ー地上では夕暮れを迎える頃。『アドベンチャーカノープス』のブリーフィングルームには、ピンと張り詰めた空気が流れていた。
「ー皆さんお疲れ様でした。…皆さんのおかげで、一切の『トラブル』もなく『手掛かり』を入手する事が出来ました。
本当にありがとうございました。…それでは、『こちら』をご覧下さい」
まず、遊撃隊と『プレシャス』のメンバーに礼を述べそれからモニターを起動させた。
「…っ!この座標は……」
「ええ。
ー『偽装船』は銀河連盟イーストサイドの、『ウェルス星系』に居ます。…つまり、皆さんが襲撃されたポイントからさほど離れてはいない訳です」
「…ウェルス星系と言うと、先月大規模海賊団に襲われた場所ですね……」
「…そこに、お姉様が……」
「…しかし、何故未だに銀河連盟の領域内に留まっているのですか?
『この船』のコピー船なら、直ぐに『逃げれる』のでは?」
女性メンバーがそれぞれ呟くなか、マクシミリアさんは、疑問を口にした。
「いえ、『コピー船』だからこそ直ぐに『逃げる』のは難しいです。
…なにせ、『瞬間移動』には凄まじいエネルギーを必要としますからね。確か、皆さんの話しでは偽装船は『連中』を追跡する際に使っていましたよね?」
「…っ!…あれは、マジでビビりましたよ……」
「…なるほど。だから、『ゆっくり』と逃げるより他ないと言う事ですか。…ちなみに、『再起動』までにどのくらい掛かるのですか?」
「…そうですね。
ー『トラ』とリンクしていると想定して、大体3日ですかね」
「…そうですか。つまり、『明日』がリミットという訳ですね?」
『……』
「そうなりますね。
…では、肝心の『作戦』を説明しましょう」
すると、画面は切り替わりウェルス星系周辺の縮小図が表示された。
「まず、今より2時間後にこの『アドベンチャーカノープス』は此処ホワイトメルを出発しウェルス星系の『お隣』に向かいます。
そこで集合可能な防衛軍とエージェント達と合流の後ウェルス星系外周域に向かい、エージェント達と艦隊に奇襲を掛けて貰います。…まあ、奇襲というより離脱防止と言った方が正しいですがね。
…そして、『彼ら』に注目が向いている隙に『一気に接近』して敵船に取り付き中を制圧します」
『……』
「…シンプルで分かり易いプランだな」
「…問題は、マダムが船内の何処に居るかだな……」
『……』
「それなんですが、マダム・クルーガーの探査は『ウチのクルー達』に任せてくれませんか?」
『……っ!』
その提案に、メンバー…特に女性メンバーは驚愕の表情でこちらを見る。
「…大丈夫なんですか?」
「…荷が重いと思うな~?」
そして、『彼女達』と行動を共にしていたサクルさんとノアさんは真っ先に難色を示した。
「…まあ、確かに皆さんの懸念は分かります。…流石に、『2人』だけではかなり厳しいでしょう」
「…なら、どうして……。…ちょっと待って下さい?
ーひょっとして『もう1人』居るのですか?」
「ええ。…ただ、申し訳ありませんが今この場でご紹介するのは控えさせて頂きます。
…なにせ『彼女』は、銀河連盟の『最高機密事項』ですので」
『………』
「…個人に、『それ』が適用されていたなんて……」
「まあ、当然『それ』に見合うだけの『スキル』はありますので心配は要りませんよ?」
「…分かりました」
「…それでは、クルーガー女史の救出はエージェント・プラトーのクルーに任せたいと思いますが皆さんいかがですか?
…賛成の方は挙手を願います」
マクシミリアさんが納得すると、レンハイム少佐が全員に確認を取った。
ーその問いに、全員ゆっくりと挙手をした。
「ありがとうございます。
…それでは、細かい所を詰めていきましょうー」
それから、隊長達とキャプテン達とで分担などを決めていったー。
◯
ーSide『ルーザー②』
「ー……はぁ?…すまんが、『良く聞こえなかった』んだが?」
『アウトロー』のリーダー格であるその男…実はゴールドランクの傭兵でもあるそいつは、通話相手に圧を掛けた。
『…ですから、貴方自身と現在行動を共にしている4人の傭兵達に-降格処分-が下されました』
しかし、相手は一切怯まずに淡々ともう一度説明した。
「…おい、ふざけてんじゃねぇぞ。こっちは『被害者』だってのになんで『そんな事』になんだよ?」
『…良くもまあ、そんな戯言を言えますね?』
男はドスを効かせた声で言うが、相手…傭兵ギルドの人間も苛立ちながら返した。
『…-被害者-?…それはこちらのセリフですよ。
ー我々が-何も知らない-と思っているのですか?』
「…は?………っ」
男は訳が分からかったが、直ぐに『真意』を察した。
『ー…まさか、ギルドに所属する傭兵…それもゴールドとシルバーが-反社会勢力-と癒着していたとは思いもしませんでしたよ』
「……っ……」
『…貴方達の行為は、-我々-のみならず他の方々に多大な迷惑を掛ける最低最悪の行為です。本来ならば、今すぐ-然るべき処-にぶちこんでやりたいですがー』
「ーっ!?」
『…-上からの通達-で、降格処分に留める事になりました。…本当に、悪運だけは良いですね』
「……っ」
『…それでは、これにて失礼しますー』
「ークソがっ!」
そこで通信は切れ、直後に男は端末をベッドに投げ付けた。
(…なんだって、こんな目に合わなきゃいけねぇんだっ!これも全部あの『行き遅れ』のせいだっ!
ー…決めた。『アレ』のクルー全員、『壊して』やる)
そして、男は最低の『八つ当たり』を思い付き部屋を出ようとする。
(ー…あん?)
すると、丁度その時インターフォンが鳴った。
(…どうやら、考えるコトは同じだな)
『都合良く』そう考えた男は、ニヤリとしながらドアを開けた。
「ーあ、どうもッス。アンタが、『アウトロー』のオヤブンさんッスよね?」
「…え?」
しかし、男の予想は見事に外れた。何故なら、そこにいたのは金茶髪の傭兵アレイスターだったからだ。
「…っ!」
「ー…っと、遅いな」
男は即座にドアを閉めようとするが、別の声が聞こえたかと思ったら『片手』で簡単に全開にされてしまった。
「…おいおい、何をそんなに怯えている?私達には『お前達』に危害を加える気はないんだがな」
その『片手』の主…プラチナランクのオルランドはやけに機嫌の良い表情で男に言った。
「…な、何の用だ?」
それが、かえって男の恐怖を煽り嫌な汗を流させた。…すると、オルランドは反対の手に持っていた端末を男に見せた。
「ー……っ!?」
「単刀直入に言う。…今直ぐ『この船』の元に行き『此処』に向かえ」
「…あ、ちなみにアンタで最後ッスよ?アンタのお仲間はもう向かっているッス」
「……な、なんで俺ー」
「ーそれで『チャラ』にしてやる。…貴様らの『押し付け』をな」
「…っ!」
「…ちなみに、『拒否』した場合は『飲食代』と『宿泊費』は自腹になるッスよ?」
「…なっ!?…まさか、お前らプラトーの……」
「ああ」
「…なんだ、今気付いたんスか?」
男の問いに、オルランドは淡々と肯定しアレイスターは呆れたように言った。
「…で、どっちを選ぶ?」
「…時間無いんで、さっさと決めてくれないッスか?」
そして、直後に2人は真顔で男に聞いた。…当然、男は簡単に圧に屈し頷くのだったー。