ーSide『インスタント・ブラボーチーム』

『ーへブッ!?』

『へぎゃっ!?』

『敵クルー』達は正に絶体絶命な状況だったが、間一髪の所で『おぞましい魔の手』から解放され床に落とされていった。

　…しかし、それはオルランド達が何かしたからではない。ましてや、『魔の手』が自ら解放した訳でもない。

　ーその『原因』は、恐らく直前にブリッジに流れ始めたけたたましい『アラート』だろう。

『ー嘘っ!?』

　そんな中、第1分隊の工作班のメンバーである『スカーレット』…ミルスティンがコンソールの前で驚愕の声を出した。

『…どうしました、エージェント・スカーレット？』

　当然、別の場所で『いろいろ』やっていた他の班員が手を止めて確認する。

『…-船内温度-が、危険領域まで低下しています』

『……な』

『……ほ、本当だ』

　彼らは直ぐ様彼女の元に集まり、彼女の前にあるモニターを確認した。…そして、表示された『事実』に唖然とする。

『ー…まさか、何処かに-穴-でも空いたんですか？』

　念のため敵クルーを拘束したランペルージは、焦りながらスターリンに聞く。…しかし、彼は首を振った。

『…いや、そこまで深刻な状況ではないでしょう。…それに、もしそんな事になっていたら此処はもっと-慌ただしい-筈です』

『…なるほど』

『…そもそも、-彼-は勿論-敵-もそんな荒っぽい事はしないと思うがな』

　2人が話していると、横からオルランドがやって来た。

『…じゃあ、一体何が原因で……？』

『…分からんな。まあ、ただ1つはっきりしているのは今の状況はほぼ確実に-彼-が起こしたのだろう』

『…でしょうね。自分も、そう考えています』

　オルランドの予想に、スターリンも同意する。

『……マジですか？……はあ、本当何でもアリですね……っ!?』

『……っ！注意っ！』

『-動き出した-ぞっ！』

　その規格外さに唖然としていた彼は、突然ぎょっとした。それを見た2人は、彼の視線の先を確認しそして直ぐ様味方に警告を出した。

　ー…そう。アラートが鳴り響く直前にピタリと動作を停止したマジックアームが再び動き出したのだ。

『…くっ！』

『………？』

　味方は身構えるが、『それら』は一向に襲い掛かって来る気配はなかった。…例えるなら、『シバリング』をするかのごとく小刻みに振動し始めたのだ。

『…マジで、-生きてる-みたいですね……』

『…こんなおぞましいモノを生み出して、連中は一体何を……』

『…っ！…ひょっとしたら、原因は-これ-かもしれません』

　フォルムとセイランドがドン引いていると、ミルスティンは答えを導いた。

『……どういう事だ？』

『…つまり、別の場所で稼働している-これら-の一部が何らの要因で-凍結-したという事です。

　まあ、皆さんの予想通り多分エージェント・プラトーがやったんだと思いますが』

『…やっぱり、そうなりますか』

『…なるほど。…要は、-これら-のせいで-勘違い-が起きているって事ですね？』

『はい。そして、これは最大のチャンスです。

　ーブレイクトルパー、ゴーッ！』

　彼女はそう言うと、丸い『ホーム』を取り出しオーダーを出した。…すると、数体の『目の赤い-ネズミ-』がそこから出て来た。

『頼んだ。…とりあえず、我々は-これら-の監視に入ります』

『分かった』

『了解！』

　スターリンの言葉に、オルランド達は直ぐ様『震えるマジックアーム』に意識を向けたのだったー。

　◯

　ーSide『ライヤー③』

(ー…こんな、事が…あって良い…は、筈がない……)

　激しいアラートが鳴り響くなか、男は現在進行形で『凍え』ながら心中で呟いた。…そう、あの『マジックアーム』に起きている『異常』は『特別なルーム』に居る男にも影響を及ぼしていたのだ。…それが、意味するのはー。

(…この、『商品』…は、…『我らの星系』……が数10年掛けて……生み…出した最強にして最高傑作の……筈…なのに……っ！

　何故、あんな……『オモチャ』に……っ！)

　…しかし、極寒に震えながら男の心中は激しい『怒り』という名の炎で包まれていた。

(……認める………もの……かっ！)

　男は、凍えながら『手』を伸ばし『複数』のコンソールを操作した。すると、『レーザーガン』のような形の操縦桿が出現したので男はそれらを握り、トリガーを一気に引いた。

　ー直後、『船外』に変化が起きる。…なんと、偽装船に砲門が出現しそこから深紅のエネルギーフィールドを纏った『マジックアーム』が飛び出したのだ。

(……っ……。出来……れば……コレは使イ……タクなかッタが……しかた……ナイ。

『我ガシャ』ノ、ソシて、『総統カッか』、の邪魔モのは、排除ー)

　…すると、男の思考はだんだんと『常軌を逸逸脱』し始めやがて男は『何も考えなく』なっていった。

　ーそれに合わせるように、マジックアームのエネルギーフィールドは更に輝きその状態で偽装船に巻き付く『ドラゴン』に襲い掛かった。

　…そして、『ドラゴン』のシールドに『それら』が触れた瞬間。無敵と思われたシールドが所々『破られ』本体にマジックアームが触れた。

　……すると、『ドラゴン』の装甲がまるで強酸性の液体がかけられたように腐食してしまったのだ。

　そのまま、『ドラゴン』はみるみるとボロボロに……なるかと思われたがー。

『ー異常発生、異常発生。船内ニ展開中ノ-マジックアーム-ニ重大ナ異常ガ発生シマシタ。

　速ヤカニ、使用ヲ停止シテ下サイ。

　繰リ返シマスー』

　直後、またもやアラートが『そのルーム』に鳴り響く。…どうやら、『ドラゴン』を襲撃するマジックアームに何かしらの異常が発生したらしい。

『ー………』

　男は、先程までとは違い『何の感情』も見せずに淡々と状況を確認する。

『…………………………………………ー』

　…しかし、いくら確認しても『理解』が出来なかった。…いや、もしかすると『理解』する事を拒んだのかも知れない。

　ー何故なら、全てのマジックアームが突如『ドラゴン』への『侵入』を拒んだのだ。…にも関わらずマジックアームは徐々に『引っ張られて』いる。…それが、意味するのはー。

『ー新タナ異常発生。船外-マジックアーム-ニ過剰ナ負荷ガ掛カッテイマス。

　コノママデハ、マジックアームー』

　直後、その警告の通り『マジックアーム』が引きちぎれ始めた。

『………ー』

　すると、男は一旦マジックアームを『パージ』した。…当然、マジックアームは『そこ』に飲み込まれていった。

　直後、男は再度『新たにマジックアーム』を放つ。…恐らく、『中の破壊』は諦め外装甲の破壊にシフトチェンジしたのだろう。

『……………………ー』

　しかし次の瞬間、またもや『目を疑う』事が発生した。

　ー第1陣でボロボロにした筈の装甲が、いつの間にか『何事もなかったように』なっていたのだ。

『……………ー』

　当然、男は『混乱』する。…そして、更に追い討ちを掛ける事態が発生した。

　突如、『ドラゴン』の全身に『砲門』が出現しそこから『青白いエネルギーウィップ』が飛び出したのだ。

『……ー』

　それを見た瞬間、男は直ぐ様マジックアームを引っ込め……る直前で再びマジックアームは動きを止めてしまう。

『ー警告、-ブリッジ-ヨリ-アクセス-ガ確認サレマシタ。至急、ブリッジノコントロールヲ切断シテ下サイ』

　それと同じタイミングで、3度目の警告が聞こえた。…なんと、『誰も居なくなった筈』のブリッジから『砲門』を操作されているのだ。

『……ー』

　そして、その僅かな『遅れ』のせいでマジックアームは次々と凍結されていった。

『ー……ッ！』

　それを目の当たりにした男は、直ぐに『砲門』ごとパージしそして再び『怒り』を顕にする。

(………化モノ………メ。…ダガ、『良イモノ』が見れー)

　男は口の端を吊り上げ、『先程の光景』をメモリーにインストールしそれを『何処かに』送ろうとするが……直後、『不可侵』である筈の『ルーム』が揺れるのだったー。