ーSide『ガーディアン』
『ースターリン大尉、報告します。
キャプテン・グリフォン、オークレー曹長に勝利。
キャプテン・ロックスミス、ルーシュ曹長に勝利。
クラウゼル中尉、キャプテン・シュバルツに勝利。
…っ。たった今、キャプテン・ブライトがヴォルス中尉に勝利しました』
『…ありがとうございます、カーバイド大尉。引き続き、観測を頼みます』
『ハッ、お任せ下さい』
そこで通信は切れ、再び彼の居るトレーニングフロアは静寂に包まれた。なので彼は、『勝ち残り』が来るまでの間現在までの『状況』の整理を始める。
(…今の所、我々『戦闘チーム』が優勢か。まあ、『地の利』と『装備』。それから、念入りな『準備』のおかげだろう。
だが、そんな中マダム・クルーガー等の強者は悉く若手メンバーと『サポーター達』の強力なユニットに勝利している。…本当、彼らが味方で良かった。
ー…まあ、同志ブライトに関しては正直な所『あまり驚いて』いないのだけれど)
彼は、オリバーが勝っている状況を予め『想定』していた。…それは、彼がこのカノープスの所有者だからという単純な考えから来るモノではない。
(…害獣退治という『実戦経験』によって培われた、『気配察知』。物心のついた頃から鍛練を始めた、『バトンアーツ』。超人的な活動を可能にする、『身体能力』。
それだけでも恐るべき相手なのに、素早い『判断能力』にその場のモノ…敵の仕掛けたトラップさえも利用する『応用力』。
そんな圧倒的な実力に加え、『この船の大抵の事』は知っているのだからアルスターやヴォルスが勝てないのも無理はない)
彼は、2人が敗れた事を責める気は毛頭なかった。…逆に、善戦した事を心の中で称賛していた。
(…っ。これはー)
考察をしていると、装着している『ウサギ』のヘルメット内部に『サウンド』が流れた。それを聞いて、彼は考察を止める。…しかし、彼は武装を構える等の『準備』はしなかった。何故ならー。
『ーっと。あ、スターリン大尉。お疲れ様です』
『お疲れ、クラウゼル中尉。見事だ』
直後、彼の目の前に同じく『ウサギ』に身を包んだ『戦闘チーム』のメンバー…レオノーラが現れたので互いに敬礼する。
『ありがとうございます…というか、こうしてと-合流-したという事は……』
『…だろうな。
しかし、前日のミーティングで初日に-フェーズ2-に移行すると予測は出来ていたから、あまり驚かないが…』
『…自分もです』
彼女もまた、この『状況』を予想していたので冷静でいられた。それだけ、オリバーの実力を高く評価しているのだ。
『…今、こちらの陣営はレンハイム少佐、ハウ少佐、私、クラウゼル中尉、マグナス少尉、キンケイド少尉の計6人+サポーター6名の合計12名』
『対して、-プレシャス-の残り人数は10名。十分ですね。…ただー』
『ーああ。…キャプテン・ブライトがいる以上油断は禁物だ』
2人は、互いに頷き合う。…そんな中、『ウサギ』のヘルメットに『さっきとは違うサウンド』が流れた。
『来るぞ…』
『…さて、どなたでしょうか?』
2人は意識を切り替え、武装を構えた。直後、2人の男性…キャプテン・グリフォンとキャプテン・ロックスミスが現れた。
「「ーっ!…っ」」
2人は同じフロアに飛ばされた事に驚くが、直ぐに頷き合い軍人2人に向き合う。…この辺りの『切り替え能力』も『プロ』ゆえだろう。
だから、クルツとレオノーラは即座に攻撃を仕掛けたのだったー。
○
ーっ!…おわ、今度は『サンドフロア』か。本当、いろいろあるよなー。
ヴォルス中尉から回収した『スイッチ』を起動すると、次の瞬間には360度『デザート』が広がるフロアに居た。…っ。
改めて、フロアの種類が多い事に感心していると真横で『ワープホール』が発生したので素早く離れる。
「ーっ。…おや、貴方も此処に飛ばされたのですね」
しかし、予想に反し現れたのはクルーガー女史だった。…その瞬間、頭の中に別の予想が浮かんで来たのでそれを言葉に出す。
「…もしかすると、『タッグマッチ』になるのかも知れません」
「…なるほど。…ですが、どうして急に?」
「…多分ですが、『条件を満たしから』でしょう。…1つ確認なんですが、女史は何人撃破されましたか?」
「私は、アランドール少尉とアーヴィング少尉の2名を」
「私も、アルスター少尉、ヴォルス中尉の2名です。…そうなると、別のフロアでも既に2名はリタイアしていると考えた方が良さそうですね」
「…つまり、『軍人サイド』が『規定人数倒されると』今の状況になる…と。
…本当、『優秀な方々』ですね」
「ええ。……本当にー」
ふと、女史は『遊撃部隊』を称賛しつつ『ハンドサイン』を送って来た。…いや、正直俺の『気配察知』など足元にも及ばないな。
女史との『差』を実感しつつ、素知らぬ顔で返事をした。…直後、足元に広がる砂が急激に『凹む』。
「ー失礼します、女史」
「お任せしますわ」
なので、俺は断りを入れて女史にフロートバレットを撃ち間髪入れずに自分にも撃つ。すると、2人の身体は宙に浮いた。
「ーやはり、足元から来ましたか」
「…いやはや、完全に使いこなしてますね。…っ!女史っ!」
それぞれ違う感想を抱いていると、『移動』した直後に組み上げたマグネットバトンが『反応』する。しかも、女史の足元からなので俺は女史に声を掛けて手を伸ばす。
「はいっ!」
女史は素早くこちらの手を掴んだので、俺はそのまま女史を引き寄せる。…次の瞬間、女史の足元からショックバレットが飛んで来た。
「…助かりました。ありがとうございます。…厄介ですね」
「ええ。…どうやら、彼らは砂山の中にいろいろ『仕込んで』いるようですね」
「…どうしますか?」
「(ふう、仕方ないか…。…それにしてもー)いや、本当に女史がパートナーで良かった。
ーおかげで、『取って置きの1つ』を躊躇いなく使えます」
「…まさか」
「『リンクギフト』」
俺はニヤリとしながら、フロートガンとマグネットバトンにオーダーを出した。…すると、2つの武装は『共鳴』を始めた。
「『フロートフック』」
そして、マグネットバトンに向けてフロートガンのトリガーを引いた。
ーその最中、マグネットバトンが『反応』する。
「(素早い対応だ。…まあ、『見せた事ない動作』をしているのだから止めたくなるのも無理のない事だ。)
ー『アクセルモード・カウントスタート:10』」
けれど、俺は慌てる事なくオーダーを出しマグネットバトンを『手から離した』。すると、バトンは重力に従って床にまっ逆さまに…落ちる途中でピタッと止まった。
ー直後、俺の足元からショックバレットが飛んで来るが『マグネットフィールド・アクセル』…という電子音声が微かに聞こえた。すると、バトン全体から広域のフィールドが展開した。
「ーお見事」
次の瞬間、迫って来ていた筈のショックバレットはそのフィールドに『捕まり』、その周囲に留まってしまった。それを見た女史は、称賛してくれる。…さて、お次はどうする?
そんな事を考えていると、今度は足元からグラビティバレットが飛んで来るがー。
ー無駄ですよ。
しかし、グラビティバレットはフィールドに吸収されこちらに飛んで来る事はなかった。
「…ですが、これだと攻勢に転じる事は出来ないのでは?」
確かに女史の言うように、『守り』は安心だが『条件達成』は難しいだろう。……『普通』ならば、だがー。
「ー女史は、まだ『プレシャス愛』が足りないようですね」
「……。…そうですね。
確かに、良く考えると『そんな欠点のある武装』が『取って置きのプラン』である筈がないですよね」
僅かな言葉だけで女史はハッとし……そして、まるで子供のようなキラキラした瞳とワクワクした笑顔を向けて来た。
「その通りです。
ー「『リリース・レールガン』」」
だから、その期待に応えるべく俺は『コイン』を2枚取り出しそっと落とし力強くオーダーを出した。…当然、コインは『フィールド』に到達しー。
ー次の瞬間、コインは『超高速』でフィールドから撃ち出され砂山に隠された『発射台』を容易く潰した。
「ー素晴らしい。…さて、『これ』を見た相手はどうすると思いますか?」
「…そうですね。
仮に、俺が『彼ら』だとしたら『直接』ー」
その予想は、見事に的中する。やっぱり、最後は実力勝負になるようだ。…でもー。
「ー『フロート・フルパワー』、『グラビティアンカー』」
予想していたので、俺は慌てる事なくフロートを強化しワープして来た『イヌ』と『少佐達』には、『重力強化』をお見舞いした。
『ーっ!』
すると、彼らもフロートを強化した上で再度ワープしようとするがー。
「ーあ、お待ち下さい。私からも『プレゼント』を」
『…っー』
女史はそう言って、彼らがワープする直前で4つのショックナイフを目にも留まらない速さでホールに投げ入れた。
ーすると、数秒後。遠くの方から悲鳴が聞こえたのだった。
「…お見事です。女史」
「ふふ、流石に貴方ばかり『目立たせ』ませんよ?」
その早技に称賛を送ると、女史はため息の出るような美しい笑顔を浮かべるのだったー。