「ー…で、では学長先生、兄…ブライト先生、私はこれで失礼します」
「はい、また明日」
「また明日~」
「ー…それにしても、まさか彼女と貴方が親戚だとは思いませんでしたよ。いや~、世間は狭いですな~」
再復帰した彼女の背中が見えなくなると、ふと学長がそう言った。
「私もびっくりしました。…彼女は『コックスクール』の校舎に通っていると聞いていたものですから」
「ああ。此処にある他の6つの学舎は、全て『ファームスクール』と連動している為合同授業の制度があるのですよ」
「…なるほど。…という事は、その合同授業も受け持つのでしょうか?」
「害獣対策は『農家』や『職人』を目指す人にとって、最優先で学ぶべき事ですからね」
「…確かにそうですね。『加工品』なんかも食い荒らす種類も居ますから」
「…おや、『そちら』も詳しいのですか?」
「はい。故郷では、植物由来の織物なんかも生産していましたから。…まあ、完全に『地元民』用ですが」
「…ほう。…やはり、現地の人は頼りになりますな。
これならば、ハミルトン先生の代わりも充分に務……そういえば、『教材』の方はどうするのですか?」
「(…仕方ない、ちょっと『偽装』を施した『アレら』を使うか。)…実は、此処に来る前に『手掛かり』の場所に赴いたのですがその際に、『面白い教材』の『設計図』を入手していましてね。
それを今、『知り合い』に制作して貰っているんです」
学長の不安そうな問いに、俺は瞬時に『答えを用意』した。すると、学長はほっとした様子になる。
「それは何よりです。…しかし、中々に『贅沢』な使い方をしますな?」
「まあ、『秘宝ハンター』の殆どがそういった『新しい技術』を然るべき処に売って莫大な収入を得ていますからね。…そのせいか、『副業』はあくまでも『つなぎ』って考えの人が多いんですけど……」
「…ですが、貴方の場合は『業務』に役立つモノを『入手』している。
利益よりも、『そういう事』を優先して考えられるという事はとても素晴らしい事ですし…そんな貴方にこそ、『此処』にあるとされている『手掛かり』はふさわしいと私は思います」
「…ありがとうございます(この様子じゃ、他の学長も知らないのかな?)」
「…ただ、申し訳ない事に私は陰ながら応援する事しか出来ないようです」
「そのお気持ちだけで充分です。…まあ、多分『プレシャス』の顔役の1人であるクルーガー女史が見つけてくれるでしょう。
聞く処によると、あのご婦人は『首都』の卒業生徒らしいですから」
「…っ!貴方も『プレシャス』のメンバーだったのですね」
「はい。『あの大会』で優勝した事で『お三方』から認めて頂きました」
「…いや、本当に凄い事ですよ。初参加で、並みいる超人達を抑えての優勝ですからね。
…っと、此処が職員ルームになります」
少し興奮した様子で語る学長だが、目当てのルームに着くと冷静になった。…これは、『事件』の情報収集がやり易いな。
『ーはい、どうぞ』
そんな事を考えているとインターフォンから声が聞こえて来た。…ふむ、セキュリティレベルは『まあまあ』か。…となると、『保管ルーム』に入る事自体は『カードさえあれば』誰でも可能な訳だ。問題は『夜間』にどうやって侵入したかだー。
職員ルームに入る一連の動作をチラ見しながら、『破損』の事を考える。
「ー…おお。ホンモノだ……」
「…スッゴく大きいですね……」
そんな中、『先輩方』の反応が聞こえて来たので一旦考えるのをやめ深くお辞儀をした。
「はじめまして。ハミルトン先生の代理として参りました、オリバー=ブライトと申します。
宜しくお願いします」
『宜しくお願いします』
すると、入る少し前くらいからわざわざ手を止めてくれていた先輩職員達はきちんとこちらを向いて挨拶を返してくれた。…うん、この人達の線もなくなったな。…後は、出入りの業者かそれともー。
「ーラハット先生。後はお願い出来ますかな?」
「はーい、お任せ下さーい」
すると、少しのんびりした雰囲気の若い男性教諭がこちらにやって来た。どうやら、俺の『教育係』のようだ。…しっかりしてるな。
「…では、業務に関する事は彼女に聞いて下さい。私はこれにて失礼します」
「分かりました。ありがとうございました」
そういうと、学長は再度俺にお辞儀をし職員ルームを出て行った。
「改めてまして、こんにちはー。私は、『ファーム運営学』担当のハジメ=ラハットと申しますー」
「宜しくお願いします(…『支援班』のトウジョウ中尉と同じく共和国系…それも、『東端』方面の人か。…流石は、連盟最大の教育機関だけあって連盟中の人材が揃っているな)」
「まずはー、ブライト先生のデスクを紹介します」
そういうと、ラハット先生は職員ルームの中を進み1つのワークデスクの前に進んだ。
「ーここが、ブライト先生のデスクでーす。…と言っても元はハミルトン先生の使っていた物ですけどね~。
……っと」
説明しつつ、彼女は一番上の引き出しからタブレットケースを取り出しそれを起動した。すると、生徒の名簿が表示された。
「これが、ブライト先生の受け持つ生徒達になりまーす」
「(…やっぱ多いな。…これは、『二重』で大変だ)」
その数に圧倒されつつ、とりあえずはざっと目を通す。
「では、次はタブレットの『3ページ』目からの各クラスの『授業進捗状況』を確認して下さーい」
「分かりましたー」
ーその後は、様々な引き継ぎ事項を確認したりロッカールームや講義ルームと実技ルームを案内して貰ったり、ルーム内に保管されている授業で使う機材の扱い方や非常事の対応等を教わったりした。
そして、それらが終わるとちょうど良いタイミングお昼のチャイムがなったので、学食に行く事になった。
「ーここが、学食になりまーす」
「やっぱり、結構広いですね」
その中は、大きな校舎に見合うかなりのスペースだった。しかも、休日にも関わらず職員は勿論生徒達もちらほらと居た。…これは、ひょっとしたらー
「ーっ!…ブライト先生、ラハット先生、こんにちは」
そんな予想を立てていると、注文カウンターに行く途中でリコと出くわした。…おや?
「あ、ラハット先生こんにちは~…ってー」
「……あれ?なんか、どっかで見たような?」
「……嘘」
すると、彼女と共にいた数人の女子生徒達もこちらに気付くのだが案の定彼女達は様々な反応を見せた。
「こんにちは~、皆さん。彼は、ハミルトン先生の代理のブライト先生ですよ」
『ーっ!?』
ラハット先生が紹介してくれた瞬間、彼女達のみならず近くに居た人達もぎょっとした。だが、流石というべきか少しざわざわするだけで大きな騒ぎにはならなかった。
「初めまして」
「……は、はじめまして」
「…ま、ま、マジで『ブライト選手』だ……」
「……」
「…皆さん、驚くのも無理ないですがここで立ち止まっていては他の人達の迷惑ですので、オーダーを済ませてしまいましょう~?」
「「「「…っ!は、はい…」」」」
口をパクパクしたりぽかんとしていた彼女達は、ラハット先生の言葉にハッとし注文カウンターに向かって歩き出した。
「…さ、私達も行きましょう~」
「はい(…しかし、まさか『此処』で会うとはな~)」
俺は返事をしながら、リコ達の…正確には如何にも良い所の生まれっぽいインディゴのロングヘアーの少女の姿をチラリと目で追った。…そう、彼女こそマダム・クルーガーが推薦する『サル』のパイロット候補の『アイリス=フェンリー』だったのだー。