ーSaid『ブラザー』
(ー…っ、あれは……)
翌日明朝。ランニング中のロランは、空を翔る『白銀のトリ』の群れを見掛けた。…それを見たロランは、急に胸騒ぎを覚え念の為警備隊基地にコールを入れる。
「(…やっぱり、『あれら』はカノープスのサポート船の1つである『レスキューウィング』から派遣された『自立型のドローン』な気がするな……。…となるとー)
ーこちら学生警備隊所属、ロラン=レーグニッツです。本部、応答願います」
『ーはい、こちら第1地上警備基地通信室です。ロラン隊員、どうされましたか?』
「実はー」
ロランは手短に、『トラブルが起きている』可能性があると伝えた。
『ー…なるほど。了解しました。
ロラン隊員、至急現場に向かって下さい。…こちらもなるべく早く応援を派遣しますが、念のため-武装-のセーフティを解除しておきます』
「(…っ!…マジか)ありがとうございます」
『…それから、決して無理はしないように』
「ラジャー!」
彼はその場で敬礼をし、『トリ』の飛んで行った方に向かって駆け出した。
『ー……っ!な、なにをなさっているんですかっ!いくら、先生でも……っ!』
その道中、予想通り進行方向から少女の『責め立てる』声が聞こえて来る。…しかし、声は途中で途切れてしまった。
(…想像以上にヤバい事が起きているみたいだな。とりあえず、可能な限り避難させるしかー)
方針を瞬時に固めた彼だが、直後直感的に足を止めた。…すると、並木道の中から黄色い光を纏った『ムチ』が飛び出して来た。
あのまま進んでいたら、ただでは済まなかっただろう。
「ーへぇ、学生なのになかなかヤルねぇ~」
彼は緊張しながら身構えていると、軽薄な女性の声が茂みから聞こえて来た。…そして、次の瞬間背後から別のムチが飛んで来たが彼は素早くバックステップで回避する。
「…驚いた。ったく、一流のスクールに通う人間は既に『腕利き』って事か。…羨ましいな~」
今度は、アルトボイスの女性の声がそこから聞こえて来た。…どうやらー。
「ー悪いけどこっから先は『通行止め』だよ~」
「そして、『Uターン禁止』でもありまーす」
2人は、非常に軽い様子で『恐怖』の宣告をした。…そして直後、『全く別の2箇所』からムチが飛んで来た。
「ー『シールドドーム』」
しかし、不意を付いたにも関わらず彼は冷静に『防御フィールド』を展開しムチを防いだ。
「…っ。ふーん、最近の学警は『そんなオモチャ』も持っているだ~」
「…なら、こっちも『別のオモチャ』を使っちゃお」
アルトボイスの彼女がそう言った瞬間、茂みから半透明の『触手』が複数飛び出して来た。…だが、その先端は鋭利でない為到底シールドを貫く事は出来なそうだった。
「(ーっ!…『そう来たか』。)
『シールドウェイト』」
だが、彼は直ぐにシールドを待機モードに移行し右手に持つ『ショックガン』を構えトリガーを連続で引いた。
「ーっ!」
「…なんて正確な……っ!」
触手は次々動きを止め、そして最後の一本が地面に落ちた。…すると、また2本の触手が『場所を変えながら』から飛んで来る。
「(ー…一体、何処から……。…ん?)」
再びシールドを展開する彼は、2人の居場所を特定出来ないでいた。…しかし、ふと『何かの物音』が聞こえた直後事態は急展する。
「ー……へ?」
「…何…で……」
突如、並木道の様々な場所から『何か硬い物』が落ちる音が聞こえ来たのだ。そして、次の瞬間地面に大量の『ヘビとイーグルのレプリカ』が出現した。
しかも、彼女達が驚く理由はそれだけではなかった。
「(…薄々そんな気がしていたが、やっぱりか……。)…なるほど。『そこ』に居たんですか」
「「……っ……」」
そう。彼女達の『インビジブル』も、解除されていたのだ。…その足元には、『ヘビ』がぴくぴくしていた。
「…嘘、嘘、嘘、嘘、嘘……」
「あ、あり得ない……」
彼の『真ん前と真後ろ』に立つ2人は、自身に起きている事実が信じられなかった。…そして、彼がその隙を逃す筈もなくー。
「「ーあびゃっ!?」」
彼女達は、間抜けな悲鳴を上げながら彼に無力化させれた。…そして、彼は2人を拘束し再度基地に連絡をしてから現場に向かうのだったー。
◯
ーSaid『ストライクチーム』
『ーぐべっ!?』
『んぎゃっ!』
『…あびゅ……』
「…ふう。
ーHQ、こちら、『ストライク5』。『暴徒』の鎮圧完了」
場所は変わって、セカンドグイラの市街地。此処でも『トラブル』が発生していた。だが、遊撃隊と『プレシャス』の混成チーム『ストライク』が、迅速に鎮圧していた。
その1チームに割り振られた遊撃隊のウェンディーは、速やかに第2地上基地に連絡を入れる。
『HQ了解。あ、たった今-そちら-での鎮圧は完了しましたが念のため警戒を続けて下さい』
「『ストライク5』了解」
「ーウェンディ少尉、『暴徒』の拘束終わりました」
彼女が連絡を終えると、共に作戦行動をしていたホムラが報告をする。…その後ろには、『暴徒』…『一般ハンター』達ががっちりと拘束された状態で地面に転がっていた。
「お疲れ様です。
ー皆さん、そのままで聞いて下さい」
彼女は礼を言い、そして良く通る声で全員の意識を自分に向けさせる。…何せ、彼女はこの『小隊』のリーダーだからだ。
「たった今、『この周辺』での暴動は完全に鎮圧したと本部から連絡がありました。
…ですが、念のため警戒を怠らないようにして下さい」
『了解』
『了解でーす』
(…はあ、『プロ』って凄いな……)
女性ハンター達は、つい先程とても異様な状況を無事解決したとは思えないキリッとしたや明るい表情で返事をした。
…そのメンタルの強さ、そして『年下の自分』のオーダーをすんなりと従う姿勢に彼女はチームが結成した日から感心しっぱなしだった。
ー堂々と指示を出しているが、内心はちょっぴり緊張していたのだ。…何せ、『原隊』では年上の部下を持った事がないのだから。
(…何で、私が……。…そりゃ、『実働小隊のリーダー』経験があるからだろうけど、よりによって年上な上に『ゴールドランク』の方々のリーダーだなんて。…隊長も副隊長も、なかなかの大任を与えてくれましたね……)
正直に言えば辞退したい気持ちがあったが、残り2人の
それに、イデーヴェスで顔合わせした時も女性ハンター達は特に文句も言わないどころか、『プロが指揮を取ってくれるなら安心だ』とまで言ってくれたのだ。…それが、彼女に緊張を与えているのだ。
「(…全く、つくづく『貴重な経験』をさせて貰っていますね)……っ」
『GWWW……』
小さいため息を吐いていると、彼女の傍にいる『イヌ』が突如スクールエリアに向かって『警戒音』を出した。
「…っ。…何かあったのかな?」
近くに居た兼業ハンターのリーリン=ノアは、不安げにそちらを見る。直後ー。
『ー第2都市に居る、全てのチームに連絡しますっ!至急、スクールエリアに向かって下さいっ!』
メンバーの通信デバイスが一斉に起動し、通信兵の慌てる声が聞こえて来た。
「『ストライク5』、了解。
ー行きましょう」
『了解』
彼女達は、近くに停車していた『リトルレッグ』に乗り現場に急行するのだったー。