ーSaid『ブラザー』
ーその日の昼。ファストディーンの士官スクール内にあるレストエリアは妙な緊張感に包まれていた。…その理由は、ついこの間まで不登校だった『移民組』だ。
「…どう思う?」
「…正直、見当がつかないな……」
他の生徒達と同様に、遠くから彼らをチラ見していたロランとアンドリューは考察…『なんで彼らは今日急にコミュニケーションを取ってきたのか』を考える。だが、当然『事情』を知らない2人は答えにたどり着く事はなかった。
「…だよな~。…てか、アイツら『普通』に話せたんだな」
「…朝、寮でアイツらと出くわした人達は相当びっくりしてたな……。……?」
2人が話している最中、ふと彼らが周りの生徒達に話し掛けて始めた。…だが、生徒達は何故か謝るばかりだったのだ。
「…何してんだ?」
「…そういえば、2コマ目の実習の終了後にアイツらだけ教官に呼び止められたな。だとするとー」
「ーちょっと聞きたい事ガ有るんだけど…」
ロランが『移民組』の目的を察した、ちょうどその時。件の女子生徒が、2人の前にやって来た。
「…どうした?」
「…『第3相談ルーム』って、どうやって行けば良いか知ってル?」
「「……っ」」
彼女は、少し申し訳なさそうに聞いて来た。…その態度に、2人はかなり驚いた。何故なら、最初彼女に抱いていた『傲慢そうな』印象とは真逆の人物だったからだ。
「…貴方達も、知らないノ?」
「…っ、違う違う。
行き方なら、知ってるよ」
すると、彼女は残念そうにした。2人の沈黙を『ノー』と捉えたのだろう。だからロランは、慌てて訂正した。
「…っ。もしかして、『友達』も『他の相談ルーム』を探してる感じか?」
「っ!ソウだよっ!…え、まさか『ソコ』も知ってるの?」
すると、事情を察したアンドリューは彼女に聞く。直後、彼女は表情を明るくして確認して来た。
「…っ。ああ…」
「(…うわ、これは『キク』な……。)…任せてくれ」
その表情を見た思春期真っ盛りな2人は、胸が高鳴るのを感じた。彼女はなかなかに美少女だったので、それが凄まじい破壊力に変換されたのだろう。
「ジャア、皆呼んで来るねっ!」
そんな2人の心情を知る由ない彼女は、嬉しそうにメンバーを呼びに行った。
『ー……?』
『……っ!』
そして、直ぐに2人の前にメンバーが集まった。…その顔には、驚きや戸惑いがはっきりと浮かんでいた。
「(…そんなに意外か?)じゃあ、案内するので着いて来て下さい」
『……っ』
彼もその態度に疑問を抱くが、決して表情には出さずに『案内モード』に切り替えた。…すると、何人かのメンバーが『居心地悪そう』にしていた。
「…どうかしましたか?」
『…イヤ、何でもない……』
アンドリューが聞いてみるが、彼らは『その理由』を語る事はなかった。
…その後、2人と彼らは微妙な空気を纏ったまま『相談ルーム』に行くのだったー。
○
『ーマニュファクチャースクールのフェンリーです。ブライト教諭、宜しいでしょうか?』
「(…ほう。)どうぞ~」
『時間』の少し前な上に予想外の人物が来るが、俺は慌てずに入室を許可する。
「…さ、どうぞ」
「…し、失礼シマス……」
俺の疑問をよそに、フェンリーさんは移民組の男子生徒に入室を促した。…どうやら彼女は、『クラス委員長』気質のようだ。
「ありがとう、フェンリーさん」
「いえ。それでは、失礼します」
彼女は品のある所作でお辞儀をして、来た道を戻っていた。…尚、案内して貰った男子生徒はぼぉっとその後ろ姿をいつまでも見送っていた。
「…いやー、流石良い所の令嬢なだけあって外見も性格もパーフェクトだよな~?」
「…ハイ。……っ!す、スミマセン……」
俺は、あえて正直な感想…恐らく彼が抱いているであろう感想を口にした。…すると、彼はぼんやりと頷いた直後ハッとし素早く対面の椅子に近いた。
「…どうぞ」
「…ハイ、失礼します」
そして、着席を許可すると彼はたどたどしくではあるが静かに座った。…いや、本当セリーヌは『オーダー』を完璧に遂行してくれたな。
『塾長』に感謝しつつ、俺はニヤリとしながら彼を見る。
「…無事『課題』をクリア出来たな。しかし、まさかフェンリーさんに頼むとは思わなかったが…」
「…ソノ、僕が困ってたら話し掛けて来てくれたのでお願いしました」
彼は、少し照れながら答えた。…実は、今日『復帰』するにあたり彼を含めた移民組の生徒達に『相談ルームの場所を生徒ないし教諭の方々に-通訳器無し-で尋ねる』という『課題』を、前々から通達しておいたのだ。
まあ、此処の関係者は皆親切な人達だから多分『ココ』まで案内してくれると踏んでいたが、まさか彼女の方からアプローチをして来るとは…。…勘だけでなく、困っている人を放って置けない優しい娘のようだな。…うーん、これはー。
「ー…ブライト先生?」
「…いや、なんでもない(なんか、そんな良い娘だと『黙っているのが』申し訳なくなって来るな。…聞けば、『俺』に相当な憧れを抱いてちるようだし)」
なんとなく罪悪感を覚えつつ、俺は手元のタブレットを操作し『とあるルール』を表示した。
そして、その状態でタブレットを彼の前に置く。
「…さて、本題に入ろう。
こうして無事に再登校を果たせた君達だが、大変なのはこれからだ。
まずは、その『スクールルール』にざっと目を通してくれ」
「ハイー」
彼はタブレットを持ち上げ、言われた通り軽く内容を読んでいく。…すると、直ぐに表情が険しくなった。
「ー…読みました。…これは、ホントに『大変』ですね」
「…まあ、これも『秩序を守る為』だよ。
とりあえず、それにあるようにしばらくは『不登校分』の遅れを取り戻すべく『補習』漬けの日々を送って貰う事になるだろうが…。…多分、大丈夫だろう。
ー何せ、一番大変な『言語』と『常識』をこの短期間で習得出来たんだから」
「…っ」
すると、彼の表情は少し解れた。だから、俺は更に続ける。
「…それに、『コミュニケーション』は取れるようになったんだからそんなに長くはならないだろう」
「…ハイ」
その言葉で、彼は大分和らいだ表情になった。…うん、やっぱり『課題』を出したのは正解だったな。
そんな事を思いながら、俺はタブレットを待機モードに移行する。
「…とまあ、復帰後のルールはこんな感じだな。
つまり、今日からが『本番』って訳だ。頑張れよ」
「ハイッ」
「まあ、俺も出来るだけフォローはするつもりだが…何か不安な事とか気になる事はあるか?」
「……えっと。……ー」
すると、彼はまたぼぉっとしてしまった。…ああ、これは間違いないな。
やはりというか、彼はフェンリーに好意を抱いているようだ。まあ、あんな清楚系美少女に優しくされたら大抵の思春期男子は誰だって惚れるだろう。
「…1つ忠告しておこう」
「…っ!?……何ですカ?」
彼を『復帰』させる為に、ほんの少し『圧』を放ちながら口を開く。当然、彼はぎょっとしてこちらを見たので俺は圧を消した。
「彼女…フェンリーは帝国のみならず銀河連盟にその名を轟かす家のお嬢様だ。
それに、『聞いた話し』だとどうやら卒業後直ぐに『プレシャスの専属』となるようだな」
「…っ。……『プレシャス』って、何でスカ?」
その話しを聞いた彼は、呆気に取られた。…だが、ふと彼は質問をしてきた。
「『俺』も所属している、銀河連盟公認の『秘宝ハンター同盟』だよ。
ちなみに、『由来』は今尚大人気の『アドベンチャーノベル』のタイトルだな」
「…そんな団体が……。……」
それを聞いた彼は、少しだけ『冷静』になった。…多分、『叶わぬ恋』だと悟ったのかも知れない。
「(…まあ、真面目にやってればいつか『良い出逢い』もあるだろ。)
他に、なんかあるか?」
「…いえ、ダイジョブです」
「そうか。…じゃ、今日から頑張れな」
「ハイ。…では、失礼しまス」
すると、彼は席を立ち上がり部屋を出て行くのだったー。