『ーっ!?』
薄暗い迷宮を歩いていた俺達は、不意に『落下』を始める。どうやら、床が抜けたらしい。…いや、ホント予想が出来ないな。
さっきも、いきなりフィールドが『荒野』に切り替わり猛獣型の攻撃ドローンの強襲を受けたのだ。…『リアル』だと、予兆や床の『違い』で身構える余裕があるけどそれがないから常に気を抜けないな。
そんな事を考えていると、『サポートボックス』が振動したので下に向かって投げた。
すると、『サポートボックス』は派手なエフェクトをしながら人数分の『ジェットスキー』に変化した。
…まあ、あくまでこれは『シュミレーション』なんだから緊張感という名の『リアリティー』は必要なのかもな。
「…っと。…わっ!?」
「…これは、『サイバーリバー』?」
なんとか空中で全員跨がるのと同時に、俺達は派手な水飛沫を上げて着水する。…どうやら、下は流れの緩やかな『サイバーリバー』のようだ。
『とりあえず、前身しましょう』
『はいっ!』
「はいっ!」
すると、備え付けの通信器から女史の声が聞こえて来た。勿論、俺達はその言葉に従いジェットスキーを起動させ前進する。
でも、なんで急にー。
『ーっ!全員、スタンバイッ!』
この状況に疑問を抱いていると、『プラトー』が通信を入れて来る。…っ、『えげつな』っ!?
『プラトー』は上空を見ていたのでつられてそちらを見ると、大型の『エアトランスポーター(空中輸送カー)』の大群がいつの間にか『サイバースカイ』を埋め尽くしていた。…そして、大群のエアトランスポーターの後部から『デリバリードローン』が次々と飛び出して来る。
『…嘘……』
『』…アクセルッ!』
『っ!了解っ!』
『それら』が持つモノが見たイアンは、ゾッとする。当然、女史はすかさずオーダーを出した。
『ーっ!来ますっ!』
俺達がアクセル全開で幅広いリバーを進み始めた直後、デリバリードローンは急速にこちらの頭上に飛んで来た。…っ。くそ、武器が使えなくなってる。
迎撃を試みようとすると、『ウェポンセレクト』のウィンドウに『ロック』が掛けられていた。…どうやら、運転テクだけで凌がないといけないようだ。ホント、『アクションゲーム』だな。
ーそうこうしている内に、デリバリードローンは次々とバスケットボールサイズの『データ・ボム』を投下して来た。
「ーきゃあっ!」
数秒後、真後ろで派手なSEと水飛沫のエフェクトが連続で発生しアイーシャが悲鳴を上げた。…とにかく今は、回避するしかないか。
迎撃は諦め、操作に集中する。
「ーっ!?まさかっ!皆さん、-ライトサイド-に回避準備をっ!』
すると、再び『プラトー』が何かに気付き回避方向を指定して来た。…っ。やってくれるっ!
上空を見ると、デリバリードローンの数機が別行動を始めた。…そして、崖の『レフトサイド』にボムを投下した。
「んなっ!?」
『回避ーっ!』
直後、崖は崩れ大量の岩がリバーに落下して来た。しかし、俺達はギリギリでそれらを回避していく。
『ー次、レフトサイドッ!』
『り、了解ッ!』
間髪入れずにまたデリバリードローンが崖のライトサイドにボムを投下する。…不味い、このままじゃ後ろのドローンに追い付かれる。……っ。待てよ?『こういうジャンル』には『アレ』が付き物じゃないか?
回避行動のせいでジリジリと後続のドローンに追い付かれ始める。…その時ふと、『ある事』を思い出した。
『ーこ、今度は両サイドッ!?』
そんな矢先、なんと今度は両サイドにデリバリードローン達がボムを投下した。
それとほぼ同じタイミングで、俺は一旦操作をオートパイロットに切り替えジェットスキーの『マニュアル』から必要なデータを探す。そしてー。
「ー『プロテクトアンブレラ』、オープンっ!」
「ーっ!?…っ、『プロテクトアンブレラ』、オープンっ!」
『っ!-プロテクトアンブレラ-、オープンっ!』
『それ』を見つけた俺は、マニュアル操作に戻し『ボイスインプット』で『ガードシステム』を起動させる。すると、まず『プラトー』が反応しオーダーを出した。
それを見た残りの3人も、意味を理解しオーダーを出す。
ー直後、俺達の頭上に『アンブレラ状のプロテクトシールド』が展開した。…そして、次の瞬間爆発が起こり大量の岩が降注ぐ。
しかし、『シールド』のお陰で俺達は無事に『岩石の雨』を通過した。
『良く気付きましたねっ!』
「この手のジャンルは、『勉強』としてプレイしていましたからっ!……?」
すると、女史が驚いた様子で声を掛けて来たので簡潔に答える。…そんな中、どういう訳か空中のデリバリードローンが攻撃を止めた。
『ーっ!マズイですっ!この先、-フォール-になってますっ!』
「んなっ!?」
「……っ」
直後、『プラトー』は衝撃の事実を告げた。…なるほど。『自分達が手を下す必要』がないと判断したか。…しかし、『甘い』。
「大丈夫っ!『さっき』ざっと『装備』を調べたら、『パラシュート』と『衝撃吸収フィールド』がありましたっ!」
『…本当!?』
『…というか、いつの間にっ!?』
『……。…っ!間もなく、フォールしますっ!
ーカウント、5っ!
5、4、3、2、1、フォールッ!』
クルーの2人が驚く中、『プラトー』は報告をしてカウントを始める。…そして、カウントの終了後ー。
「ーGO!!!!」
「「「「っ!」」」」
リバーは途切れ、俺達はフォールを飛び降りた。…そして、俺は息を吸い込む。
「ー『アンブレラプロテクト』、キャンセルッ!
『エアブレーキ』、『ショックアプソプション』、オープンッ!」
『-アンブレラプロテクト-、キャンセルッ!
-エアブレーキ-、-ショックアプソプション-、オープンッ!』
俺がオーダーを出すと、4人は即座に復唱した。直後、頭上のシールドは消え代わりにパラシュートが出て来た。そして、ジェットスキーのボディ下部にクッション素材のような衝撃吸収フィールドが展開する。
「ーっ!」
「……ふう」
それから数十秒後。俺達は無事に着水しリバーを進み始めた。尚、パラシュートはオートでキャンセルされた。…出来れば、シールド類もオートにして欲しかったな。『レトロなアクションゲーム』をやってなかったら、確実にリタイアだった…。
『ーっ!デリバリードローン、再接近っ!』
『くっ!?』
『…しつこい』
『…-人気者-はツラいですね』
内心ボヤいていると、『プラトー』が報告する。その報告に、アイーシャは険しい声でイアンは辟易とした声で反応した。一方、女史は困ったような反応をした。…『こういう場面』に、慣れてるんだろうなー。
そんな事を考えつつ、再びオートパイロットに切り替え『マップ』を確認する。…お、やっぱり『あった』。
『ー来ますっ!』
もしかしたら『有る』と思い調べみたら予想通り『有った』ので、ニヤリと笑う。…直後、『プラトー』が警告した。
「ー皆さんっ!『後少しの辛抱』ですっ!」
『っ!?』
『…どういう事ですか?』
『……っ!』
唐突な発言に、クルーは勿論女史も驚きながら聞いて来た。…一方、『プラトー』は俺の言わんとしている事に気付いたようだ。
「簡単ですよっ!後少しで、『ゴール』に着きますっ!」
『あっ!』
『…そう言う事か……』
『やはり…』
『…あまりのリアリティーに、遂忘れていました』
すると、3人も納得した。まあ、ひっ迫した状況に見舞われたのだから頭から消えるのも無理はないだろう。実際、俺も『冷静さを培う授業』とゲームの経験がなかったら彼女達のように慌てていただろう。
『ーっ!皆さん、ライトサイドにボムが投下っ!』
そうこうしている内に、デリバリードローンは先程と同様崖に向かってボムを投下した。なので、俺達はレフトサイドにー。
『ーなっ!?もう投下しているっ!?』
全員がリバーのレフトサイドに退避したその時、『プラトー』が驚愕の報告をした。…やれやれ、『フェイント』とか『最新ゲーム』並みだな。
どうやら、ライトサイドのドローンは『囮』でこっちが本命なのだろう。その証拠に、崖では爆発が起きなかった。
「ー『クイックターン』ッ!ライトッ!』
『ーっ!?……。…ラジャーッ!』
しかし、『変化球』が来る事を予測していた俺は『右に曲がるよう』オーダーを出した。…勿論、4人は驚愕するが少しの逡巡の後返答をした。
ー直後、頭上で爆発が発生し『岩石の雨』が降り注ぐ。…しかし、それが俺達を襲う事はなかった。
『ー…本当に、貴方にはいつも驚かされますね……』
『…どうして、-こんなルート-が有るって分かったの?』
『回避』した後、最初に口を開いたのはアイーシャだった。続けてイアンが、疑問を口にする。
…何故なら、今俺達は『洞窟の中』を進んでいるのだ。
「さっき、『マップ』を見た時に気付いたをですが『あのまま進んでいたらゲームオーバー』でした。…だって、最終的に『行き止まり』だったんですから」
『……?そこがゴールじゃないの?』
「いいえ。…『ゴールマーク』はそこにはありませんでした。
そして、『今進んでいるこの先』にゴールマークがありました。…つまり、『こうゆうルート』が有ると確信したんです」
『…何でそんなに冷静なの?』
説明が終わると、イアンさんはますます疑問を深めた。…けれど、俺は苦笑いをしながら答える。
「…そうでもないですよ。まだまだ、『乱される』事もあります」
『………』
『……。…というか、追跡が止みましたね……』
『…そういえば。…でも、-まだ-来るかも……』
アイーシャの言うように、『敵』の追跡は止まる。だが、イアンは心配そうに呟いた。
「ああ、大丈夫だと思いますよ。
ーあのボムに『マップそのもの』を壊すだけの破壊力はないでしょうから」
『…確かに。見た所、せいぜい-特定の部分-を壊せるぐらいでしょうね』
『…訂正。-2人共-、凄く冷静だった』
『…ですね』
俺と『プラトー』の分析を聞いたクルー達は、唖然とするのだったー。