ーSide『シスター』
『ー非常事態ガ発生シマシタ。安全ノ為ドアヲロックシマス』
スクールの自習ルームに到着した矢先、突如アラートが鳴り響き他の生徒が慌てふためいている間にドアがロックされた。…勿論、リコリスも驚いているが『不安』はなかった。
「…一体、何が起きているんですか……」
「…まさか、『例の犯人』が私達をも標的に……」
「…っ、リコリスさん、大丈夫ですか……?」
近くに居たグループメンバーも互いに身体を寄せ合いながら震えていた。…そんな中、年長者であるアイリスが彼女に声を掛けた。きっと、不安で声も出ないと思ったのだろう。
「…まあ、『大丈夫』じゃないと言ったら嘘になりますが、『そこまで』ではないですよ?」
だから、安心させる為になるべく冷静な表情で返した。…すると、他のメンバーは唖然とする。
「…ホント、リコってハートが強いよね……」
「…事件が起きた時も、1人だけ冷静だったし……」
「…まあ、実家が軍人の家だからかな。小さい頃から父が『オールドバンデット』相手にして来ているから、『荒事』には耐性が付いたのかも」
「…そういえば、セサアシスって『高級リゾート』があるからか『そういうの』も湧きやすいんだよね。…この間の事件は、流石に驚いたけど」
「…っ……」
ふと、メンバーがその話題を出した時アイリスは深刻な表情をした。
「…?フェンリー先輩、どうしー」
「ーはい、2人はちょっとこちらに来ましょうね」
「…え?」
「…っ、はい……」
それに気付いた世情に疎いメンバーが心配そうにした時、話題を出したメンバー諸とも護衛の女性に腕を引かれ壁際まで連れていかれた。
「(…しまった。フェンリー先輩、この間リゾートで軟禁されてたんだっけ……。…しかも、『噂』によるとご家族やお手伝いさん達と一緒に誘拐されそうになったとか……)…すみません、フェンリー先輩……」
彼女は瞬時に事情を思い出し、自分の不手際を謝罪した。
「……すみません、気を遣わせてしまって……。…ダメですね……。こんな時こそ、高等部の私が少しでも皆さんの支えにならないといけないのに……」
「…いえ、無理もないと思います。…多分、正規の軍人くらい強いメンタルを持っていなければトラウマになるんじゃないでしょうか……」
アイリスは情けないと思っていると、リコリスは『家族同然のプロ達』の顔を頭に浮かべながらはっきりと否定した。すると、彼女は少し表情を和らげ……直後に興味の顔になった。
「…こんな時に聞く事ではないですが、リコリスさんって基地の方ともお知り合いなのですか?」
「はい。物心ついた時には、実の兄の他に沢山の『お兄さんやお姉さん』が居ましたね……。
…まあ、母とそ…『大母様』が良くホームパーティーを企画していたからというのもありますが」
その質問に、彼女は懐かしそうに語る。…時折、ハッとして『訂正』するのは家のルールで『禁句』になっているからだ。
「…へぇ。…お2人共、とても『お強い』のね」
「…出身が出身ですからね。…大母様は現役時代、此処で教鞭を執っていましたからバイタリティーとメンタルと『論争力』が半端ないですし、母も『農家の娘』なので押しはなかなか強いです」
「…なるほど。……ちょっと待って下さい?確か、お母様の出身は『グリンピア』でしたよね……。…ひょっとして?」
「…え、マジ?」
「…はい、話しに割って入らない」
『……』
ちょうどその時、いつの間にか『説教』から解放された同級生2人が真横に居た。…そして、周りに居た生徒達が彼女達の話しを興味津々に聞いていた。多分、最初は恐怖心を紛らわせる為に聞き耳を立てていたと思うのだが気付けば興味心が勝ったようだ。
「…えっと、別に隠していた訳では無いですよ?」
『………』
生徒達は、驚きのあまり言葉を失った。まさか、有名人の親戚が身近に居たとは夢にも思っていなかったからだろう。
「…驚きました。……となると、さぞそちらとの交流も頻繁に行われて来たのでしょうね」
「はい。入学前は、『向こう』で年末年始を過ごしていました。…けど、まさかオリ…ブライト先生があんな人気者になるとはその同時は予想も付かなかったですよ……」
「…インタビューで語っていた事も、知らなかったのですか?」
「…ええ(…それもあるけど、一番はやっぱり『グリンピアの外』で活躍しているとは夢に思わなかった。…だって、オリバー兄さんは『あの人』と同じように重度の『無重力酔い』ー)」
「ー……リコリスさん?どうかされましたか?」
「…いえ。…良く思い出してみると、先生は時折大人達と一緒に行動しているのを思い出しました」
気付けば彼女は、『とんでもない推測』を立てていたがそれを悟られないように過去を語った。
「…それだけ、周りの大人達からも信頼が厚かったってことがだよね……」
「…凄いです……」
「…ええ」
アイリスはグループメンバーと共に感心するが、内心では直感的にリコリスが『誤魔化した』と気付いた。勿論、彼女はリコリスにそれを問いだ出す事は今後絶対にしないと決めていた……のだが、運命の悪戯か直後ー。
『ーっ!?』
緊張が緩んでいた生徒達は、恐怖に怯え始める。…緊急停止していた筈の自習用端末が、突如再稼働し始めたのだ。
「…な、なんなのですか?」
「…や、ヤバくない……」
「ー生徒の皆さん、落ち着いて下さい」
それだけなら、生徒達が恐怖する事もなかったのだろう。…問題は、モニターに大量の『エラーコード』が表示されスピーカーからはデタラメなメロディが流れているからだ。…すると、外と通信していた護衛の1人が再度生徒達を落ち着かせる。それと同時に、リコリス達の護衛は他の同僚達と共に端末を操作する。…が、直後その表情は険しい物になった。
「……まさか、『メインシステム』がクラッキングされている?」
(…嘘。それじゃ、『此処に居るの』って危険なんじゃ……)
ポツリと漏れ出た小声を聞いてしまったリコリスは、瞬時にそう考えた。…何故ならー。
『ーひっ!?』
…その矢先、異様な空気に支配された自習ルームのドアから激しい音が聞こえて来た。…ドアも厚くその上防衛シャッターが展開しているにも関わらずだ。
「…っ!皆さん、班ごとに固まりルームの奥に退避して下さいっ!」
『…っ!は、はいっ!』
『最悪の事態』を悟った護衛の誰かが、瞬時に避難指示を出す。すると、アイリスを始めとするハイスクール生が率先して動き出しグループメンバーを呼んで迅速に奥に退避した。
ーその間も、ドアは激しく振動していた……が、護衛が一列になって生徒達の前に立ち『シールド』を展開したその時、不意に振動が止まった。
『……。…っ……』
だからほんの一瞬、生徒達は緊張を緩めるが……直後に顔から血の気が引く。
…ドアの向こうから、『何かが引き摺られる』音が聞こえてきたのだ。この状況でそんな音が追加されれば誰だって恐怖を感じるだろう。
『……。…っ!』
更に、追い討ちを掛けるように今度はモニターが一斉に停止した。…そのせいで、恐怖が限界に達した生徒の数人がすすり泣きを始めてしまった。
(…誰か……ー)
『ーっ!?』
リコリスも、恐怖で『この場に居る筈のないヒーロー』の助けを求めていた。…しかし、聞こえて来たのは『電子ロックの解除音』だった。
『……あ……』
「スタンバイッ!」
『了解っ!』
いよいよ数人の生徒が失神しそうになるなか、護衛チームは武装をドアに向ける。…そして、少ししてドアはゆっくりと開き始めたー。