性が現れ、フォローを入れて来た。
「…分かっていますよ。
そもそも、『貴女方』と『私達』は『ルーツの同じ存在』なのですから」
彼女…『プログラマー』の言葉に、カノンはため息を吐きつつ、『今まで抱いていた仮定』を自らの口で証明してくれた。
「…やっぱり、『副産物』から生まれた存在だったか。道理で、イロイロと『オーバースペック』な訳だ」
「…気付いていたのですね」
「そっちだって、『気付い』たんでしょう?。
ー『此処の-オールドアイ-と-同志達の瞳-』を通して」
「…そこまで……」
ニヤリとしながら返すと、彼女は驚きの表情を見せた。まあ、最新の防犯カメラにアクセス出来ない以上それが妥当だろう。
「…これが、『後継者』殿なのですね。
ー…あ、話しは変わりますが1つお聞きしても良いですか?」
感心した彼女は、唐突に話を変えた。…なんだろう。『とても良い予感』がするぞ?
「…仮に、私が『クルー』となった場合、『どんなポジション』を与えて頂けますか?」
「…っ!」
こちらの表情を『どうぞ』と捉えた彼女は、『こちらが頼もうとしている事』を自分の口から言い出した。これには、流石にカノンもちょっと驚きながらこちらを見る。
「…そうですね。
やっぱり、『シュミレーションセッティング』がメインになりますかね。
というか、『ちょうどそういうポジション』を探していたんですよ」
「…っ。
具体的な内容を聞いても宜しいですか?」
一瞬、彼女は綻んだ笑顔を浮かべるが直ぐに表情を引き締め問いかけて来る。
「現在、我々『プレシャス』は2つの問題をかかえています。まあ、どちらも『手掛かり』関連ですが。
1つは、『パインクト』にある『手掛かり』の回収方法。これは、『ウシ』の力が必須ですから私…『キャプテン・プラトー』の担当です。
…ですが、実行プランが高い確率で失敗する事が分かったので新たなプランを考える必要が出てきたんですよ。
そして、2つ目。…ぶっちゃけ、こっちが1番の問題です」
「……」
一度言葉を切ると、彼女は緊張した面持ちになる。
「何故なら、現在非加盟領域の中で最も危険認定されている『トオムルヘ』にあるのですから。
…これは、正直『様々な準備』する必要がありますし何よりサーシェスカンパニーの奴らに気付かれてはならないのです。
…だからこそ、リアルの時間がそんなに掛からないこのシュミレーションのノウハウを持つ貴女の力が、どうしても必要なんです。
ーですから、私の船のクルーになってくれませんか?」
「……っ」
改めて、手を差し出して勧誘すると彼女はその瞳に涙を浮かべながら微笑む。
「…はい。謹んでそのお誘いをお受けします」
「おめでとうございます。マスター。
そして……えと、なんと呼べば良いですか?」
目の前で『新たな仲間の誕生』を見届けたカノンは、嬉しそうにしながら小さな拍手をする。そして、ふと彼女の『名前』を問う。…そういえば、いっつも彼女達自身が考えてたのか?
「…そうですね。
ー同胞達に倣い、私も『友人』の名を名乗るとしましょう。
どうぞ、これからは『シャロン』とお呼び下さい」
「分かった。…じゃあ、シャロン。『リアル』に戻ったら『同胞』経由で契約書を渡すから」
「分かりました。……」
「ああ、平時は好きなように呼んでくれて構わないが、『任務中』はマスターと呼んでくれると助かる」
ふと、彼女は『どうしよう』という表情をしたので最近お決まりになって来た言葉を口にした。
「…では、『マスター・オリバー』と呼ばせて頂きます」
「ああ。…これから宜しくな、シャロン」
「シャロン。これから共にマスターの『夢』をサポートして参りましょう。…あ、私のコールも『マスターと同じルール』でお願いします。
「はい。マスター・オリバー。リーダー・カノン。
それでは、一度『リアル』へとお送り致します。宜しいですか?」
彼女の確認に俺達は頷いた。直後、俺達の周囲に『半透明の円柱』が展開した。。
「…『オートログアウト』、実行開始。その場から動かないで下さい」
「「…っー」」
彼女は直接アナウンスをし、エアウィンドウをソフトタッチした。次の瞬間、『入る時』の『リバースバージョン』のようなエフェクトが視界を埋め尽し………ー。
「ー……っ」
やがて視界はホワイトアウトし、自然に『目を閉じる』。それから数秒後、『優しいメロディ』が流れたので目を開けた。…すると、『シュミレーションフロア』の天井が見えた。
「…ふう」
「あ、お目覚めだな」
ゆっくりと起き上がると、隣のシュミレーターに入っていたロックスミスさんが声を掛けて来た。
「おはようございます…っていうには遅い時間ですけどね」
「ーまあ、『芸能業界』ではどんな時間でも『おはようございます』ですから私は気になりませんがね」
そんな話しをしていると、先に起きていたグローリーさんが爽やかなスマイルを浮かべながら近いて来た。
「じゃあ、『おはようございます』」
「…はあ、『輝くステージ』に立ってる奴ならではのセリフだな。
…『おはよう』」
「はい、おはようございます。…ところで、キャプテン・オリバー。
ー『どうでした』か?」
すると、グローリーさんは真面目な顔でこちらを見る。だから俺も真面目になりー。
「ー勿論、『クリア』しましたよ。…まあ、ほとんど『キャプテン・プラトー』のおかげですが…」
あはは…と苦笑いを浮かべながら『ちょっと』付け加える。
「…うわ、ラッキーだな」
「……。…彼についていける時点で、十分キミも凄いですよ」
その返しに、片方は目を丸くしもう片方は俺の実力を賞賛した。
『ー…マサカ、全員ガクリアナサレルトハ。…アナタ方コソ我々ガ待チ望ンダ……。
…ソレデバ、-証-ヲオ受ケ取リ下サイ』
そんな中、電子音声のアナウンスが流れる。…その際『シャロン』は気になる言葉を言い掛けるが直ぐに『モード』を切り替え、さっきまで利用していたシュミレーターから『箱』を出した。
「…これで、残るは2つ」
『……』
それを回収していると、ふとメンバーが疑問顔になった。…まあ、多分ー。
「ー皆さん。今日は早く終わり尚且つ疲労はないと思うので、翌日の午後に『6つ目』に挑戦します。
メンバーは、『前衛』ポジションを中心とします。リストは、翌日昼までに送ります」
『……っ』
その空気を感じ取った女史は、翌日のスケジュールを告げる。…すると、メンバーは意識を切り替えた。
「それでは、撤収しましょう」
『了解!』
そして、女史のオーダーに従って俺達は施設を後にするのだったー。