「ー以上が、『相談』の内容となります」
その後しばらく悩んだ俺は、とある『決意』をしてから『顔役達』に相談する事にした。
「…つくづく、面倒な事を引き起こしますね……」
話しを聞いたクルーガー女史は、やれやれといたった感じの深いため息を吐き出した。
『……全くだ』
『…-辞めてから-も迷惑掛けて来るってヤバいですな……。…なるほど、事情は分かりました』
それに同意したのは、『遠く』に居るマオ老師とジュールの大将だった。
「…とは言っても、今回私達に出来る事はあまりないと思うのですが?」
「とんでもないです。…というか、本当に皆さんと知り合っていて良かったとつくづく思いますよ」
女史は申し訳なさそうに言うが、俺は首を振る。…何せ、『これからやろうとしている事』は彼らのような『信頼出来るベテラン』の知り合いがいないと間違いなく『トラブルが起きる』のだから。
『…という事は、-どうするか-は決めてあるのだな?』
「勿論です。…一応、『エージェント』を名乗らせて貰っているので丸投げにはしませんよ」
『流石ですね。
つまり、我々への相談というのは-解決策-の是非を問いたいという事と…その様子だと、まだ何かあるようですね?』
「はい。
…ではまず、『ロストチップ・レプリカ』の対応をお話しします。
ー私は、その『レプリカ』の座標データを連盟の管理する『オメガデータベース』に公開しようと思います」
「ーっ!?」
『…ほう』
『思い切りましたね…』
「…ちょ、ちょっとお待ちになって……。…そ、れはつまりオリバーさんの持つ『オリジナル』のデータを公表するのと同義なのではありませんか?」
「確かにそうですが、元々合同調査チームに情報提供するつもりでしたからね。遅かれ早かれ連盟中に伝達するでしょう」
「……」
『…だが、正確な座標データを知るのは限らた人員のみだ。…そんな事をすれば、-最初に懸念していたトラブル-が発生するのではないか?』
「…確かにそうなる可能性は否定出来ません。…ですが、そうしないと『もっと厄介なトラブル』が発生するかも知れないんです」
「……まさか、オリバーさんはまだ『例の企業』が諦めていないと仰りたいのですか?」
すると、女史はハッとした表情で俺の抱いた予想を代弁してくれたので俺は頷く。…そう、公開を決めた最大の理由は『今回以上の騒動』を未然に防ぐ為だ。
『…なんと、あれだけ派手に負けてまだ諦めていないと?』
「…恐らく、『トップ』を押さえるか『コピーを産み出すモノ』を機能停止にでもしない限り向こうは絶対に諦めないでしょうね。…今回の件で私そう感じました。
まあ、だからこそ公開を決めたんです。…今回は『運良く』間に合いましたが、もしかしたら次は……。…だから、せめて-直ぐに動ける-ように-行動-をコントロールしようという訳です』
『…そうか。…-向こう-の最終的な目標はあくまでも-秘宝-。…-連中-への襲撃は手掛かりの確保と腹いせだ』
「…けれども、『トラブルメーカー』達の持っている座標データの『価値』がなくなれば少なからず襲撃される心配はなくなると」
『…そして、結果として将来起こり得る-こちら-への被害も未然に防げると。…見事ですね。
…となると、当面の問題は-5つの座標-をどうやってキープするかですね』
「…まあ、実際は『3つ』で済みますけどね」
『……?』
『…どういう事ですか?』
「…もしかして、残りの『2つ』はー」
『ー会議中失礼します。
マスター、ブラウジス閣下より通信が入っております』
クルーガー女史が予想を口にしている最中、絶妙なタイミングでカノンが割り込んで来た。
「直ぐに繋いでくれ」
『畏まりましたー』
『ーおはよう、同志オリバーに-盟友-達よ』
『おはようございます、閣下』
『…でだ、-話し-は何処まで進んでいるのかな?』
「ちょうど、座標の対応を協議するところです。…お忙しいところありがとうございます、閣下」
『構わんよ。帝国にとっても、ロストチップの件は最優先で当たる事だからな。
…それで?』
「…そうですね。まずは、私が所持している『オリジナル』のデータをお見せしましょうー」
俺がそう言うと、エアウィンドウに5ヵ所の座標データが表示された。
『…これは……』
『…なるほど。だから、-3ヵ所-で良いのですか』
「…ええ。
皆様ご存知の通りかと思いますが、1つ目と5つ目はそれぞれ『危険』です」
『…確か、1つ目の-パインクト星系-は-スターストーム-が頻繁に発生するエリアでしたな』
ふと、大将がポツリと呟いた。…『スターストーム』とは、大量の『彗星』が星系中を縦横無尽に周回する現象だ。そして、パインクトの彗星は1つ1つが巨大で数も圧倒的に多い為星系全土が『超危険地帯』に指定されているのだ。
『…そして、まさか-トオムルヘ-の座標までもが……』
閣下は唖然とした様子で言った。…まあ、『あの会社』のある星系だから当然だろう。
「…まあ、流石にこのデータは『それっぼい』場所に差し替えます。…幸運な事に『該当地域』はいくつもあるので」
『…それが良いな』
『…なるほど。確か、-連中の同類-を-遠ざけた-のだったな。今は確か、-寒い地方-に向かっているのだったかな?』
「その通りです(…まさか、帝国で絡んできた連中の嵌めるトラップが此処で活用出来るとはなー)」
『…それに、-連中-も好き好んで自ら-星-になりはしないだろう』
『…ですな』
「間違いないでしょう。…けれども、我々はそう言ってはいられません。いずれ、この2つに存在する手掛かりを回収する『手立て』を考えないといけません」
『…そうだな』
『……』
『…なかなかに難儀ですな……』
「…それにしても、まさか『イデーヴェス』にも手掛かりが存在しているとは思いもよりませんでしたわ」
一旦静かになる中、ふと女史が思い出したように言った。
「…では、此処からは誰が何処に行くかを考えましょう。
ちなみにですが、私は『イデーヴェス』に行きたいと思っています」
「私達もオリバーさんに同行したいと思っていますわ」
『…その心は?』
「実は、女史の話しによると『サル』の『適任者』がそこに居るようなのです」
『…ほう』
『…一応確認しておくが、-信用-出来る者なのだろうな?』
「勿論ですわ、閣下。
『あの手』を持つ彼らの口の堅さは、銀河連盟でも指折りです」
『…っ!まさか、-無限の手-を持つと言われる-イフィンド-の者か?』
…はあ、なるほど。確かに『イフィンド星系』の人なら『サル』を最大効率でコントロール出来るな。…つか、本当人脈が広い方だ。
「はい」
『…確かに、連盟の上流階級や国家元首等に-一級の作品-を販売している彼らはその口の堅さも一級だ』
『…でも、イデーヴェスに居るという事はまだ学生なのでしょう?
親御さんへの説明はどうするのですか?』
『…第一、将来は家業に携わるであろうその令嬢に-専任-になってくれとは、流石に頼めないのではないかな?』
「…それなんですがね。
ー実はもう、先方は『快く』許諾をされているんですよ」
『……は?』
『………』
『…なんと』
…………いや、まさかな。
女史の予想外な言葉に、閣下達は唖然とした。…その一方で、俺は『予想』を立てるがなんとなく否定した。
『…ならば、問題はないな。そちらは、同志オリバーとクルーガー殿にお任せしよう』
「了解です」
「お任せ下さい」
『…では、私は3つ目の場所にしよう。運が良い事に、ちょうど近場に居るのでな。構わんかな?』
『大丈夫ですよ。実は私も、近々2つ目の場所に赴く予定でしたので』
閣下もOKしてくれたので、話しは残りの2ヵ所に移るが割と直ぐに決まった。
『それはなによりだ』
『それでは、その2ヵ所に調査チームを手配するよう銀河連盟に連絡をしておこう』
「お願いします、閣下」
『我々も、準備に入るとしよう』
『ですな。…それでは、失礼しますね』
そして、それがきっかけとなりオンライン相談は終わるのだったー。