目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
報酬

ーSide『ランスター』



「ー………っ。…………っ」

 ふと、眠りからゆっくりと覚醒していったアイーシャは、ぼんやりと瞼を上げた。すると、ようやく見慣れ始めた天井が視界に入って来た。

(……えっと、……確か、……お姉様を救出して、3日経ったんでしたっけ…?)

 ぼんやりと今日の日時を思い出しながら、とりあえずベッドに取り付けられたエアウィンドウウォッチを起動した。

「ー……?…………あふ」

 すると、隣で寝ていたアインがウォッチの発する僅かな光に反応し目を覚ました。

「…あ、ごめんなさい。起こしちゃいましたね」

「…別に、良いよ。……どのみち、そろそろー」

 彼女は特に気にせず、ゆっくりと上半身を起こした。…と、ちょうどそのタイミングでベッドのモーニングコールシステムが起動した。

「ー…じゃあ、行って来るね」

「……ええ、行ってらっしゃい」

 妹の言葉に、姉は小さく手を振って見送ったー。


 ーその後、部屋に備え付けのシャワーで眠気を落としたアインは『プライベートエリア』内にあるトレーニングルームに向かっていた。…そして、ルームの前に着くのだが彼女は不意にぎょっとした。

(…嘘でしょ?だって、まだ3日しかー)

 彼女は恐る恐る、『使用中』を示すランプが点灯しているルームに入った。

「ー……ほっ、…ほっ、…ほっ、…ほっ、…ほっ」

 すると、当然というべきかルームの中心では『ゲスト用』のトレーニングウェアを着たクルーガーが、ゴムナイフを用いてゆっくりとジャグリングをしていた。

「……ほっ、…ほっ、…ほっ、…ほっ。……あら、アイン。おはようございます」

「…おはようございます、お姉様。

 …もう、大丈夫なんですか?」

 アインに気付いたクルーガーは、ジャグリングしたまま挨拶した。…そんな彼女に、アインは驚きながら聞く。

「ええ。充分に体力とメンタルもリカバー出来たので、今日からリハビリを始めても良いドクターに言われましたので」

「……たった、2日で……?」

「…ふふ。『この船』だからですよ。

『トリ』のリカバリーポッドに加え、『バス』と『フード』でのトリプルリカバリーを受けたのでこんなに早く動けるようになったんですよ」


「…そうなんですか……。……」

「…そういえば、2人共『臨時クルー』になったんでしたね。…なら、もっと素敵な『待遇』を受けられますよ」

「……。…これは、『反動』が大きくなりそうです……」

「……という事は、『正クルー』になる気はないのですか?」

「……私達はあくまで、『守って貰う立場』です。…それに、彼には私達よりも優秀な遊撃部隊の方々いますし。

 …まあ、船を降りた後も付き合いは続けいきたいですし……出来れば『友人』になれれば良いなとも思っています」

「……」

「…何よりー」

 彼女は、姉と共に語り合った『胸の内』をクルーガーに告げた。

「ー…はあ、本当に彼は『先代殿』に『そっくり』ですね……」

「…え?」

「…あら、知らないんですか?…そういえば、貴女は『プレシャス』はあまり読んでいませんでしたね」

「…もしかして、『そういうエピソード』もあるんですか?」

 アインの問いに、クルーガーは頷いた。

「ええ。…まあ、エンターテイメント性を出すために脚色されている部分もありますがね

 …そうだ、『臨時』とはいえクルーになったのだからこれを機に読んでみては?

 いろいろと、『役立つ』と思いますよ」

「…分かりました」

 クルーガーのアドバイスに、アインは素直に頷くのだったー。


 ◯


『ーこんにちは。…っと、-そちら-は朝だったな。

 …まずは、任務ご苦労』

「ありがとうございます、閣下」

 トレーニングと朝食を済ませた俺は、キャプテンルームにてラウジス閣下に事後報告をしていた。

『…レポートは読ませて貰ったよ。……しかし、本当なのか?

 あ、いや、君の報告を疑っている訳ではないのだがー』

「ー無理もありません。…正直今でも、3日前の事は『悪夢』であったと思いたいです。

 …ですが、当時現場で起きた事は紛れもない事実です」

『……そうか。…本当に、-生体兵器-が運用されていたのだな……。

 …それで、-その後-はどうなっているのだ?』

 閣下は深刻そうにそう言い、そして、現在の状況を聞いて来た。

「…現在、ウェルス星系軍と協力し『該当宙域』を監視していますが『再生現象』は確認していません」

 俺は新たなレポートを表示し、事件終了から今日までの状況を報告した。…実は、俺と協力者達は未だウェルスから離れていないのだった。


『…そうか。

 まあ、連合艦隊に搭載されている武装は様々な事態…イエロトルボの時のような事態でも対応出来るモノだったからな』

「凄く、タイミングが良かったですね。…ただ、未知の生体兵器なので念のため私達は今日の昼まで観測を手伝う予定です。

 そしてその後も、星系軍によって該当宙域を封鎖して貰う手筈になっています」

『分かった。-こちら-からも、各国に注意喚起をしておこう。

 ……そういえば、ランスター姉妹をクルーにしたようだな?』

 メインの報告が終わると、閣下は少し柔らかい表情で確認して来た。

「ええ。…まあ、『保護』の名目ですが。…そして『船が直るまで』の期間でしょうがね」

『…っ。…やはり、マダム・クルーガーの船からデータが?』

「…はい。

 奪還後精密検査をしたのですが、見事に『全部』が抜き取られていました」

『…生体兵器といい、そちら方面の技術も……。……まさかー』

 閣下の抱いた予想を、俺は頷きによって肯定する。

「ー…例の偽装船は、内部構造は勿論ジェネレーターの機構も完璧にコピーされていました。…となれば、『アブソード(吸収)』のシステムもコピーされているでしょうね。そして、恐らくは『転送』もしている事でしょう…」


『…なんと。…では、これから2人は……』

「まあ、『プレシャス』全体でカバーすれば問題無いでしょう。…2人も、『それ』は良く分かっている筈でしょうから」

『…私としては、君が傍で守ってくれる方が安心なのだがな』

「…っ。…確かに、それが一番安全ではありますが彼女達はそれを由とはしないでしょう。

 アイーシャさんは、この船の事は『よく知って』いますから『資格が無い』と言うでしょうし、アインさんは『戦える人』ですから『守らるだけの状況』は本人にとって良い環境とはいえないと思うんです」

『…そうか。…では、君はどうなんだ?』

「…そうですね。

 ーあの2人が『カノンに負けないくらいの輝くモノ』を持っているなら、是非ともクルーになって欲しいですね」

『…っ!…そうかー』

 俺の答えに、閣下は嬉しそうにした。…その後、少し今度の事を話し合ってから通信を終えた。


 ー…っと、そろそろだな。

 時間を確認すると、『予定時刻』が迫っていたので席を立ちキャプテンルームから目的の部屋に移動する。すると、既にクルーガー女史を始めとしたプレシャスのキャプテン陣が勢揃いしていた。

「…あ、すみません。私が最後のようですね」

「お気になさらず。…どのみち、『今』は動けませんからね」

 申し訳なく思っていると、女史は首を振った。…すると、他のキャプテン達は気落ちした。

「(…まあ、大事な船がボロボロにされたから当然か。)…心中お察しします。

 …では、ちょうど時間となりましたので『報酬説明』をさせて頂きますー」

 そう言って俺は、『臨時協力者』のメンバーに資料を交えながら報酬の説明をした。

「ー以上が、皆さんへの報酬となります。…何か、質問等はありますか?」

『……』

 一応聞いてみるが、誰も手を挙げなかった。…というより、『頭が追い付いて』ないといった感じだろうか。


「ー……本当に、『こんなに』貰っても良いのか?」

 すると、オルランドさんがポツリと呟いた。

「…契約書にもありましたが、『危険手当て』を含んでいるので妥当な額だと思いますが?」

「…それはそうだが……」

「…良いじゃないですか。貰えるモノは貰っておきましょう。

 …それに、これだけあれば『レストアも早くなる』でしょうし」

 恐縮するオルランドさんに、マクシミリアさんは『おかなしな事』を言った。

「……え?…もう皆さんの船は、ホワイトメルの軍港ドッグにてレストアが始まってますよ?」

『………はい?』

「…えっと、どういう事ですか?」

「……ひょっとして、『同盟』と何か関係があるのですか?」

 キャプテン達は困惑するが、ふと女史はそう言った。

「流石のご慧眼ですね。

 …順を追って説明しましょうー」

 俺は別の資料…『つい先日』正式に作成された『契約書』をエアウィンドウに表示した。

「ーまず、『秘宝ハンター同盟-プレシャス-』は銀河連盟の合同調査チームの『有志の実働チーム』になります。つまり、『連盟公認』の扱いとなる訳です」

『………』

「…そしてそれは、非常に残念な事ですが『先日の輩』のような連中に狙われるリスクが跳ね上がる事を意味しています。…故に、万が一襲撃され船やクルーに損害を受けた場合に備え連盟の調査船やスタッフと同じような『待遇』を受ける事が出来ます。

 ただし、今回は『契約前』ということもあり修理費は発生してしまいますが皆さんへの負担はかなり軽いのでご安心下さい」


『ーっ!?』

「……どうして連盟は、そこまで優遇してくれるのですか?」

 全員が動揺するなか、キャプテン達の気持ちを代弁するかのように女史が質問した。

「調査チームの要たる『専任調査班』の代表の方は『一緒に探してくれる人達だから』と言っていましたね」

「…っ!?ハイアームズ博士がですかっ!?…というか、面識があるのですか?」

「ええ」

『……』

 肯定すると、彼らはまたもや唖然とするのだったー。


コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?