『ーサーシェスカンパニー、またもや-自爆-』
…そんな『バカみたい』な見出しのニュースが、連盟全土に広まるのにそう時間は掛からなかった。
その内容は、1つ目のロストチップに記録された『パインクト星系』にサーシェスカンパニーが『違法航行』をしたとの事だ。
…まあ、星系全土が危険地帯だからそもそも入った時点で管轄する合同艦隊が勧告を発令し、無視した場合は『安全』の為に強制拿捕されるのだが……。…なんと連中は、『近隣』の星系から『ヘビ』と『トラ』のレプリカを複合した船で超高速航行をしながら当星系に侵入し、合同艦隊の警戒網を突破。そして、船に積まれていた『ウシ』のレプリカで『彗星をどかしながら』座標の場所に向かおうとしたのだ。
…しかし、『オリジナル』と比べてサイズを始め『様々劣るレプリカ』にそんな芸当が出来る訳もなく、『レプリカ』は直ぐにオーバーヒートを起こし『ツノ』が破損。そして、『無理やりリンク』していた『ヘビとトラのレプリカ』にもダメージが伝わり数分後にはステルスが解除。
その時点で、艦隊は『侵入者』に気付き即刻強制拿捕に入ったのだが……直後、『最大級』のトラブルが発生する。
…ダメージを受けた『トラのレプリカ』が突如『ウシのレプリカ』に大量の電流をリターンしたのだ。結果、『ウシのレプリカ』の『ツノ』は異常をきたし損傷が酷くなるのもおかまいなし『恐ろしい程の引力』を発生させ……2~3個の『巨体彗星』を引き寄せたのだ。
ーそんな絶体絶命な中、艦隊は総力を結集させて彗星をなんとか破壊。…『連中』はなんとか危機を出し『無事』に拿捕され、そして取り調べの後に情報が開示された…という訳だ。
まあ、勿論『レプリカ』の所は上手い事ボカされてるが。…はあ。
『ー…全く、遠く離れた場所からでも我々のメンタルを削ってくるとは……。心底、厄介な連中ですね』
内心深いため息を吐いていると、詳細な情報を送ってくれたカーバイド大尉は実に正直な感想
を口にした。
「…ですね。…あ、わざわざ詳細な情報を送っていただきありがとうございます」
『いえ。…むしろ、お疲れのところ連絡してしまい申し訳ありませんでした』
こちらがお礼を言うと、大尉は少し申し訳なさそうにした。なので、俺は首を振る。
「大丈夫ですよ。今日は、『割とあっさり』クリア出来ましたから」
『……相変わらず、凄い事をサラッと言いますね。
…では、私はこれで失礼します。それと、追加情報が来ましたらお伝えしますね』
「はい、ありがとうございます。ではー」
そこで通信は切れ、俺は『エージェント用』のデバイスをオフにした。…そして、『日常用』のデバイスの待機モードを解除する。
ー直後、通信ツールが自動で起動した。
『ー夜分遅くに失礼する』
『こんばんは、マダム。それに、オリバーも』
『こんばんは、マオ老師。ジュール大将』
そして、画面に老師と大将と女史の顔が表示された。…お三方の顔には、明らかに『呆れ』が浮かんでいた。
「こんばんは。マオ老師とジュール大将はお久しぶりです」
『ああ、久しぶりだな』
『ええ。…そうだ。せっかく-君-が居るのだからちょっと聞きたいのだけれど。
ーやっぱり、-連中はレプリカ-を使っていたのかな?』
ふとジュール大将が確認して来たので頷く。…すると、お三方は更に呆れた。
『…やはりか……。つくづく度しがたい』
『…全くです。…しかし、-劣化レプリカ-とはいえ-あの力-でも困難とは。厄介ですね』
…まあ、ある意味『デモンストレーション』になってくれたので助かったといえよう。しかし、『別の方法』を考えなくてはならなくなったな。
『…どうやら、彼にとっては-そうでもない-ようですよ?』
『…ほう』
『いやはや、失敬しました』
なんとなく『クリア方法』を考えていると、お三方は俺に注目した。…しかし、今の所は妙案は出て来ないのでー
「ー…そういえば、お二人の方は大丈夫でしたか?」
『勿論だ』
『流石に連中もそこまでバカではないですよ。-副産物-も、既にしかるべき組織に渡しています』
「良かった。…まあ、今後は『妨害』をあんまり気にする必要はなくなるでしょうね」
『…そうか。-裏の顔-が世間に知れ渡り、尚且つ-移動制限-が掛けられたからまともに動けなくなりますね。…ただー』
『ー油断は禁物だ。連中には-ドラゴン-がある。…それに、-この間-のような-禁忌-的なモノや、まだ明かされていない-手-があると考えた方が良いだろう』
「…ですね」
『…あれは、思い出すだけでも身の毛のよだつ体験でしたね……』
そういう女史の表情は、少し青ざめていた。…正直、俺もちょっと鳥肌が立っている。
『…すまない、嫌な事を思い出させたな』
「…お気になさらず」
『…お気遣い、感謝致します』
『…会合は、ここまでにしましょう。
あ、そうだー』
すると、老師は直ぐに謝って来た。そして、大将も終了を宣言し自分のウィンドウ内に別ウィンドウを展開した。
『ーこれが、老師と私のチームが回収した-手掛かり-が示した-次の座標-です。…とりあえず、老師も私も今居る場所から-かなり-離れているので、マダムとオリバーのチームが回収を完了次第改めてどうするか決めたいと思います』
「分かりました」
『了解ですわ』
『…では、吉報を待っているぞ』
『失礼します』
『はい。…それでは、私もこれで失礼します』
こちらが返事をすると、老師と大将は『サイバールーム』から退室する。そして、それを確認した女史も退室をした。
ー…ふう。
俺はデバイスを閉じ、椅子の背もたれに背中を預け考え始める。
…さて、どうするかな?『パインクト』の攻略は……。
正直、妙案が全く出て来ない。…さっきのリモート会議でも言ったが、『連中』のやり方に近いプランを考えていたのだ。けれど、『ありがたい事』に確率計算の結果を待たずして『失敗のビジョン』が見えたので、俺は頭を抱える。
……あ。…まあ、『ダメもと』でー。
その時、ふと『望み』が見えたので『そこ』に連絡してみる。
『ーはい、セリーヌです。如何されましたか、オリバーs…先生』
すると、まるで待ち構えていたようにワンコール以内でセリーヌが画面に表示された。
「すまないな、夜遅くに」
『そんな…。…私は-疲れ知らずの身-ですし、それにもう-貴方様の部下-なのですからお気遣いは無用でございます』
夜分に通信した事を謝ると、彼女は感動と恐縮が混じった様子でそう言った。…尚、彼女の言うように既に契約済みだ。
「(…凄く食いぎみに即答したよな。)…そういう問題じゃない。俺が気にしているから、謝っているんだ」
『……。…どうして、貴方様はそんなにも。
っ!し、失礼致しました…』
すると、彼女は熱い視線を送って来るが直ぐに気を取り直した。
「良いよ。
ーそれで、ちょっと聞きたい事があるんだけど」
『…もしや、私の-同志-についてですか?』
…もしかすると、本当に待ち構えていたのかも知れないな。まさか、こうも話しがスムーズに進むとは。
彼女の『想定力』に驚きつつ、俺は頷く。
「やっぱり、君をクルーにしたのは正解だった。
…聞きたいのは、『シュミレーション』作成が得意な『ヒト』が居るかどうかだ」
『……。…驚きました』
質問を聞いた彼女は、俺と同じように驚いた。…どうやら、『居る』みたいだがー。
『ー…実は、紹介しようかどうか迷っていたのです』
彼女は、申し訳なさそうに言った。…そうか。『攻略は手伝わなくて良い』というオーダーと、『クルーとして手伝うべきなのでは?』という思考とで板挟みになっていたのか。
そう気付いたので、俺はプレッシャーを与えないように笑う。
「すまない、『クルー』として『どう動いて欲しい』かをちゃんと伝えてなかったな。
ー次からは、『その判断や行動が-カノープス-の益となるなら』遠慮なくやってくれ」
『…っ!はいっ!次からは、そうしますっ!』
すると、彼女の顔から不安は消えキラキラと輝く笑顔で返事をするのだったー。