『こ、こんにちは』
『…こんにちは』
中に入ると、そこは広大な『メンテフロア』だった。すると、フロアアナウンスが聞こえて来た。
「お疲れ様です。-ティータ様-、アイーシャ、アイン」
『…ん』
アナウンスではランスター姉妹の声しか聞こえなかったが、カノンは『現場班長』に『フロア
「……貴女も、此処に居たんですね」
『…私は、ロゼやセリーヌとは違って-仮-だがな』
「…相変わらず、重要な事をさらっと言いますね」
まさか既に、『2人』がライトクルーになっているとは思っていなかった『現場班長』は驚きつつ、『同胞の変わらない性格』に苦笑いをした。
「…というか、貴女達は一体何処で作業を?」
『…マネージャー・カノン。-頼める-かな?』
『声』は聞けるのだが、広大なフロアには彼女達は勿論の事メンテナンスを受けているはずの『サポーター』の姿は見えなかった。
なので、ティータはカノン(あくまで『サブクルー』なので独自の敬称を付けて)に頼む。
「畏まりました。
ー『ダイビングスケイル』、『インビジブルシステム・OFF』」
「…っ!」
カノンは了承し、エアウィンドウを出す。そして、そこに向かって『オーダー』を出した。…直後、白銀の巨大な『ヘビ』が姿を表した。
「…あれが、『潜航の鱗』。……凄い」
『…感動するのはまだ早いぞ?』
『生』で『ヘビ』を見た彼女は、心底感動していた。…だが、そんな彼女に『同胞』はニヤニヤしながら言う。
(…なんだか、楽しそうですね。…これは、是非ともライトクルーになって頂きたいですね)
カノンが心中でそう思っていると、『ヘビ』側面の『メンテナンス用ハッチ』から重厚な足音が聞こえて来た。
「…っ、『そういう事』ですかっ!」
すると、隣に立つ彼女は『察し』たのか『とても素晴らしいリアクション』をした。…そして、『それ』はゆっくりと姿を現す。
「『ーその全身より放たれる-威圧感-は、おそらく-ウシ-や-トラ-にも引けを取らないだろう。…けれど、その-本質-はー』」
ー…あれが、『メンテナンス補助』のサポーターである『EJ-12:メンテナンスウォーカー』ですか」
彼女は、『プレシャス』の一節を正確に口にした。…やはり、彼女も相当な『ファン』だ。
そうこうしている内に、『メンテナンウォーカー』…通称『イノシシ』は彼女達の目の前まで迫り歩みを止める。
「…っ!」
すると、下腹部の辺りから円筒状のモノが降りて来た。…そして、中からなにやら『稼働音』が聞こえてくる。
「ーやあ。直接合うのは、『久しぶり』だな」
数秒後、円筒状の下から『整備チーム』の3人が出て来た。
「…本当ですね。…あれ?」
ティータと彼女は、互いに自然と距離を詰め流れるように握手をかわす。…その時ふと、彼女は『とある事』に気付いた。
「…どうかしたか?……あ、もしかして『服』の事か?」
…そう、『チーム』の3人はデザインが微妙に違う『白銀を基調とした』整備スーツを身に付けていた。
「…確かに、『サブクルー』の私が『これ』を着ているのは不思議か。
まあ、これにはちゃんとした訳があるんだよ。
ーあの『イノシシ』は、『これ』を着てないと『乗せてくれない』んだ」
「…っ。ひょっとして、『イノシシ』はとても『神経質』なのですか?」
すると、カノンは頷いた。
「ご明察でございます。
『メンテナンウォーカー』は、その名の通り他の『大型』サポーターの『身体の中』を歩きます。
よって、『メンテナンスウォーカー』は『専用のスーツ』着ていない者が乗っていると『意地でも動かない』のですよ。勿論、そのスーツもマスターと私より『資格を得た者』以外は装着出来ないようになっています」
「…なるほど。…本当、『良く出来て』いますね」
カノンの説明を受けた彼女は、『意味深』な含みを持たせてそう言った。…どうやら、『ジョブ柄』的に『その辺り』の事にも『予想』が出来ているようだ。
「…本当は、ライトクルーになってから袖を通すつもりだったのだけれどな。…これでは、『条件』を理由に『断れなく』なるな」
すると、ティータは『自分ピッタリ』に作られたスーツを見ながら言った。…どうやら、随分と気に入っているようだ。
「…というか、良くそのサイズがありましたね。…いや、もしかして『サル』のパイロットの方が?」
「ああ。…『これ』、長く使ってないと『効力』がなくなるらしいのでな。
あ、ちなみにだが『彼女』は地上だから此処にはいないぞ」
「…地上?……まさかとは思いますが、その方は『スクール』の?」
「正解だ。…多分、『クルー』や『関係者』の中じゃ間違いなく最若手だろう。
何せ、彼女はスクールの学生なのだから」
「……驚きです。…『サル』のフルパフォーマンスを引き出せる逸材が、スクールの学生に居たとは……」
ティータの説明に、彼女は驚愕する。その辺りの『事情』も、『プレシャス』を通して知っているのだろう。
「まあ、彼女…フェンリーは『イフィンド』の生まれの上に実家がアイテムメーカー業界では有数の『超』ブランド企業だからな」
「…納得です。
しかし、随分とー」
彼女は何かを言い掛けて、ふとティータの後ろに立つランスター姉妹を見る。…その際、何故か脳裏に『とある秘宝ハンター』の顔が浮かんだ。
「…ところで、そちらの2人って貴女の『弟子』なの?」
「…まあな。…そもそも、彼女達が此処の一員になっているから私も直接此処で指導する必要かが出て来たのだ。
ーあ、彼女は私と違って……というか私以外全員口の『セキュリティ』は固いから、『名乗っても』大丈夫だ」
その問いかけにティータは、横にずれながら答え2人に前に出るように目線で促す。…そして、ついでに『大丈夫』だと付け加えた。
「…分かりました。
ー初めまして。私はプログラマー見習いのアイーシャ=ランスターと申します」
すると、2人は顔を見合せ頷きまずアイーシャが前に出て名乗る。そして、次にアインが前に出て来た。
「…初めまして。私は、メカニック見習いのアイン=ランスターと申します」
「…やっぱり。…貴女達は、『キャプテン・アームブラスト』の血縁者なのですね」
「「…っ!」」
「…良く気付いたな。…私は、言われて初めて気付いたのに」
彼女達が名乗ると、『現場班長』はその『素性』をピタリと言い当てた。…これには、流れを静観していたカノンも少し驚く。
ー何故なら、彼女達の祖母…『キャプテン・アームブラスト』は『プレシャス』でも『キャプテン・プラトー』並みに『暈されて』いるのだ。…その理由はー。
「…実は、『彼女達』は一度私の『領域』に来ているのですよ」
「「「なっ!?」」」
(…流石に、予想外ですね……)
これには、4人共驚いた。…そんな話しを聞いていないというのもあるが、何より『彼女達』のカンの鋭さに驚いていたのだ。
「…まあ、当然『当時』は『プレシャス仕様』ではなかったのですが、『2人』は『後一歩』まで迫っていたんですよ」
ーつまりは、彼女の祖母である『キャプテン・アームブラスト』も『ジェドレン星人』…すなわち『双子の姉妹』だったのだ。
だから、『プレシャス』内では『抜群のプロポーションの女性船長』と『華奢で女の子とみまごうばかりの男性アシスタント』として描かれている。
「…まさか、お祖母様『達』も此処に来ていたなんて……」
「……」
「…相変わらず、『聞かないと言わない』な」
姉妹がビックリしていると、ティータはため息混じりに『難点』を指摘した。
「ご免なさい。…ついでに言うと、彼女達は『こちらの存在』にも気付いていたわ。
ーだって、『-此処-に-有る-のと-そちら-の事は胸に秘めておくから、-この事-は出来れば秘密にして欲しい』って頼まれてしまったの。
…勿論、私は『交換条件』を出されなくても『素性』に予想が付いていたから了承したでしょう。けれど、凄く必死な様子を見たら何も言えなくなってしまって」
すると、彼女は謝った上で当時の様子を語った。…それにしても、いろんな所が『そっくり』である。
「…まあ、当時はまだ『バカ』が蔓延っていたから当然の判断だろう。…しかし、まさか『こうも縁』が深いとはな。
…この分だと、『両親世代』とも関わりがあったりしてな?」
「…いや、流石にそれは……」
「…ないと、思います」
ティータの冗談に、2人は若干不安になりながら否定した。すると、それを見ていた『現場班長』はー。
「ーやはり、この船には『稀有な逸材』が揃っていますね。…それも、『同性』の方で構成されているようです」
「…そうだな」
「…キャプテン殿は、今後も『そんな方』を勧誘していくのでしょうか?」
「…私には、なんとも。
ーそうだ。『帰り』の途中に、直接マスターにお尋ね下さい」
その質問にはっきりと答えられなかったカノンは、『セッティング』の準備を始めるのだったー。