ーSide『イリーガル』
ーイデーヴェスが日常を取り戻し始めた頃。トオムルヘ第1コロニー『アティナル』の一角は、異様な緊張感に包まれていた。
『…っ!おい見ろよ…』
『…うわ、なんだあの高級車の数は…』
そのビル…『サーシェスカンパニー』の本社前には『地上』でも拝めないような黒塗りのリムジンがずらりと並んでおり、その周囲にはデカいレーザーガンを脇からぶら下げた黒い服装の『私兵』達が鋭い眼光で警備していた。
当然、ビルの中も大量の私兵で固められておりまさに『アントの一匹も通さない』磐石の体制だった。…つまり、ビルの中にはそれだけの体制を敷くに値する重要な人物達が集っているのだ。そして、当然だがその人物達はただ集まった訳ではないー。
「ーこうして『全員』が直接集まるのは、いつぶりだったかな。
…久しぶりだ、諸君」
ビルの中心フロアにある大きな会議室では、一目で高級だと分かるビジネススーツにいかにも『成金』な装飾品を身に纏った十数人の男女が一堂に会していた。…その中でも、一際『荒稼ぎ』していそうな格好の壮年が挨拶する。
『お久しぶりです、-プレジデント-』
重役達は、恐らく普段は絶対にしないであろう丁寧な所作と言葉遣いで返事をした。…それだけ、この『企業のトップ』を恐れているのだ。
ー何故なら、どれだけカンパニーの発展に貢献しようとも『たった一度のミス』ですっぱりと『切られて』しまうのだから。…実際、『ここ最近』数人の重役があっさりと『切られて』いるのだ。
…そして何よりも、『切られた人間』は簡単に忘れさられるのだ。それは、たった今言った挨拶からも分かるだろう。
「…さて、本来は『数ヵ月先』に行う予定だった本会議だが諸々の事情により本日行う事になってしまった。…済まなかった」
『…とんでもありません』
…そして、普段は『役に立つ人間』に大しては低姿勢であるのだから余計に恐怖を募らせてしまうのだ。…だから、彼らは口を揃えて言葉を返す時僅かに怯えていた。
「…ありがとう。
ーそれでは、本題に入るとしよう」
『…っ』
礼を言った直後、プレジデントは纏う空気を『ハンター』の如く鋭いモノに変える。…当然、彼らは余計に背筋を伸ばし唾を飲んだ。
「…1つ目は、『あの禁忌の作品』の名を冠する『忌々しいハンター同盟』が『アレ』を2つ手に入れたという情報が入って来た」
『…っ!』
プレジデントは、非常に不愉快そうに事実を告げた。…実は先日、アーロン=マオとロイド=ジュールのチームが『手掛かり』の入手に成功したのだ。
その情報は、非加盟領域のトオムルヘにさえ瞬時に伝わった。だからこそ、彼はこんなに不愉快なのだ。
「…これは由々しき事態だ。…何故なら、連中が『楽園』へ『更に2歩』近付いたのだから」
『……』
その1番の理由は、まさに『それ』だ。…何故なら、この『サーシェスカンパニー』の最終目標は『楽園』に行く事だからだ。…それが、当人や『先達』に散々『超ホットなウォーター』を『プライスレスデリバリー』して来た事が克明に描写されている、文字通り『黒歴史』な作品『プレシャス』の名を冠するハンター達やそのバックにいる連盟にリードされ続けているのだから、苛立ちは相当蓄積されているだろう。
…だから、その場に集った重役達は冷や汗をダラダラと流し始めると共に『プレシャス』に対して怒りを抱いた。
「…っ。失礼した。諸君らに当たっても、解決する筈もないな」
『……』
プレジデントはハッとしすぐさま低姿勢になるが、重役達は首を振るだけで精一杯だった。
「…まあ、過ぎた事に愚痴を言ってもしょうがない。…だから、『次の事』を考える必要がある。
ーそこで、2つ目。
『残る3つ』の内の1つがある『イデーヴェス』に派遣したチームから、『順調』だという報告が来た。
…ノックス君、是非君から報告してくれないかな?」
「…は、はい」
すると、指名された重役の女性は素早く椅子から立ち上がった。
「…それでは、報告させて貰います。
まず、『イデーヴェス』にて展開中の『業務』は全て順調に進んでいます。
まず、『支援者』を介した『職員への-引退-業務』は既に6割終了しています。…そして、『大変喜ばしい』事に『連盟のトップメディカルチーム』でも『試作品』の除去は難航しているようです」
『……っ』
内容を聞いた幹部は、明確に嫉妬の反応をした。…要するに、幹部同士かなりバッチバチに対立しているのだ。
それを見て、彼女から少し緊張が抜ける。
「…そして、新たな『手掛かり』の所在も掴む事が出来ました」
『ーっ!?』
次に『本題』を話し始めると、今後は全員が驚愕した。…まさか、『そこまでの内容』が来るとは予想していなかったからだ。
「…イデーヴェスに長年秘匿されていた『手掛かり』。…それに至る為には、『7つの証』を回収する必要があります。
そして、それらは3つの都市に現存している『旧式建造物』の中に保管されている事が判明しました」
『……』
これには、幹部達は言葉を失った。…中には、焦った様子の者もいた。
ーその理由は簡単だ。…『手掛かり』を多く集めれば、それだけ『楽園に同行出来る確率』が上がるのだから。
すなわち、幹部達は苛烈な『貢献度』争いをしているのだ。…会社が得るであろう、『楽園』に眠るとされる『秘宝』の『おこぼれ』を頂戴する為に。
「ーしかも、非常に喜ばしい事に『かの集団』は『とある施設』ある『2つ目の証』の入手に手こずっているのです。
…しかし、私の派遣した『解決チーム』は順調に攻略しており『あと少し』で『最終関門』に到達します。
そして、そのまま攻略に成功すれば『3つ目に挑む権利』を得られるようなのです」
『………』
「ー素晴らしい。…ノックス君は、大変に優秀な部下を持っているのだな。
報告ありがとう」
幹部達が困窮する中、プレジデントは手を叩いて称賛した。
「恐縮です」
そして、彼女も幹部達の困窮する様子に非常に満足感を得ながら腰を下ろした。
「ー…というように『イデーヴェス』は順調なので、皆は『あと2箇所』の方に専念して貰いたいのだ」
『…分かりました』
幹部達はなんとか表情を引き締めていた。…プレジデントが『専念しろ』とオーダーを出した以上、彼らは『その2つ』を奪い合うしかないのだ。
ーしかし、それを良しとしない者が居た。
(ー…冗談じゃない。『残る2つのポイント』は、一方が連盟が封鎖する『超危険地帯』でもう一方が最低でも二ヵ月は掛かる『超田舎』。
両方とも、『ヴァル(非加盟通貨)』の消費するだけの『旨味ゼロ』の所じゃないか……)
ノックスと呼ばれた女性幹部の丁度対面に座る、でっぷりとした薄毛の男性幹部はなんとか憤りを隠しながら内心で呟いていた。
「…では、これにて『緊急重役会議』を終了する。
ー頼んだぞ、諸君」
『お任せ下さい、プレジデント』
そんな彼の心情に、プレジデントは全く気付く事はなく会議の終了を宣言した。…そして、ノックス以外の幹部達が少し悔しそうに会議ルームを出て行く中、彼も席を立つ。
(…だが、どうする?
『抜ければ』バレるし、『妨害』はもってのほかだ……。
露見すれば、『秘宝』が手に入らないばかりか『この立場』さえ呆気なく失うだろう……)
ルームを出てエレベーターに向かう中、なんとか出し抜こうと考えるが……。…負う『リスク』が高く踏み出す気力が削がれていった。
(……いや、待てよ。
……『私が関わっていなれば良いのか』)
しかし、ふと『妙案』が浮かび彼は他の幹部達と同様に部下に連絡を取るのだったー。