「こんにちは、クルーガー女史」
「こんにちは。…あら?」
「………」
互いに挨拶をしていると、ふと女史はフリーズするリコに気付いた。…なので、俺は彼女の肩を叩いた。
「…っ!……こ、こんにちは」
「こんにちは。…ご紹介して頂いても?」
リコはハッとし、メッチャ緊急しながらペコリと頭を下げた。すると女史は、丁寧な所作で返事をしこちらに振る。
「彼女は、私の親族のリコリス=レーグニッツです。
そして、後ろに居るのがロラン=レーグニッツです」
「…っ。は、初めまして……」
紹介されたロランもハッとして、頭を下げた。…どうやら、彼もフリーズしていたようだ。
「『レーグニッツ』…。もしかして、セサアシス地上警備隊の『レーグニッツ』さんの?」
「…っ!そ、そうです…」
「…やっぱり。…っ、失礼しました。
それでは、参りましょう」
こちらの足を止めさせてしまった事を謝罪した女史は、そう言って歩き出す。…まあ、『プレシャス』を熟読している女史なら『ピン』と来てもおかしくないが。…多分、それだけじゃないな。
女史の後に続きながら、そんな事を考える。
そして、地下パーキングからエントランスに上がる途中で他のメンバーと合流しそのまま軌道エレベーターに乗った。
「ーおお」
それから少しして、俺達は『展望フロア』に着いた。…そして、その中心には数台の『ハイパーテレスコープ』がドンと鎮座していた。
「ーあ、キャプテン・ブライトも来たのですね」
すると、案の定他のメンバーも来ていた。…考える事は同じのようだな。
「ーさて、早速観測を始めましょう。
私は『第1惑星』を見ますので皆さんは、他をお願いいたします」
『ーはいっ!』
「…せっかくだから、行って来たらどうだ?」
「…へっ!?…じ、邪魔にならないかな?」
「でしたら、私も行きましょう」
不安になるリコに、少尉は自ら名乗り出てくれた。…すると、リコは少し冷静になる。
「…じ、じゃあ、行って来ます」
「おう。…さて」
一旦周りを見ると、既にメンバーは観測を始めていた。…良し。
そして、モニターで何処が調べられていないかを確認し空いている『テレスコープ』に近く。
「…それにしても、錚々たる顔ぶれですね」
すると、ロランは冷や汗を流しながら呟いた。…まあ、『有名人』しか居ないから当然か。
「…っ、と、ところで僕達は『何処』を見るんですか?」
「とりあえず、『第9惑星』から中心に戻ろう」
「はい」
そして、『テレスコープ』の備え付けのチェアに座り起動スイッチを押した。…えーと、まずは『見たい場所』をタップして。
『ー第1惑星可能性低』
設定してからスコープを覗き込むと、デバイスが鳴った。…早いな。
そして、俺は『第9惑星』を観測し始めるが……直後、『無い』という直感が沸き上がって来た。
「(…どういう事だ?)……っ」
とりあえず、ざっと見てみるが案の定『それらしい』建造物はなかった。…いや、もしかするとー。
とある予想が浮かんで来るのを感じながら、デバイスで此処に居るメンバーに連絡を入れる。
「じゃあ、次は『第8惑星』だな。…ロラン、変わるか?」
「…は、はい」
俺がチェアから離れてそう言うと、ロランは少しワクワクしながら頷いた。…そんな中、デバイスが立て続けに2回コールをする。
『ー第1惑星外れ』
『第2惑星可能性低』
…これは、『予想』が当たっているのかも知れないな。
「…うわ、こうなってんだ……。…っと」
その一方、ロランは興奮しながらスコープを覗く。だが、直ぐに集中して観測を始めた。
「…ふう。…ただいま」
「ただいま戻りました」
その最中、女史のところに参加していたリコと少尉が戻って来た。…リコは、幸福体験をして来たようなぼやっとした表情だった。
「おかえりなさい。…どうだった?」
「凄く…良かった…。…皆さんも、とても優しかったし」
「…実は、観測を途中で交代して頂いたのです」
「そりゃ良かった」
「ー兄さん、すみません。…多分、此処にも『無い』です」
そんなやり取りをしていると、ロランは報告して来た。…それにしても、観察補助衛星と『探索機能』付きとは随分と『ミール』をつぎ込んだんだな。まあ、そのおかげでこうやって時間を掛けずに探せているんだが。
此処の政府の太っ腹さに感謝しつつ、俺はメンバーに『第8惑星可能性低』とメッセージを送った。
「…キャプテン・ブライト。もしかすると、他の惑星には『当たり』は無いのでしょうか?」
ロランと交代し、再度スコープを見ようとしていると少尉はふとそんな事を言った。
「…まあ、見てみない事には何とも言えませんが。
『考え方』が間違っている可能性は、多いにありますね」
「…やっぱり」
『第4惑星外れ』
『第5惑星外れ』
直後、立て続けに『外れ』のメッセージが来た。多分、建造物その物がなかったのだろう。
そして、俺は第7惑星を観測する。
ー…だよな。
案の定、『アタリ』は見つからなかった。…問題は、惑星の地表以外に『古くからある建造物』なんてモノがあるのかだ。
『第6惑星可能性低』
…『第7惑星外れ。女史、申し訳ありませんがこちらに来て頂けますか?』
とりあえず、メッセージで女史を呼ぶ。…するとー。
「ーなんでしょうか?」
反対側に居た筈の女史がいつの間にこっちにやって来ていた。…これは、『待って』いたのか?
「…ふえっ!?」
「あ、驚かせてしまいましたね。ゴメンナサイ、リコリスさん」
「…あひゅっ!?い、いえ…」
驚きのあまり奇声を上げたリコに、女史は優雅な所作で謝罪する。…その際、ファーストネームを呼ばれたので彼女はまた奇声を出しつつ首を振った。
「…とりあえず、俺の予想を話しますね。
ー多分ですが、星系範囲内にある『型式の古い大型建造物』に『7つ目の試練』が隠されているのだと思います」
「…っ!」
「なるほど…。…そうなると、対象となるのは『片手』では足りないですね」
すると、少尉はポツリと言った。…まあ、そうなるよな。
「…やはり、大人しく『5・6』と攻略していくのが無難ですね」
「…ですねー」
『ー探索打ち切り』
それを聞いた女史は、メンバーにメッセージを送った。…そして、直ぐに全員が解散し始める。
ーさて、地上の天気は……。…うわ、まだかなり降ってるな。
「…えっと、これからどうしましょう?」
「…まあ、『打ち切り』とは言われたがランチタイムまでには時間は有るからな。とりあえず、『予想』は続けよう。
リコはこっちで。ロランは…空いているところで見てくれ」
「分かりました」
「…じゃあ、僕はー」
どこら辺を見るかを伝えたロランは、空いているスコープに行った。…それにしても、此処のスポットかなり人気なんだな。
先程は、『プレシャス』が使っていたからかこのフロアにあんまり人は居なかったが、解散した途端に多くの人が入って来た。…どっちかと言うと地元の人が多いかな?
リコが観測する中、俺はフロアを観察する。…すると、ちらほらと『先達』の姿も見受けられ始めたのだがー。
ー…おいおい、『このタイミング』かよ。
その時、胸ポケットに入れていた『コンパス』が暖かな熱を放った。…つまり、『先達』の誰かが『ヒント』を握っているという事だ。
「…キャプテン・ブライト。…『もしかして』?」
キョロキョロしていると、少尉は小声で確認して来たので頷く。…いや、マジで『誰』なんだ?
「ーおや、珍しいところで会いますね」
頭を抱えていると、とても聞き覚えのある声が聞こえた。…いや、『まさか』な。
「あ、シュミット学長。こんにちは」
「こんにちは。レーグニッツさん。…それと、確か貴女はアルスター少尉でしたかな?」
「はい。…あれ?自分から名乗りましたでしょうか?」
「貴女の事は、レーグニッツさんから聞いて居ますよ。
『実の姉のような、大切な人』だと」
「リコ…」
それを聞いた少尉は、少し瞳をうるうるさせた。…一方、俺は謎の緊張感を抱いていた。
「…学長は、たまにこちら来るんですか?」
「ええ。今日のような休日で尚且つ出歩けないような日には特に」
「分かります。此処なら、何にも邪魔されずに観測出来ますから」
「…ところで、ブライト先生『達』は『何を見ていた』のですか?」
同意していると、学長はふと切り込んで来た。…これ、多分さっきまで居たのが『プレシャス』だって分かってるよな。
ちょっと冷や汗を流しつつ、俺はなんか正直な心持ちで話した。