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悩みの種

ーSide『シルバーネームレス』



『ー海賊事件、無事終結!』

「…っ」

 データニュースを見ていたその傭兵の端末に、最新のニュースが表示された。

『ー帝国時間昨日深夜、ウェルス星系外周のデブリ帯にて海賊船と星系防衛艦隊が交戦。

 無事、海賊は撃退。

 尚、その戦闘の際に海賊が未知の兵器を使用した為安全の為デブリ帯は星系防衛軍によって長期封鎖される模様』

(…妙だな。ウェルス星系は今も厳戒態勢の筈だ。そんな所に行く『バカ』は果たして居るのか?

 …そして、『そんなバカ』が『何の理由』も無しに『そんなモノ』を乗っけている訳がない。

 ーこれは、『何か』あるな)

 傭兵家業の中で積み重ねて来た『カン』で、男はこのニュースに『裏』がある事を察した。

(……そういえば、最近『あの嫁ぎ遅れ』から『誘い』が来ないな)

 そしてふと、とある人物の当人の前では考える事すらタブーな『ワード』とワンセットでを頭に浮かべた。

(…まあ、『コピー』を手に入れたから『ヒス』る事もなくなったのかな?

 …それともー)

 そんな希望的観測は抱いていると、船の通信器がコール音を奏でた。…その相手を見た彼は、首を傾げた。


「(ー…なんで、『こんな所』から?)…はい、もしもし?」

『ー始めまして。こちらは、ホワイトメル星系防衛軍情報室です。

 そちらは、クルセイダー号で間違いないでしょうか?』

「…はい。間違いないです」

『では、キャプテン・バスレーの-お知り合い-というのも間違っていないですか?』

「……っ。………はい」

 軍人の彼の2つ目の問いに、彼は凄く気まずそうに頷いた。

『…あ、-知り合い-だからといって-どうこうする-事なありませんのでご安心下さい。

 …実は、彼女の船に貴方に関するデータがありましたのでね。…もしかしたら-何らの被害を被っている-可能性があると判断し、こうしてご連絡させて頂いた次第です』

「……っ!…(…いや、待てー。)…ち、ちょっと待って下さい…。…そもそも、なんでホワイトメルの星系軍が彼女の船を?」

 彼は希望を膨らませるが、ふと冷静になってみると不思議でしかなかった。

『…申し訳ありませんが、経緯については-機密事項-に抵触する為お答えする事は出来ません。

 ーこちらが言える事は、-そのデータ-を直ぐに破棄出来ると言う事と-貴方が映っているかも知れない-という情報は、決して-公になる事-はないと言う事です』


「…っ!……分かりました。

 …『本当にありがとうございます』」

『我々は職務に従っただけです。…それでは、失礼します』

 彼が速攻で頭を下げると、男性軍人はそう言い通信を切った。

「(……マジかよ。あれだけ悩んでいた事が、あっさりと解決しやがった。)……っシャアーッ!」

 気付けば彼は、雄叫びと共にガッツポーズをしていた。

(…ツイてる。マジでツイてる……。……待てよ?)

 喜びに浸るなか、ふと彼は『ある予想』を立てた。

(…今、あいつは間違いなくホワイトメルに居る。そして、星系軍から連絡が来たって事は船は手元を離れているって事だ。

 …これは、『チャンス』かも知れない。…上手く行けば、『手掛かり』を手に入れられる。

 そうと決まればー)

 彼は確信を持って断定し、素早く出港の準備を整え始めるのだったー。





「ー…はあ、なんかのんびりしてますねぇ~」

「…ですね」

「…だね」

 事件解決より5日後。とりあえずカノープス号はホワイトメルに帰還していた。尚、『プレシャス』のメンバーと遊撃隊メンバーはそれぞれの事情で船を降りているので、俺達は割と久しぶりに素顔でのんびりしていた。

「ー皆様、お飲み物をお持ち致しました」

 すると、広大なリビングにカノンが入って来てそれぞれがだらけるソファーに近いテーブルの元に素早く飲み物を送ってくれた。

「ありがとう」

「どうもです…」

「…ありがとうございます」

「どういたしまして。…あ、マスター。

 ご休憩の所大変申し訳ありませんが、『こちら』に目を通して頂けますか?」

 そしてカノンは、言葉通り大変申し訳なさそうにしながらこちらに近付きタブレットを差し出した。

「そんなに気にしなくても大丈夫だよ。

 ーそれに、君がそういう風に言う時は決まって『厄介な事』が起きている訳だから後回しには出来ないよ」

 俺は優しくそれを受け取り、気を引き締めながらそう言った。

「…マジですか?」

「…忙しないね」


「…ま、一応『エージェント』を名乗らせて貰っている訳ですからね。

 あ、2人はゆっくりしていて下さい」

「…なら、そうさせて貰います。…行ってらっしゃい」

「…頑張って。…あ、おかわりお願いしても?」

「畏まりました。…マスター、念のため『準備』を整えておきます」

 ソファーから立ち上がながら2人にそう言い、クルー達に見送られてリビングから出た。…なんか、嬉しいな。

 心がほっこりするのを感じながらキャプテンルームに入り、自分専用のデスクにてタブレットを起動した。

『ー経過報告。

 1:廃棄状況

 現在、キャプテン・バスレー含む数名の船の廃棄作業は8割終了。今週中には完了する予定』

 ー早…。…『ウシ』を貸し出しているとはいえ、もう終わりそうなのか。

 最初の項目を見た俺は、その仕事の早さに驚いていた。…というのも、『頼んだ』のが一昨日だからだ。

 ーそもそも今回の事件は、キャプテン・バスレー…ポターランで出くわしたキツイ香水を振り撒く女性トレジャーハンターを始めとする、『トラブルメーカー』達が『優勝賞品のコピー』を要求した事で起こった事だ。結果、連中は『例の会社』に悪辣な制裁を食らった訳だが…。

 …それがかなり応えたのか、彼女を筆頭に突然数名が『引退』を決めたのだ。よって、未だに軍港ドッグの貴重なキャパを圧迫する連中の船の残骸を廃棄する事になった…というのが背景だ。…まあ、これで少しはお宝の探索が『やり易く』なったのだからこちらにしてみれば良い結果になったな。


『ー尚、-費用-に関しては資産と財産を当てる事が決定』

 …勿論、タダでやってやる程ホワイトメルーもとい帝国は優しくない。よって、廃棄費用は連中の資産や財産から取る事にしたのだ。…当然、残りの『トラブルメーカー』からも『プレシャス』メンバーの船の修理費は徴収済みだ。…まあ、『どういう訳か』連中は最初相当渋っていたが『オハナシ』したら快く同意してくれたな。

 …ただ、その財産の中に『かなり厄介』なのがあった。それがー。

『ー2:クルーの状況。

 キャプテン・バスレーの元乗組員達のカウンセリングは概ね順調。…ただし、未だ-故郷-の情報は聞き取れず。

 場合によっては、こちらで-社会復帰-をさせる事があり』

 …この、キャプテン・バスレーの『取り巻き達』がなかなかに『ビッグボム』なのだ。…なんと、彼女達は物心着く前の幼少期に『ヒューマンハント』によって故郷から拐われ流れ流れてキャプテン・バスレーに『身請け』されたという、宇宙の闇よりもダークな身の上だったのだ。…しかも、長年『そういう環境』にいたためか『こちら』の一般常識もまるで身に付いていないのだ。…彼女達を最初に見た時、『そんな予感』はしたが『ビンゴ』だったとはな。…本当、ホワイトメルがあって良かった。ありがとうございますー。

 心底祖父をはじめとする先人達に感謝し、俺は最後の…『最も厄介』な項目を見た。


『ー特記報告。

 1:データの破棄状況。

 キャプテン・バスレーの船の内部に保管されていたメモリーチップは、全て-洗浄-完了。メモリーチップに入っていないログデータ等もマシンごと-廃棄-済み』

 …はあ、それにしても本当『悪趣味』だよな。…まさか、『あんなホロムービー』を撮影していたなんて。

 …実は、キャプテン・バスレーの持っていたデータ類の中にとても口に出せない類いの個人撮影の『ホロムービー』があったのだ。…『被害者』達の尊厳を守る意味で内容は見ていないが、キャプテン・バスレーは『几帳面』らしくムービー全てに『あからさまなタイトル』を付けていたので、内容は嫌でも『察せて』しまったのだが……。

 なので、破棄した後きちんとホワイトメル軍の情報担当の部署を通して『被害者』達に『約束』をした。…はあ、引退しても尚『やってくれる』な……。…まあ、それは一旦おいておくとしてー。

『ー2:-ロストチップ-の取り扱い。

 引退した船乗り達の船の金庫に保管されていたロストチップは、現在軍港の保管室にて保管中。

 ーその取り扱いを-オンライン-にて協議したいと思いますので、ご都合の良い日を教えて頂けると助かります』

 …これは確かに、カノンが『あんな顔』をする訳だ。

 文面から非常に『困った様子』がひしひしと伝わって来るその項目に、俺も頭を抱えてしまった。


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