ーSide『シルバーネームレス』
(ーっ!…うわ、マジで『情報』通りだな)
数日後の夕方。イデーヴェス第2都市の『セカンドグイラ』のとあるステーション前には、『ライバル』達が結集していた。
(…やっぱり、休日だから各地に散らばった奴らが来ているな。
しかし、まさか『彼ら』から情報を提供してくるとは思わなかった…)
彼は、昨日の夜の『衝撃情報』を思い出していた。
『ー第2都市旧市街地エリアに-SEVENMYSTERYに関わる施設-がある。良ければ、共に攻略してくれないだろうか?
その気があるなら、第1休日の夕刻に旧市街地ステーションに来てくれ。
ープレシャス』
ー当然だが、『プレシャス』以外のハンターがこの情報をスルーする筈もなく現在イデーヴェスに居る全てのハンターがこうして指定された場所に向かっているのだ。
(…つまりは、『プレシャス』でさえも手が回らない規模って事だよな。…これは、『運』が回って来たかも知れない)
思わずニヤリとした彼は、ライバル達と共に指定された時間が来るのを待った。…そしてー。
『ー……あー、あー。…あ、本日はご足労いただきましてありがとうございます』
ロータリーにあるクロックタワーが、夕刻を知らせるベルの音を鳴り響かせてから数分後。…突如クロックタワーの前に巨体はエアウィンドウが展開し、凄く丁寧な言葉遣いのイケメンが写し出された。
『ーっ!』
(…おいおい、『ハンター界の貴公子』様が『案内役』だと?)
その男性…甘いマスクにヴァイオレットの髪を持つニール=グローリーの登場に、女性ハンター達はうっとりし男性ハンター達は恨みがましい視線をウィンドウに向けた。…まあ、モデルをやっている彼は女性ファンが多く男の船乗りから若干嫌われているのだ。
『…それでは、只今より-目的地-にご案内致しますので-私の後ろ-にある-送迎バス-にご乗車下さい』
すると、ウィンドウの下半分が消え彼の言うように『中型バス』が数台駐車スペースに停車していた。
『……』
(…マジかよ。てっきり歩いて移動するのかと思っていたが……。…こんなに待遇が良いと、ちょっと『疑って』しまうな。
ーって、あれは……)
『ーっ!』
ハンター達は、唖然や警戒の反応を示すが直後にざわざわし始める。
ー何故なら、一台のバスからかの『マダム・クルーガー』が降りて来たのだ。…しかも、いつもの船乗り姿ではなく何故か『パンツスタイルのスーツ姿』だったのだ。
『ーさあ、どうぞお乗り下さい。…それとも、-お帰り-になりますか?』
『ー……』
(…上等)
すると、煽りを受けた彼らハンター達は表情を引き締め列をなしてバスに乗り込んで行った。
『ーそれでは、出発します』
やがて、彼の乗るバスの定員が満たされると運転シートに座るドライバーが発車を告げ、少ししてからバスは『その場所』に向かい始める。
(ー…なんだこれ、凄く快適だ……。…流石は、連盟の『公認調査チーム』だ)
一方、気を引き締めて乗り込んだ彼らは既にシートの快適さにやられていた。
『ーお客様に申し上げます。間もなく、-旧学習棟-に到着します』
…しかし、至福の時間は長く続く事はなく数分後には再度アナウンスが流れるのだったー。
○
ー…お、来たか。
デバイスに『ミドルレッグ』からの信号が来たので、俺は『某塾』の前にある小さな公園のベンチから立ち上がった。…いや、ホント彼らが居てくれて良かった。
…実は、当初は此処も『プレシャス』だけで探索するつもりだったのだが『とある事情』により急遽情報を公開し、こうして来て貰ったのだ。
「ー…あ、オリバーさん」
「…おいっす」
そして、公園を出て『こじんまり』した建物の入り口に近くとアイーシャさんとアインさん(変装モード)と数日振りに直接顔を合わせた。
「お疲れ様です」
「いえ。…にしても、どこからどうみても『普通の旧式建造物』な此処に『噂の塾』があるなんて、ホント驚きです」
「…うん。『閣下』の情報じゃなきゃ、信じていないと思う」
2人は、目の前の3階建ての建物…『旧学習棟』を見て正直な感想を述べた。…まあ、『こんな事』でもない限りはまず近付きすらしないだろう。
『ー到着しました。前の方に続いてゆっくりとお進み下さい』
そうこうしている内に、『ミドルレッグ』達が次々と建物直ぐそばの駐車場に停車しそこから『プレシャス』未加盟のハンター達がぞろぞろと降りて来た。…尚、他のプレシャスチームは既に建物に集合している。
『ーっ!……』
まあ、当然未加盟組は俺達を見てライバル心を含んだ視線を向けて来た。…うん、どう考えても『俺が手に入れるんだ』的な意思を感じるな。
『ーこんばんは、皆様。本日は休日の夕方にも関わらずお集まり頂き、誠にありがとうございます』
そんな、ピリピリとした空気が流れるなかこちらサイドの『事実上の代表』であるクルーガー女史が堂々と挨拶を始めた。
『……』
『…はわ……』
すると、一旦男性ハンター達は対抗心を引っ込め女性ハンター達はうっとりした表情になった。…いや、やっぱ『スター』は違うわ。
『それでは、失礼ですが前置きは抜きにして本題に入らせて頂きます。
皆様には、昨日お伝えしたようにこの施設…-賢者の塾-の攻略に協力して頂きます。
ー勿論、-皆様の誰かが先に見つけた場合-は所有の権利も-皆様の誰かにする事-をお約束します』
『……っ』
…ふう、やっぱり『厳しい方』だな。決して、『油断』はしていないがもし『そうなったら』確実に『お小言』は貰うだろう。
故に、その言葉で未加盟組は勿論だがこちらサイドも気を引き締めた。
『ーっ!』
すると、ちょうどそのタイミングで塾から凛としたメロディーが流れた。…まるで、その空気を『塾』が感じ取ったかのような絶妙なタイミングだな。
『…おや、-始業のベル-が鳴りましたか。
ーならば、-遅刻-する訳にはいきませんね。…では、まずは皆様からどうぞ』
『……っ』
女史がそう言うと、俺達プレシャスチームは事前の打ち合わせ通り左右に分かれて未加盟組に先手を譲る。…それを見た未加盟組は、激しく闘志を燃やし早足で建物に入って行った。
『それでは、我々も行きましょう』
『了解』
そして、その後に俺達プレシャスチームが入る。…その中は、外見から感じたイメージ通りの歴史を感じさせる雰囲気だった。勿論、『キャパシティ』も同様だがー。
ーっ!…『来た』。
『予想通り』、最後尾にいた俺が中に入った瞬間玄関ドアの内側に重厚な『エレベータードア』の端が上から顔を出し始め、そしてゆっくり閉まり始めた。
『ーっ!?』
『な、なにっ!?』
数分後。ドアが閉まり切ってから更に数10秒の間を置いて、『フロア全体』が揺れ『降下』を始めた。…そう、実はこの1階フロアはまるごと『エレベーター』になっているのだ。おまけに、上のフロアは全て『制御スペース』になっている。
「ー…いや、話しは聞いてましたけど『それ』ってホント『凄い』ですね……」
「…オリバーや『先代』、何より『あの人』自身さえも分かってないんだよね?」
未加盟組が騒然とするなか、姉妹は『別の事』…『コンパス』について言及した。『予想』を話しているとはいえ、なかなか『強メンタル』だな。まあ、でなきゃ『傭兵』なんて出来ないか。
2人の『強さ』に驚きつつ、俺は一応周りに気をつけて話す。
「…それが、一番の疑問なんですよね。『これ』は、船の『キー』であり文字通り『コンパス』なんですよ。
…だから、『それ以外』では使えない筈なんですけど。……もしかしたら、『それ自体』が正しくないのかも知れませんね」
「……もしかして、オリバーさんでさえ『船』の事は分かってないんですか?」
すると、アイーシャさんは耳打ちのポーズをしたので素早く屈む。…そして、こそこそと質問してきた。
「…っ」
とりあえず、アインさんにも屈むようにハンドサインを出した。
「…そもそも、それ以前に『先代』や『彼女』は『船』について『まるっきり』分かってはいないんですよ。…何せ2人共、『記憶喪失』でしたから」
「「……」」
当然、2人は唖然としてしまった。…そんな時だー。
『ーっ!?』
エレベーターが停止すると同時に周囲の壁は次々と床に収納され、凄いキャパシティのフロアが姿を表した。…そして、ただそれだけではなく左右にはいくつもの『講義ルーム』があるのだった。