ーSide『シルバーネームレス』
「ーはあ~……」
爽やかな快晴の昼間とは対象的に、彼の気持ちはどんよりとしていた。…勿論、彼だけでなく周囲に居る他のハンター達も皆一様にシケた顔をしていた。…一昨日の『失敗』が、よほど応えたようだ。
(…何でちゃんと『勉強』してこなかったんだろうな~。…『船乗り』になる為の勉強だけでなく、何か1つの別分野の事にも取り組んでりゃクリア出来ていただろうに……。
…はあ、親父のお袋が昔口酸っぱくして言っていた『船乗りだけの学じゃいつか-行き詰まる-』って事を、今日始めて実感したよ……。
…ああ、出来る事なら今すぐ幼少時代に戻りたい……)
自分の短絡的な考え方のせいで、『チャンス』を逃してしまった事に彼や他のハンター達は激しく後悔していた。
(…どうしよう。…未だ『正規スタッフ』は復活してないけど、『残っている』のも正直言って辛い……。
…とりあえず、今週末までには答えをー)
そんな沈んだ彼の通信デバイスに、ふと一通のメールが届いた。…その送り主を見た瞬間、彼の思考は停止する。
(ー……は?何で『此処』から……)
何故なら、その送り主は彼にとって『黒歴史』を思い出させる人物だからだ。…当然、彼は次のアクションに移れなかった。
『ーっ!?』
(……何だ?…っ、まさか……)
…しかし、周囲のハンター達が自分と同様に驚愕するのを見た彼は1つの予想を立て恐る恐るメールを開く。
『ー秘宝を求めるハンター諸君へ』
ーだが、その予想は『良い意味』で裏切られた。…だから彼は、自然な流れで本文を読み始めた。
(ー……おいおい、マジかよ)
その内容を、彼は食い入るように見た。…そして、いつの間にか彼の心情は晴れやかなモノに変わっていた。
(…なんだ、まだ『ツイてる』じゃないか。…良し、早速『申し込み』をー)
長文のメールを素早く読んだ彼は、『リンク』から『サイト』に飛び『申請』をしていく。…そして、数分後には『到着日時』のメールが届いた。
(ーへぇ、わざわざ此処まで届けてくれるのか。サービス良いな)
日にちもさほど掛からず、何より『直接現地手渡し』という文句無しの対応に彼は気分が良くなる。
(…ふふ、『楽しみ』だ)
そして、昼休憩が終わるまで彼らは終始ニヤニヤしていたのだった。
ーその『商品』が、『大きなトラブル』を起こすという事をこの時の彼らは知る由もなかった。
○
ー…はあ、『面倒事』の予感がビンビンするな……。
今日の業務も無事終了し、本来なら清々しい気持ちで帰宅している筈なのだが……俺は非常に憂鬱な気持ちでサードニスリの地上警備隊基地に向かって『リトルレッグ』を飛ばしていた。…その理由は、防衛軍の本部が『不審な電波』をキャッチしたからだ。
「ーっ!お疲れ様です、エージェント・ブラトーッ!」
「ゲートオープン、急げっ!」
基地のゲートに到着すると、ゲートキーパーの隊員2人が敬礼し片方が素早く開けるようように指示を出す。
「ーありがとうございます。任務お疲れ様です」
「「恐縮ですっ!」」
そして、ものの数分で『レッグ』分だけゲートが開いたので俺は2人に敬礼してから中に入った。…やっぱり、若干『増加』しているな。
なんか基地に来る度に『ファン』が増えている気がするが、今はスルーして『レッグ』を駐車スペースに停車し基地内の通信ルームに急行した。
「ー…っ。お疲れ様です、エージェント・プラトー。…準備は既に完了しています」
「ありがとうございます、ライサンダー少尉」
そして、通信ルームに入るとライサンダーが出迎えてくれた。…いや、本当助かる。
なので、俺は直ぐに『本部』との連絡を始めた。
『ーお疲れ様です、エージェント・プラトー』
「お疲れ様です、カーバイド大尉」
直後、モニターに爽やかな青年将校…カーバイド大尉が映し出された。…すると、大尉は少し申し訳なさそうにした。
『…すみません、お疲れの所お呼びだてしてしまって……』
「お気になさらず。…というか、大尉達の方がお疲れでしょうに。…本当に、感謝しています」
『っ!いえ、とんでもありませんっ!…-彼女-のサポートもあり今までよりかなり-負担-は減っていますので……』
「…良かった。…あ、すみません。
本題をお願いします」
『了解。
ー本日昼頃、星系外周を巡回する警ら部隊の通信船が-送信元が不明瞭-な通信の-通過-確認しました。…しかも、-それ-は通信衛星を通さず直接-3都市-に-散らばった-ようなのです』
大尉は少し信じられないような表情で、『事実』を報告してくれた。…ホント、『何でもあり』で嫌になって来るな。
『…尚、-受信先-は-連中の船-や-例の方々-ではなく-競争相手達-になっているようです』
「…っ!…なるほど。『サポート』をしようという魂胆ですか。
…内容の解析は出来そうですか?」
瞬間的にそう予想した俺は、『一応』確認してみた。…すると、大尉はまたもや申し訳なさそうにした。
『…申し訳ありません。…どうも、-ウェーブ-が微弱だったらしくログそのモノの解析は出来そうにありません』
「…そうですか。…つまり、『それだけの内容』が入っているという事ですか……」
『…本来、-ウェーブ-が微弱ならそれほど複雑な内容は含まれていない筈ですが、やはりそうなるのですね……。…一体連中は、どんな-サポート-をするつもりなのでしょうか?』
…そこだよな。…そもそも、何で『サポート』を?『順調』っていう報告は伝わっているなら『増員』の必要はないと思うんだけどな……。…何か、『ヒント』はー。
考えていても埒が開かないので、『プレシャス』の作中で『ざまあ』を受けた敵…まあ、ほとんどが『実在していた組織』だろうが…の『パターン』を思い出してみる。
「ー……(…確か、『一枚岩』な組織はかなり少なかった筈だ。…基本的には『幹部達』は仲が悪く、それぞれが『ボス』に注目して貰う為に日夜『悪どい成果』を上げ、時には足の引っ張り合いを起こして結果的にー)。
…はあ、なんて醜い連中だ……」
『ほぼ正解っぽい』予想が浮かんだ瞬間、俺は深いため息を吐き頭を押さえた。
『…もしや、敵の意図に予想がついたのですか?』
「…あくまで『推測』ですが、これは『横取り』を狙っているのでしょう」
『…-横取り-?……-手掛かり-は、企業その物の利益にしているのにそれを我が物としようとしている者が居るというのですか?』
「…失礼、言葉が足りませんでしたね。
私が言いたいのは、『功績の横取り』ですよ。…つまり、『手掛かりは自分が発見した』と言い張りたい輩がいるという事です」
怪訝な表情をする大尉に、補足説明をする。…すると、大尉はますます疑問を深めた。
『…でも、言うなれば-勝手に管轄を侵す-という事ですよね?…間違いなく、-トラブル-が発生すると思うのですが……』
「確かに、『こちらサイド』なら国際問題に発展しかねない違反行為ですが恐らく『連中』にそんな常識はありません。
一番大事なのは、『どれだけ貢献出来たか』。…その一点しか幹部連中の頭にないのでしょうね」
『…その為なら、-功績の横取り-も辞さないと?…それでは、足の引っ張り合いが起きて結果的に不利益が発生するのでは?』
「……」
大尉は勿論、少尉さえも未だ納得していない様子だった。
「…まあ、多分ですが『その幹部』は『残りの2箇所』に行くのが嫌なのでしょう。無理もない。
だって、『凄まじい出費』が容易に予想出来るから。…加えて、『此処の担当』が『私的な理由』で相当気に入らないのでしょうね。
だが、かといって考えなしに『横取り』すれば『不利益』を発生させてしまうのは『その幹部』だって分かっている筈だ。…そして、もしそうなってしまったら『全てを失う事』も。
ーだから、『秘密裏』に動く必要がある。その為に、『未加盟チーム』を『利用』する事を思い付いた…というのが、私の推測です」
『…己の益の為に、組織を欺き同志を出し抜き果ては罪無き者達を利用する……。…そんな、醜悪な存在がこの平和の世に……』
「…此処で発生している事件の『フィクサー』は、今まで我々が対峙したどの『幹部』よりも恐ろしい存在ですが、『それ以上』が直ぐに現れるとは思ってもみませんでしたよ……」
大尉と少尉は、愕然としながら言った。…対して俺はー。
「ー『先代』や皆さんの大先輩達が相手にしていたのは、『もっとヤバい』奴らですよ?…こう言うのも何ですか私はまだ『キャパ内』です」
『…っ!』
「…本当なのですか?」
「…ええ。
ー確か、『プレシャス』と同時期に発刊された『伝説的スパイノベル』に克明に記されていますよ?」
『…なっ!……て、まさか…-そういう事-なんですか?』
「…うぇっ!あれって、『フィクション』じゃなかったんですか!?」
「勿論、『プレシャス』同様大分『変えて』ますがね」
『……ホント、この部隊に転属してから驚く事ばかりですね』
「…同じくです」
2人は、唖然としながらそう言った。…そして、互いにアイコンを交わした後なんとか表情を引き締める。
『ー…失礼しました。
…それでは、-そう仮定-して動くとして彼らの対処はどうしますか?』
「…そうですね。
ー良し、此処は『露見』させるとしましょう」
『…っ!まさか…』
「ええ。そのまさかですよ」
『……』
「……」
俺のプランを察した2人は、再び唖然としてしまうのだったー。