「ー…っと」
『割り振られたルーム』に移動すると、俺は直ぐに『薄暗い通路』の中で周囲を確認する。だが、気配は感じられなかった。…『ロストメイズ(廃墟迷宮)』か。随分と、『警戒』されてるな。
『割り振り』は、レンハイム少佐達主導なので俺は一切関与していない。…そして、『侵入者迎撃用』でもあるこの『エクセレント』なルームに飛ばしたという事は、向こうは俺の事を『難敵』と認識しているという事だ。
俺は、薄暗い中ニヤリと笑う。…光栄な事だな。『プロ』で『エリート』な彼らに、『そこまで』の評価をして貰えるとは。
そんな事を考えながら、その場所にしゃがむ。
「ー『マグネットバトン』」
そして、グラビティガンとショックガンを『マグネットバトン』にして『ヴァイオレットサイド』を床に当てた。…さて、『どこから』ー。
次の瞬間、頭上で『ノイズ』が発生したので俺は頭上にバトンを構えた。すると、甲高い音が通路に木霊する。
『…っ』
奇襲を掛けて来たフル装備の班員の人は、防がれた事に驚きつつ一旦距離を取った。…いや、まさか『1人目』が彼女とは。
『ーBOW!?』
動きの『クセ』でその正体を看破しながら、『イエローサイド』を背後に向かって付き出す。すると、『取った』と思っていた『イヌ』はビックリしたような鳴き声を出した。
『……』
「…いや、驚きましたね。『地の理があるから大丈夫』だと思っていたら、まさか『二段構えのワープ』で来るとは。
ーお見事です、ウェンディ少尉」
『……。…貴方程ではありませんよ。それにしても、どうして奇襲を予想出来たんですか?』
彼女はこちら以上に驚きつつ、質問をして来る。
「『これ』のもう1つのシステムですよ。
簡単に言うと、『テレポート』を先んじて感知出来るんです」
『……敵いませんね。ならばー』
俺は『ヴァイオレットサイド』を見せながら答えた。すると、少尉は心底驚くが直ぐに立ち直り『イヌ』と共に目の前から消えた。
ー……っ。
数10秒後。右側に『ノイズ』が発生するが、俺は直感的にガードせずに前方にダッシュする。直後、『ワープホール』から少尉…ではなく『何か小さなモノ』が出て来た音が聞こえー。
ー…危ない危ない。
背後から聞こえて来た『ショックノイズ』に、俺はため息を吐いた。どうやら、既に『オマケ付きのフェイント』を織り交ぜるプランに切り替えたようだ。
「ー…はい。そこ」
『BOW!?』
足を止めていると、『イヌ』が頭上から飛び掛かって来たので再度『イエローサイド』で迎撃する。…『ノイズ』は発生していないから、多分『2回目のワープ』で先回りし待機していたのだろう。
『BOWwww!?』
空中で避ける事が出来なかった『イヌ』は、文字通り引き寄せられるように先端に激突し悲痛な感じの鳴き声を上げた。…少し可哀想だが、『訓練』なのでしょうがない。
そして、すかさず『ヴァイオレットサイド』を床に付ける。すると、『イヌ』はビタッと床に引っ付いた。
「ー残念ですけど、『俺相手』には効かないですよ」
俺は、少尉に聞こえるように大きな声で言った。…すると、今度は『下と前』から『ノイズ』が聞こえた。
「(『解放』が目的だろう。)『マグネットフィールド・キャンセル』。
ー…ちょっと、我慢してくれよ?」
相手の『目的』は予想出来たので、素早く『拘束』を解除し…再び申し訳なくなりながら『イヌ』に『ヴァイオレットサイド』を押し当てる。
『ーBOW…』
「…コオォォォ……。せりゃっ!」
すると、『グラビティ』による拘束が発生し『イヌ』は再び床に押し付けられた。…そして、俺は『リミッター』を外し『その状態のまま担ぎ上げ』またダッシュした。
『ー…んなっ!?…っ!』
それから少しして、『2つのグレネード』…多分『フロート』と『ショック』が『ワープホール』から出て来た。…その後に、少尉は『直接』その場所に突撃して来たが『突っ込んで来る』俺を見て驚愕の声を出す。しかし、少尉は直ぐに体勢を立て直す事を決めたのかワープをー。
『ーっ!?』
その直前で、『着いて直ぐにセットしておいたトラップ』が作動し少尉は床に釘付けになってしまった。そのおかげで、テレポートは強制的にキャンセルされてしまう。…実は、チートじみたこのシステムは『こんな簡単』に無力化出来てしまうのだ。
『くっ!?……あ』
少尉は慌てて『解除』を始めるが、当然俺はそれをさせる筈もなくそのまま少尉に高速で接近し、背中に回り込んで『イヌ』の前足を肩に掛ける。
『ふぐぉっ!?』
すると、少尉はその『重量』に耐えれる筈もなく床にしゃがみ込んでしまった。…ふう。
『……はあ。まさかこんなあっさり負けるなんて…』
少尉の背中に『イヌ』をもたれかかせ武装を回収すると、少尉は悔しそうにした。
「まあ、『アドバンテージ』もあったのですからあまり気を落とさずに」
『……。…それでも、悔しいモノは悔しいです……』
フォローをするが、少尉は気持ちを持ち直さなかった。…今までは『手合わせ』だけだったけど、今回は『模擬戦』だから意気込みが違かったのだろう。それに、『こっちは最低限の武装』しか使っていないのに簡単に状況を覆されたのも大きいのかも知れない。
「(ーあ、そうか。)…ウェンディ=アルスター少尉。ちょっと失礼ー」
そんな考察をしていた時、ふと『良いフォロー』が思い付いたので断りを入れて少尉の前にしゃがむ。
「ー良かったじゃないですか。『一番最初に弱点』を知れて。そして、『こういう状況が起こり得る』と知る事が出来て」
『……あ。…確かに、そうですね。我々は、心の何処かで-過信-していたのかもしれません』
すると、少尉はハッとしたような声を出した。そして、少しづつ雰囲気に明るさが戻って来た。
「…今日は本当に『良い機会』ですね。
だって、『伝えたい事』を一気に伝えられたんですから」
『……。…ありがとうございます。同志ブライト。
ーそれでは、-こちら-を』
その言葉を聞いた少尉は、完全に元の調子を取り戻しこちらに礼を言って来た。そして、少尉は気持ちを切り替えポケットから『使い捨てのワープスイッチ』を取り出した。
俺はそれを受け取り、立ち上がる。
「いえ。…それでは、失礼します。
あ、『キャンセル』は『直ぐ』に発動しますのでご安心を」
そう言って俺は『スイッチ』を押し、別のルームに飛んだー。
○
ーSaid『ガーディアン』
「ーっ!」
同志ブライトが移動した直後、ウェンディと『サポーター』に掛けられていた『拘束』は外れ彼女達は自由になった。
『ー…お疲れ様でした。アルスター少尉』
すると、情報班のアマルティア少尉が通信を入れて来た。…実は、今回の模擬訓練には情報班も参加しているのだ。
『…申し訳ありません。あまり、お力にはなれなかったようです』
『…先程同志ブライトが仰っていましたが、-アドバンテージ-があったので-今回-は仕方のない事ですよ』
『…ですね。…いや、流石-オーナー殿-は凄いですね』
『…ええ。…ですが、同志ブライトだけが-知っている-この状況はよろしくないでしょう。
我々も、もっと-カノープス-を知らなければなりません』
『…そうですね』
『BOW?…BOW!』
彼女がそう決意していると、『イヌ』が不思議そうに彼女を見たので彼女はなんとなく頭を撫でる。すると、とても嬉しそうな反応をした。
(…なんか、『本物のイヌ』みたい)
『…それでは、オペレートを終了します。
少尉達も-こちら-にお越し下さい』
『了解しました』
そして、通信は切れたので彼女と『イヌ』は『観測ルーム』に移動したー。
ーまさか、カノープスの関係者全員が『真実』を知るなんてこの時はまだ誰も知る由はなかった。