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新たな日常

 ーイデーヴェスに来て、そろそろ半月に差し掛かる頃。俺は、いつものようにファームスクールに出勤し教員ルームのデスクにてタブレットを見ていた。

「ーおはようございます」

『おはようございます』

「おはようございます」

 すると、ラハット先生が出勤して来たので他の先生方と共に挨拶をする。そして、彼は俺の隣にある自分のデスクに来た。

「おはようございます、ラハット先生」

「おはようございます、ブライト先生。…どうです、慣れましたか?」

「ええ、お陰様で」

 軽く会話をしつつ、互いに1コマ目の授業の準備をテキパキと進めて行く。…その最中、ふとラハット先生は『怪訝な表情』をした。

「…ラハット先生、どうかされたんですか?」

 その表情に気付いた別の先生が、心配そうに声を掛けた。…勿論、俺も気付いているが『理由に検討がついている』のであえて自分からは言わない事にしていた。

「…いや、大丈夫です」

「そうですか?…っと。……え?」

 ラハット先生はなんとか表情を柔和なモノにして、作業を続けた。なので、隣に座る先生もそれ以上聞こうとはせず作業を再開した。…すると、直後にその先生もタブレットの画面を二度見する。

『ー……え、嘘』

『…ど、どうなっているんだ……』

 それから程なくして、教員ルームがざわざわとし始めた。…その理由は、『今日の生徒の出席情報』だろう。



「ー先生方、失礼します」

「失礼します」

 数分後、ざわざわしている教員ルームにシュミット学長と教頭が入って来た。…その2人の表情はとても真剣なモノだった。

「おはようございます、先生方」

『……っ。おはようございます、学長』

「…さて、既に知っている人もいるでしょうが改めて、現状をお伝えしておきましょう。

 ー現在、全スクールは『同じ状況』になっています。…すなわち、『不登校の生徒達』が登校して来ています」

『……』

 学長は、淡々と事実を話す。…だが、他の生徒達は耳を疑っていた。まあ、ついこの間まで『問題児扱い』していた『移民組』が全員登校しているのだから、警戒や疑念が浮かぶのも無理ないだろう。

「…尚、スクール本部からの通達は『-スクールルール-に則って生徒達と面談をして下さい』との事です。

 ーですので、本日放課後に対象生徒との面談を行います。手の空いている先生は、協力をお願いします」

『…はい』

 先生方はかなり不安そうにしながら頷いた。…その理由は、『話しが出来るか』が大半を占めているのだろう。

「…それでは、失礼しました」

「…尚、『協力申し込み』は私の端末にお願いします」

 そして、学長と教頭は教員ルームを出て行った。…さてと。

「…あれ?…ブライト先生、何だかあまり驚いていませんね……」

 既に準備を終えていた俺は、直ぐに『申し込み』をして席を立つ。…当然、ラハット先生は少し驚きながらこちらを見た。


「…え?『来なかった生徒』が来ただけで、そんなに『驚きますか』?」

「…っ」

『……っ』

 その言葉に、ラハット先生のみならず他の先生方もハッとさせられた。…まあ、気持ちは分からないでもないがちょっと『オーバー』な気がするな。なんと言うか、『腫れ物を扱う』ようなリアクションだ。

 ーそもそも、『此処の生徒』は何一つ悪い事はしていないのに。

「…っと。では、私はこれにて」

 ほんの少しだけ先生方に呆れつつ、俺は教員ルームを出たー。



「ーおはようございます、ブライト教諭」

「おはよう、ロゼ」

 それから、先に講義ルームに向かっていたロゼと合流し最終的なミーティングをする。…すると、まるで『確認していた』ようなタイミングで通信が入った。

『ーおはようございます、ブライト教諭』

「おはようございます、セリーヌ。…そして、ありがとうございました」

 俺は挨拶を返すと、彼女に頭を下げ感謝を示した。…何せ、移民組が登校して来たのは彼女が尽力してくれたお陰だからだ。

『……勿体ないお言葉です。

 私は、ただ己に与えられた役目を全うしただけです。それに、そもそもブライトさ…教諭が-生徒-を呼んで下さらなければ……』

 すると、彼女は恐縮している旨を口にするがその瞳をうるうるとさせながら歓喜していた。…彼女は『何が当てはまる』かな。

「…ブライト教諭?」

「……。…なあ、2人共ー」

 俺は2人に『大事な事』を話そうとするが、その時準備ルームに来客が来た。…まだ、授業開始までかなり時間があるんだけどな。

「ーはい、どうしました?」

 やれやれと思いつつ、エアウィンドウを展開する。…すると、そこには件の移民組の生徒達が映し出された。

『ーあ、スミマセン。…今日、-当番-らしいのですが入っても大丈夫ですか?』

 …いや、まさかこの短期間にこんなにも流暢にこっちの言葉を話せるようになるとは思わなかったな……。

 成果は合間合間で見て来たが、改めて彼らの成長スピードに驚いた。

「…ちょっと待っててくれ。

 ーとりあえず、今日の昼間にまた『話す』」

『…畏まりました。それでは、失礼します』

「分かりました」

「…さて。

 ーどうぞ~」

「ー失礼します」

『失礼シマス』

 とりあえず、2人への『勧誘』は後回しにして生徒達を中に入れた。

「じゃあ、そこに乗ってる教材を隣のルームにある各デスクに運んでくれ」

『ハイッ!』

 彼らは元気良く返事をすると、2人1組で箱を持ちテキパキと教材を運んで行った。

「…本当に、『言葉』って大事ですね」

「全くだ(…ああ、悩む事はなかったな)」

 それを見ていたロゼが、ふと呟いた。…その時、セリーヌの『最適な役割』を思い付いたのだったー。



 ○



 ーSaid『マイスター』



 ーその日、アイリス達は朝から驚かされた。…まず、先週まで長期不登校していた生徒達と寮のフードコートで出くわしたのだ。

 しかもその際ー。

『ーお早うゴザイマス!』

『ーっ!?』

 なんと、すれ違う時に彼らの方から挨拶をして来たのだ。今までは、こちらがいくら挨拶しても無視されていたのだったがまるでその日々が夢だったかのような変わりように、彼女達は勿論他の生徒達や寮のスタッフ達でさえも驚愕した。

「…え、なに、どうなってんの?」

 リコリスがオーダーカウンターに向かう彼らの背中をぽかんと見ていると、一足先に復帰したグループのメンバーが全員の心情を代弁した。

「…とりあえず、席に行きましょう」

『…はい』

 すると、アイリスがメンバーに声を掛けた。なので彼女達はなんとか足を動かし空いているテーブルに着いた。

「ー…いや、確か、彼ら『遠方』から来た人達でしたよね?」

「…その筈だったけど。…にしては、凄く『普通』に挨拶して来たよね……」

 そして、朝ゴハンをある程度食べた彼女達はたまたま近くのテーブルに座る移民組の生徒達について話し始める。

「…もしかして、今まで無視してたのって『言葉』が分からないからだったのでしょうか?」

「…いや、普通はある程度話せるようになるか『通訳器』を付けると思うんですけど……」

 ふと、リコリスは『鋭い予想』を口にするが同級生はそれを否定した。…しかし、アイリスはー。

「ー…あり得ない事ではないかと思います。

 そもそも、彼女達は通訳器を付けてはいませんでしたし……授業中の『態度』も『そうだと』考えると納得出来ます」



「…いや、でもー」

「ーそもそも、彼女達は『移民組』です。…確か、『連盟非加盟星系』は大半が貧富の差が激しいと授業で習いました。

 だとすると、『勉強出来なかった』と考えても何もおかしくありません。

 …ただ、そうなると『どうやって入試をクリア』したかが気になる所ですが、まあ『此処で考えても仕方ない』事なのでしょうね」

 尚も異を唱えるメンバーに、彼女は凛としながら自らの考えを話した。

「…つまり、『なんらかの意向』が働いていると考えているのですか?」

「…そうでなければ、彼女達は今も尚此処に居られないでしょう」

「「…確かに……」」

「ーあの、チョット良いですか?」

『ーっ!』

 彼女達が話していると、不意にその1人が声を掛けて来た。…当然彼女達は、ビクッと跳ねた。

「…ど、どうしたましか?」

「…エット、今日デバイスを見たら『授業当番』っていうメールが来てたんデスケド。どいういう事ヲやるんですか?」

「(…何でまた、彼女達に?…やはり、先程の『予想』はかなりの確率で当たっていますね……)えっとですねー」

 アイリスは自分の予想に自信を抱きながら、丁寧に対応するのだったー。


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