ーそれから、少佐と少し今後の事を話し合ってから俺はルームを出て『直接-リムジン-』に乗り込む。…おわ、もうこんな時間だ。
ふと、シートルーム内の時計を見ると『結構な時間』になっていた。…しかし、俺は直ぐに発車のオーダーは出さずにカノンに『確認』のメールを送る。
ーすると、相変わらず超反応の
「ーお待たせして申し訳ありません、マスター」
それから数分後、カノンがシートルームに入って来て申し訳なさそうに謝罪した。勿論、俺は彼女の肩に手を乗せて首を振る。
「気にしないで良いよ。…だって、今日は『ゲスト』をご案内していたんだから」
そう言って、俺は彼女の傍に居た『ゲスト』…アクティブな印象のガイノイドのヒトに視線を向けた。
「…どうも」
「こうして、『直接お会いする』のは初めてですね。
ー『現場班長』殿」
そう。彼女は、『試験エネルギープラント』の管理者である『現場班長』なのだ。…で、なんで彼女が例によって仮のボディを得た上で『此処』に居るのかというとー。
○
ーSide『カノン』
「ー(……っ、どなたでしょう?)はい、こちらカノープス号でございます」
その日の夜。オリバー達『プレシャス上層部』が『緊急ミーティング』が終わったので、カノンは自分のプライベートルームにて『日課の-ログブック(航海日誌)-』を書いていた。
その最中、『良く知っているコールナンバー』以外から……勿論、『この船』にコールを出来るのは限られているが……から通信が来た。
なので、カノンは一応『偽装』をしてから通信に出た。…すると、エアウィンドウには『見知らぬ-アクティブな印象-のガイノイド』の顔が表示された。
『突然の通信、失礼します。私、第3惑星都市の-試験エネルギープラント-にて-現場班長-をしている者です』
「(…驚きましたね。まさか、『コンタクト』を取って来るとは。)…ああ、貴女様が。お話は、マスターより伺っております。
ー…察するに、『審査に関するお問い合わせ』でしょうか?」
『…流石ですね。やはり、-カノープスに関わる方-との会話はスムーズで助かります。
…ならば、早速本題に入りましょう』
カノンの確信を持った確認に、現場班長は称賛を送りウィンドウにサブウィンドウを展開した。
『…私が-見たい-のは、-それら-です。…見せて貰う事は可能でしょうか?』
「(…これは。…なるほど、確かに『これら』は自分の目で見たいでしょうね。)可能でございます。
勿論、『ご案内』のオーダーも受けておりますので『ご都合の良い日』にお越し下さいませ」
『…っ。…ありがとうございます。
えっと、明日とかでも大丈夫ですか?』
「勿論です。…念のため、『出発予定時刻』をお伺いしても宜しいでしょうか?」
『…え?は、はいー』
彼女は一瞬首を傾げるが、とりあえず『午後の時間帯』を指定した。それを聞いたカノンは、別のウィンドウ…『オーダーウィンドウ』に時刻を入力する。
「ー畏まりました。それでは、『その時間の30分前』になりましたら『送迎カー』を手配しますので、『博物館の前』でお待ち下さい」
『…え?…えっ!?……あ、ありがとうございますっ!』
カノンが『それ』を伝えると、彼女は驚愕するが直ぐに『嬉しさ』と『恐縮』が混じった表情で感謝を口にした。
「(やはり、『カノープスを愛好して下さる方々へのおもてなし』は『これ』が最適ですね。)お喜び頂けたようで、何よりです。
ーそれでは、お越し頂くのをお待ちしております」
『は、はいっ!宜しくお願いしますっ!し、失礼しますっ!』
ーそして、通信はそこで終わり時間は翌日…すなわち、今日のオリバー達の『トレーニング』が開始する1時間前に飛ぶ。
(ー来ましたか)
『到着予定時刻』になると、『ゲスト到着フロア』後部の『エスクトラハッチ』から『リムジンレッグ』が入って発着スペースに停まる。
そして、『リムジン』の搭乗口が開き『現場班長』が出て来たので彼女は深くお辞儀をした。
「ようこそお越し下さいました。『現場班長』様」
「は、はい。こちらこそ、宜しくお願いします…」
すると、そんな対応に慣れていない彼女は余計に緊張しながら頭を下げた。…それを見たカノンは、即刻『新たな案内プラン』を組み上げる。
「ーそれでは、早速ご案内したいと思います」
「は、はい」
彼女が了承したのでカノンはゆっくりと歩き出し、『ドア』を通る。…しかし、いつものように『直接』の移動ではなく左右に長距離に伸びる通路に出た。
「……?……」
当然後ろを歩く彼女は、疑問で頭が一杯になる。…だが、緊張ゆえに確認する事は出来ないでいた。そして、そのままカノンは『すぐ左』のドアに入った。
「…っ。此処はー」
「ーあら、いらっしゃいませ」
ドアを通ると、視界一面に色鮮やかな『作物』やら『ハーブ』やらといった『自然的』な景色が飛び込んで来た。…すると、2人に気付いたそのフロア…『ガーデンフロア』の主である『ロゼ』が作業の手を止め近いて来た。
「作業中失礼します」
「構いませんよ。今は、『調子』を見ていただけですから」
「…ど、どうして貴女が?」
すると、唖然としていた『現場班長』は『理由』を問うがロゼも不思議そうにする。
「何でって、このフロアの『担当』にさせて頂いから決まっているじゃない。…ライトクルーになったというのは、伝えたわよね?」
「……へ?…いや、それは分かるんだけど、まさかもう『作業』していたとは予想出来る訳ないじゃない……」
「…そう?…確か、一緒に『助手をしている』っていうのも伝えたわよね?…なら、『授業に使える教材』を此処で育てるって考えつかない?」
「…そんな飛躍した発想、普通は出て来ないわよ。……はあ、まさかいつの間にか『同胞』が『カノープス入り』していたなんて」
彼女は呆れるが、直ぐに羨ましそうにした。…何せ、『こんな良い環境』で作業をしているのだから。
床には人工芝が敷き詰められ、天井は『サンライトが降注ぐフェイクスカイ』が投影されている。
そして、何より目を引くのがフロアの中心に鎮座するデカい『噴水』だ。しかも、『ドラゴン』づくしのイカしたデザインなのだから彼女は否応なしに興奮する。
「…フフ、良いでしょう?
勿論、ただのオブジェじゃなくてちゃんと実用性もあるのよ。
『時間』になると、下部の4つの『ドラゴン』から水が吹き出しプール部分から溢れ出すのだけれど、周囲にある『吸水溝』が水を吸い込み床下に張り巡らされた水路によってガーデン全体に水が行き届くようになってるの」
「…な、なんて『無駄のない』システム……」
そんな心境を察したロゼは、エアウィンドウに仕組みを表示しながら解説した。それを聞いて、彼女はますます目を輝かせた。
(…どうやら、緊張がほどけるだけでなくカノープスの魅力の『1つ』は十分に伝わったようですね)
そのやり取りを見ていたカノンは、ロゼにペコリと頭を下げた。すると、彼女はニッコリとするのだった。
「さて、それでは次の場所にご案内致しますが宜しいでしょうか?」
「っ!は、はい…。お願いします」
そして、カノンは折り合いをみて彼女に問いかける。すると、彼女はハッとし頬を紅潮させた。…だが、カノンの見立て通り既に緊張はなくなっていた。
「じゃあ、またね~」
「うん」
「失礼します」
そして、ロゼに見送られて2人は『ガーデンフロア』を出て次のフロアに向かった。
ーその後、彼女の要望である『ワークルーム』にカノープス自慢の大浴場…『ドラゴンバス』やキャパが自由自在な『ドラゴンフードコート』に案内した。…勿論、彼女は大満足だった。
(ー…やはり、随分と『面白い』方のようですね。彼女達の『ご友人』というのは)
元々は『自立学習AI』である彼女達が、こんなにも『ユニークかつ素晴らしい存在』になったのは、間違いなく『友人』…『生み出した存在
』が『規格外』だからだろう。
(…もしかしたら、マスターの予想通り『彼女達』と『私』はー)
『ーは、はいっ!どうぞっ!』
ふとそんな事を考えていると、インターフォンから返事が聞こえたので彼女は思考を切り替えドアに入った。