『ーカウントエンド。訓練モードヲ終了シマス』
「…おやー」
少佐達からスイッチを回収しようとしていると、デバイスからアナウンスが流れた。直後、女史と俺はトレーニングフロアから『移動』しプレーンエリアに戻って来ていた。
なので、俺は直ぐにモニターで『結果』を確認する。
ー……はあ。まあ、最初は『こんなもんか』。
「…やはりでしたか」
その結果に少しだけ肩を落としていると、女史もまた肩を落としていた。…どうやら、俺と同じ予想を抱いていたようだ。
『ーお疲れ様でした。マスター、マダム』
すると、スピーカーからカノン声が流れる。…何故『録音アナウンス』でないのかというと、このルームには女史と俺の2人しかいないからだ。
…つまり、最後まで勝ち抜いたのは女史と俺の2人だけという事だ。
「ありがとう、カノン」
「ありがとうございます。…皆さんは?」
『皆様は、既に目を覚ましております。現在は、-ゲストフロア-にてご休憩なされています』
「分かった。
…じゃあ、行きましょうか」
「…ですね」
女史は気重そうに頷き、俺と共に外に向かうドアを通る。
『ー……っ』
そして、直でゲスト用のリラックスフロアに入ると『プレシャスメンバー』は一斉にこちらを見た。…彼らの表情は、沈んでいた。多分、既に結果は見たのだろう。
「…まずは、お疲れ様でした。
ー正直、『予想通り』の結果です」
『…っ』
まず、女史は労いの言葉を掛け……そして、直後に淡々かつストレートに言い放った。当然、彼らは更に沈む。
ー…ホント、はっきり言うお方だ。
そのせいで、フロアの空気もますます重くなる中俺は女史に畏怖を感じた。
「…まあ、負けとはいえ『ボロ負け』ではないので幾分かはマシでしょう。何より、『初見キラー』が満載だった事も今回の結果に繋がったと判断しています。
ーけれど、『本番まで』には少なくとも瞬時に対応出来るようにして下さい」
『……』
すると、メンバーは少し意外そうな顔をした。…別に、『変な事』は言っていないと思うんだが。
「…あの、マダム。質問しても良いでしょうか?」
「何でしょう?」
すると、グリフォンさんがメンバーを代表して挙手をしたので女史は首を傾げた。
「…ありがとうございます。
えっと、お聞きしたいのは……。
ー最終的には、『トレーニングマッチ』で『勝利する』必要はないのでしょうか?」
グリフォンさんは、流石に少し緊張しながら女史に問う。…なるほど。通りで全員不思議な顔をする訳だ。
「…私も、そこまでスパルタではありませんよ?
そもそも、彼らは厳しい訓練を重ねて来た正真正銘の『プロ』です。…いくら、我々が『強い』と言っても『総合的』に見れば彼らの足元にも遠く及ばないでしょう」
女史は、少しショックを受けつつ攻撃チーム…ひいては『遊撃隊』を評価した。…まあ、そうだろうな。俺も、『アイテム』がなかったら到底太刀打ちは出来ないだろう。
『……』
「…そもそも、今回のトレーニングの目的は『勝利』ではなく『瞬時の判断力』を鍛える事です。
ですから、『勝利』する必要はないんですよ。
ーだって、私達は『トレジャーハンター』なのですから」
『……あ』
すると、メンバーはハッとした。…そう。別に無理して『勝利』しなくても『目的』は達成出来るのだ。
多分、齟齬の原因は『戦闘』な上に勝敗条件を付けたせいだろう。…まあ、これに関しては『ネタバレ』を避ける為にほぼ『丸投げ』してまった俺にも責任があるな。
だが、『本番同様の緊張感』を持ってやるには『これ』が一番最適だから修正案は出さないでおこう。
ー多分、『これから重ねる黒星』は『プレシャス』に必要なモノだから。
「…まあ、とは言うものの『このまま』で『終わらせるつもり』はないので、さっきのトレーニングで『いち早く敗北』した人は『次回』は善戦出来るようにしましょうね?」
いろいろと考える中、急に女史はニッコリとしながら言った。…その瞬間、フロア内の空気は別の意味で『重く』なる。
『イ、イエス、マムッ!』
…いや、ホント『女傑』だな~。
該当するメンバーが思わず敬礼するのを見て、俺は苦笑いを浮かべつつ女史からゆっくりと距離を取るのだったー。
ーそれから、数十分後。
「ーこんばんは。ブライトです」
『こんばんは、エージェント・ブライト』
メンバーと共に地上の拠点に戻る…フリをしてカノープスに残った俺は、遊撃隊用の『フロア』の中にある『リーダールーム』の1つに足を運んでいた。…そのルームの主は先程打ち負かしたレンハイム少佐だった。
「今日は、ありがとうございました。…おかげで、『プレシャスの課題』も見えて来ました」
「お役に立ててなりよりです。…あ、お掛け下さい」
「ありがとうございます」
促されたので、ソファーに座る。すると、少佐もデスクからこちらに移動した。
「……というか、-課題-が明確になったのはこちらも同じです。ありがとうございます」
しかし、互いの間に変な緊張感や微妙な空気が流れる事はない。むしろ、互いに感謝し合っていた。
「恐縮です。…あ、それで、皆さんは『大丈夫』でしたか?」
「ええ。私を含めた-戦闘チーム-全員、メディカルチェックはオールグリーンです」
「そうですか」
その報告を聞いて、俺はホッとする。…まあ、実は今回の『トレーニング』は裏でいろいろとやっていたのだ。
1つは、戦闘中でも見られた『実働チーム』と『サポーター』の連携強化。これは、単純な戦力強化が目的だ。まあ、『イヌ』は度々プレシャスメンバーとも連携をしていたがあれは『イヌ』達の自己判断によるサポートだ。
だが、今回は戦闘メンバーが事前に『プラン』を『イヌ』に説明した上でのきちんとした『連携』だ。
そして、2つ目の目的は『耐性強化』。要は『ウサギ』や『イヌ』の持つ『ショックレジスト』を『アンチショック』に強化させる事だ。
元々『彼ら』の装甲には、『エショックレジスト』…つまり、『エレキショックに抵抗出来る』素材が使われている。
だが、今後『連中』や『それに群がる害獣共』は『違法な出力のショック兵器』も運用してくるだろう。
だから、それに対抗する為には『トラ』のショックを数回に分けて打ち込み『アンチショック』…『完全無効』に『強化』する必要があるのだ。
無論、『制圧時モード』とは違い『低出力』でやっているが…『トラ』が強力ゆえどうしても気絶する程のダメージが発生してしまう。…勿論、『何かあった時』は直ぐに『トリ』で治療出来るように医療班に待機して貰ってはいたが、杞憂で済んで良かった。
「ー…どうやら、ご心配をお掛けしてしまったようですね。申し訳ありませんでした」
すると、こちらの様子に気付いた少佐が頭を下げ来た。…というのも、『強化案』は俺の出したモノと遊撃隊の出したモノを混ぜ合わせたモノになっているのだが、実は『装甲強化』は最初こっちで独自に進めるつもりだったのだ。
だが、彼らは『実際に装着した上で装甲強化に望みたい』と言って来たのだ。
…当然、俺は『不測の事故が起きる可能性』から難色を示したが『今後起きる-不測の事態-を可能な限り無くすためにどうしても必要な事』という説得を受け、許可を出すに至ったのだ。
そんな事を思い出しながら、俺は口を開く。
「…当然ですよ。
皆さんは、私の『頼もしい味方』なのですから。…そんな人達が『実戦』以外で、それも『カノープス』によって『何かあり』それが原因で『船を降りる』なんて事が起きたら、私はきっとこの先『特務』はおろか『秘宝』を探す事すらも辞するでしょう」
「……。…遊撃部隊総員、『そのような事』がないように努めます」
俺の真剣な言葉に少佐は少しの間何も言えなかったが、ふと敬礼をしてそう返して来た。
ー後に、このやり取りは『きちんと』遊撃隊に伝わるのだが……彼らの『尊敬度』が爆上がりしたのはいうまでもない。
…そんな『予想』を、俺は明確にイメージするのだったー。