『ーヨウコソ、-賢者の塾-ヘッ!』
『…っ!』
直後、天井から電子音声のアナウンスが流れた。…今回は、随分と『感情』が分かりやすいな。
『イヤハヤ、マサカコンナニモ-生徒-サンガ来テクレルトハ嬉シイデスネ~。
ア、申シ遅レマシタ。私、当塾ノ管理ヲ任セラレテイル者-OM36-ト申シマス』
『……』
本当に嬉しそうに喋り、そして丁寧に名乗る『管理者』に、未加盟組は勿論こちらサイドも唖然とした。…『OM』って、『オールドマスター』という意味だろうか?
『ソレデハ-生徒-ノ皆サン。-自分ノ得意分野-ノ講義ルームニ移動シテ下サイ。…ソコデ、皆サンニ-証ヲ渡スニ適切-カヲ判定スル-テスト-ヲ行イマス』
『…っ!?』
…やっぱり此処でもか。
『…っ!』
すると、驚愕している彼らを尻目に俺達プレシャスサイドは空中に展開した『案内図』を見て迅速に動き出した。…まあ、『これ』も予想の範疇だったからだ。
『……っ』
それから少しして、未加盟組も慌てて動き出した。…そして、数分後ー。
『ーハイ、ソレデハ-規定人数-ニ達シマシタノデ-言語ルーム-ハ締メ切リトナリマス』
最後の一人が空席に着席した瞬間、前方に1つしかない出入口ドアはゆっくりと閉まった。…そして、その声はとても『ウキウキ』していた。
ーそう。未加盟組に情報を開示した最大の理由は各講義ルームの『定員』を揃え、『管理者』を最大限喜ばせる為だ。
…これは、閣下に聞いた話しだが閣下がこの塾に通っていた時はどの教室も満員で『管理者』はそれはそれは喜んでいたらしい。…そして、閣下や同級生達が卒業する時はひどく落ち込んでいたそうだ。
…だから閣下は、帝国政府に就職してからもそれとなく後輩や部下に『塾』の様子を探っていたようなのだが、その頃には既に『塾』の話しは聞かなくなっていたというのだ。
だから俺は、『全ての講義ルーム』を満員に出来るだけの人数がいれば『管理者』は気分良く『試練』を出し、そして…個人的に『協力』してくれれば良いなと思ってこうして『彼ら』に協力を求めたのだ。…勿論、彼らに『反感』を抱かせないという意味もあるが。
『ーサテサテ、ソレデハ-デバイス-ヲオ配リシマスネ』
そんな事を考えていると、テーブル下の教材等を入れるスペースから機械的な音が聞こえた。…中を見ると、旧式のタブレットがそこにあった。…いや、ホント『あべこべ』だよな。大きなシステムは今とほとんど同じだが、こういう小さなシステムは昔のモノが現役で使われている。つまり、『管理』に必要な部分…すなわち『ハードとソフト』は何度か『アップデート』されていると考えられるという事だ。…果たして、それはついこの間まで『最新のボディ』を持っていなかった『管理者』達だけで出来る事なのだろうか?
『…オヤ、何カ質問ガアリマスカ?』
すると、こちらの様子に気付いた管理者が声を掛けてくれた。
「(…まあ、今はー)いえ、大丈夫です。…今は、『証』を手に入れる事に全力を注ぎますのでどうかお気になさらず」
『…っ』
『…フフ』
俺は頭を切り替えて『宣言』する。…まあ、当然未加盟組はピリッとした空気になりプレシャスサイドは『流石』という顔をした。
『……。…ソウデスカ。
…デハ、今カラ私語ハ厳禁デス。ソレト、当然デスガ-翻訳機-ノ使用モ禁止デス。速ヤカニ、OFFニシテクダサイ』
『ーっ!?』
一方、管理者は意味ありげな間を開けた後警告する。…その当然そのアナウンスに、未加盟組の殆どが驚愕した。…いやいや、驚く事か?
それと同時に、『カンニング』防止の不透明ガラスのついたてが机から出現し俺達『生徒』は完全に区切られた。
『ーソレデハ、-問題-ヲ転送シマス』
そして、ついに問題がタブレットに転送された。…おわ、なかなかの量だな。
『……』
右上のページ数を見て、両隣の生徒は俺と同じくやや気の重そうなリアクションをした。…そんなか、前方の大きなモニターに『60:00』と表示された。どうやら、『テスト時間』は60分のようだ。…これは、1問に割ける時間はあまり無いといえる。
『ー画面ニアルヨウニ、-テストタイム-ハ60分デス。
…ソレデハ、カウント10ー』
『ーっ!』
その瞬間、俺達生徒はタブレットからペンを外し構える。
『10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、スタート』
そして、カウントダウンは素早く終わり俺は『データブック』の要領で指を右から左に『スライド』させる。すると、画面はタイトルから『ページ1』に変わった。
ー…?
『ページ1:翻訳』
『サブタイトル』を見た俺は、一瞬『あれ?』っと思うが素早く問題に取り掛かる。
『ー問1:以下の単語の意味を-連盟公用語-で答えなさい』
ーえっと……。………よし。
いかにもな問題文の下に記された複数の単語をすらすらと解答欄に記入していき、次の問題に移る。
『問2:以下の熟語の意味を連盟公用語で答えなさい』
ー…やっぱり、なんか『デジャヴ』感があるな。……あ、そうか。
さっきの問題とこの問題に使用されている言葉の『共通点』に気付いた瞬間、最初に抱いた疑問の答えが見つかった。…なら、次の問題はー。
『問3:以下の会話文を翻訳しなさい』
ー予想通り、1ページ目の最後の問題はいかにもな例文…『データテキスト』で見られるような『日常会話』だった。…そして、やはりこの問題にも『凄い見覚え』がある。
『ー……っ』
『………』
その時、後ろに居るプレシャスサイド達も『気付いた』ようだ。まあ、要するにこの『状況』は『プレシャス』にもあるのだ。…場所の明記がなかったのは、『いろいろと配慮』した結果だろう。
…しかし、問題の内容まで同じとかなんか怖いぐらい『ツイてる』な。
俺はそんな事を考えながら、例文を翻訳していくのだったー。
○
ーそれから、『帝国言語』や『共和国言語』を使った問題を黙々と解いていきやがて全ての問題を解き終えた。
そして、再び前方のモニターを見ると『タイムリミット』が近いて来た。…ホント、ギリギリだ。
『ー間モナク、終了トナリマス。今一度、ネームヲ確認シテクダサイ』
『……っ』
そのアナウンスが流れた時、両サイドの未加盟組ははっきりと焦りを見せた。…今まで『文明の利器』に頼り切っていた『ツケ』だな。いやー、ちゃんと勉強しておいて良かった。
ーそれから数分後。カウントが『0』になると同時に、講義ルームにいかにもスクールで流れていそうな『チャイム』が流れた。
『ーハイ。終了デス。デバイスヲ最初ノ状態ニ戻シ、机ノ中ニ入レテ下サイ』
『………』
終了のアナウンスが流れた瞬間、俺達プレシャスサイドは手応えを感じながら加盟組はガックリとしながら指示に従った。
『ーソレデハ、コレカラ採点作業ニ入リマスノデシバラクオ待チ下サイ。ア、ソノ間ハ自由時間トナリマス』
机にデバイスを入れてから数秒後。再び可動音が聞こえアナウンスが流れた。そして、ロックされていたドアが開いたので『生徒達』は片や『きびきび』と片や『とぼとぼ』としながら教室を出た。
『ー………何だよ、あの難易度。…-此処-に雇われれる時に受けたテスト以上だったぞ……』
『…マジそれな。…あんなん、一級資格レベルだよ』
すると、自然と2つのグループで固まるのだが未加盟からは嘆きの声が出ていた。だが、プレシャスサイドではー。
『ーいや、びっくりした~。去年受けた一級資格レベルの内容だったわ…』
『…こっちはそこまでじゃなかったけど、とにかく量が多かったな。…-見直す暇-があまりなかったから、ちょっと心配だな』
…同じ驚く声でも、ニュアンスがまるで違っていた。まあ、『プレシャス』のメンバーは『仕事の必須』の技能や知識を日々研鑽しているからな。言うなれば、こういう『抜き打ちテスト』に強いのだ。
「ー…あ、居た」
そんな様子をぼぉーっとしながら見ていると、アインさんがやって来た。…その表情は、疲れているものの穏やかなモノだった。
「お疲れ様です。…その様子だと、そちらも『問題なかった』ようですね?」
「…うん。…まあ、『得意分野』を選んだから当然だけど」
「…確か、2人共『近代ヒストリー』でしたよね。…そういえば、気付きましたか?」
「…勿論。…『つい最近』読んだ部分だったから」
「(…驚いたな。もうそこまで…。…もしかすると、彼女は『集中力』が凄いのかも。)そうでしたか。…となると、『残り』もこんな感じですかね?」
「…だろうねー」
『ーオ待タセシマシタ。只今ヨリ結果発表ノ時間デス』
『……っ』
そんな話しをしていると、アナウンスが流れた。…そして、直後空中に『合格者』が表示された。
『…………』
『ほ…』
それを見た瞬間、未加盟組の殆どは1人1人ゆっくりと膝から崩れ落ちていくがプレシャスサイドの全員はほっと胸を撫で下ろした。
『ソレデハ、合格者ハテストヲ受ケタルームニ戻ッテ下サイ。ソレ以外ノ方ハ、ソノママオ待チ下サイ』
『………』
そのアナウンスに、俺達は悠々と教室に戻り彼らは項垂れながら呆然とするのだったー。