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白昼の嵐

ーSide『トライアングル②』



ー明くる日の昼間。ファストピタル郊外にある婦人専門の病院の一室は、凄まじい緊張感に包まれていた。

「…なんで、私がこんな目に……」

 その病室の利用者である女性…『アウトロー』の紅一点でもある『キツい香水の匂いを漂わせる』女トレジャーハンターは、包帯に包まれた身体を恐怖で震わせていた。

(ー…自業自得でしょうに……)

(…同感)

 だが、部屋の外に居るランスター姉妹リアルモード+変装は一切同情していなかった。

「ー2人共、お疲れ様です」

「お疲れ~」

 そんな2人の元に、パールホワイトのセミロングの髪のキリッとした女性とレモンイエローの髪をツインテールにした明るい女性がやって来た。

「お疲れ様です。マヤさん、リーリンさん。こちらは、今の所問題はありません」

「そうですか。…まあ、この時間帯に『起きる』とは思えませんがー」

 アイーシャの報告に、パールホワイトの髪の女性…トレジャーハンターのマヤ=サクルは病室のドアをじっと見つめながら言う。

「ーお姉様が認めた数少ない男の人である『彼』が、『油断しないで』って言ってたしね~」

 すると隣に立つリーリン=ノアは、口調とは真逆の真剣な表情で言った。


「…ええ。…では、引き続きお願いー」

 ーそんな時だった。ふと、外からレスキューカーのサイレンが聞こえて来たのは。

「ーホント、24時間大変ですね…」

「昨日も、深夜帯に3回も来てたね~…」

『ーBOW!』

 直後、その場に『電子の犬』の鳴き声が響いた。

『……』

 その瞬間、彼女達は『ゴーグル』を目元に出現させ臨戦態勢を整えた。…すると、『透明』になっているあからさまな『不審者』が彼女達の居る場所に素早く近付いて来ていた。

(…見つかったというのに、構わず来ますね)

 恐らく、『容易く突破出来る』という自信があるのだろう。不審者はスピードを緩めずどんどん近付いて来た。

 ー次の瞬間。4人の頭上から複数のビームが降注いだ。しかし、ビームは全て彼女達に直撃する直前で『白銀のスワン』達の展開するバリアに『吸収』された。

(…あ、止まった)

 その光景を見た不審者は、足を止めて唖然とする。


「ーっと」

「…ふう、『プロ』相手だと上手く行かないね~」

 直後、サクルとノアが不審者に奇襲を仕掛けるがいつの間にかそいつは再度ドアに向かって駆け出して来ていた。

 そして、数秒後には目にも留まらぬ速さで何かを投てきした。

「「ーっ!」」

『それ』は、2人の目と鼻の先まで来た瞬間灰色のガスを噴出しそのまま2人を包み込んだ。

「ーっ!?」

 そのまま不審者は、ガスの中に突っ込むが……再び驚く事になる。何故なら、『筋弛緩ガス』の中から蹴りが飛んで来たのだから。

『ーやれやれ、ホントに予想通りですね』

『…ホント、凄いな』

 そう言いながら、『ヘルメット』を装置した2人がガスの中から現れた。

『……っ!』

 そして、追い討ちを掛けるようにいつの間にか現れた『トリ』にガスは吸い込まれてしまった。


『…さて、どうします?』

「まあ、どのみちー」

『ーっ!?だ、誰か…っ!?』

 サクルが何かを言い掛けたその時。ドアの向こうから助けを呼ぶ声が聞こえた。

「ーしま……っ!?」

 サクルは慌ててドアを開けようとするが、どういう訳かドアは開かなかった。

「…く、まさか……」

 ノアは焦りながら、速やかに『カードキー』を出しドアにー。

『ーがはっ!?』

 そうこうしている内に、ドアの向こうから『ドン』という音と『嫌な音』が聞こえた。

「…このままじゃー」

「…っ!『ヤツ』が居ませんっ!?」

「…まさか、2段構えだったなんて……」

『がはっ!?……げはっ!?』

 青ざめるだけで何も出来ない彼女達の耳に、暴力の音が何度も聞こえた。


 ーそして、しばらくして悲鳴さえも聞こえなくなり今まで開かなかったドアが突如開く。…しかし、部屋の中は『惨劇』が起きたとは思えないほど『綺麗』だった。

『ー………』

 そればかりか、『彼女』は何事もなかったようにどんよりとした様子だったのだ。…勿論ー。

「ー……っ……っ」

 床でピクピクしている『襲撃者』にも、その背中に乗る白銀のボディの犬型ロボット…『EJ-11:フレンドノーズ』にも『全く気付いて』いなかった。

『ーぐはっ!?』

 直後、何処から男の声が聞こえて来たと思ったら『彼女をすり抜けて』部屋の奥の壁にぶつかった。

「ー…なーんてね」

「見事に引っ掛かりましたね」

 サクルとノアは、先程までの焦りが嘘のように清々しい表情をしていた。

「…流石、《プロ》ですね」

 ーそう。サクルとノアは、《秘宝》を追い求める傍ら《ムービーアクター》をしているのだ。


「ー…いやはや、迫真の演技でしたよ」

「…はあ、ホントいろいろなスキルを持った方々が《秘宝》を探しているんですね」

 すると、部屋の中に居る『制圧担当』の2人…第1分隊のミント=オークレーとフィオナ=ルーシュはアイーシャと同様に驚きの感想を口にした。

「…そういう貴女達も、なかなかの《スキル》だと思う。

 …まさか、《プロの暗殺者》を『余裕』で無力化出来るとは思わなかった」

「…まあ、ほとんどこのコのおかげですけどね」

「…それに、『騙し討ち』のようなプランあってこそです」

 アインのツッコミに、2人は暗殺者を謙遜しながら拘束した。…つまりは、『このフロア』自体が『フェイク』だと言う事だ。


「ー皆さん、お疲れ様でした」

「あ、少尉」

 すると、先程暗殺者を投げ飛ばして来た張本人…ウェンディが入って来た。

「…『向こう』は、大丈夫そうですか?」

「ええ。…と『噂』をすればー」

『ーこちら、-ブレイド3-。-スペシャルルーム-応答せよ』

「はい、こちら『スペシャルルーム』」

 ちょうど良いタイミングで来た通信に、彼女は真っ先に出た。

ー実はこの空間は、ホワイトメル地上部隊基地のトレーニングの1つを借りて作った『フェイクルーム』なのだ。それを、『リアル』のホスピタルにも『いろいろ細工』をした上で『ジョイント』させているのだ。

『ー…どうやら、問題なく無力化出来たようだな?』

「ええ。…そちらも、『スナイパー』の無力化お疲れ様でした」

『なに、君達同様-彼-が貸してくれたサポーターの助力が大きいからな。

 …では、護送を開始してくれ』

「了解しました」

「…しかし、ホントラクに終わりましたね」

 通信が終わると、サクルはポツリと呟く。


「…はあ、お姉様が信頼するだけはあるって事ですね~。ホント、彼がここに来てくれて良かった~」

「「……」」

 その言葉に、ランスター姉妹は顔がヘルメットに覆われているからか凄く誇らしい顔をした。

「…さあ、皆さん。フリートークはその辺にして素早く護送をして他のチームの応援に行きましょう」

『了解』

 ウェンディの指示に、メンバーは気持ちを切り替え2人の暗殺者の護送を始めたー。


 ◯


 ーSide『ラストワン』



 ー時間は流れ昼下がり。

「…はあ、はあ、はあ、はあ、はあー」

『…っ!……っ!』

 郊外にある格安ホテル街の一角では、穏やかな午後に似つかわしくない怒号が響き渡っていた。

(ー…な、なんでこんなに警備隊が集中してんのよっ!?)

 その路地裏に身を『潜める』、ラフな格好の女は激しく動揺していた。

(…『あの男』、一体何者なの……)

 女は、ついさっき『星』にしようとした『アウトロー』の1人を思い出し冷や汗を流した。

『ーっ!……っ!……っ!』

(…っ!くそ…)

 すると、怒号が近付いて来たので女は心中で悪態を付き、その場から離れた。

(…とりあえず、『アジト』に戻るー)

『ーBOW!』

 そう考えた矢先だった。背後から、『電子の犬』の声が聞こえた。

「……え?」


「ーあ、見つけたか」

 振り返った直後、周囲の怒号とはまるで正反対の淡々とした男の声が聞こえた。

『BOW!』

(…っ!)

 それとほぼ同じタイミングで、反対側からまた鳴き声が聞こえた。

「…お、居たのか?って、ジャンさんじゃないですか」

 そして、当然のようにその後ろから長身の男…トレジャーハンターのレックス=ランペルージが現れた。

「…ったく、『こんな時』まで被るのか。…嬉しくないな」

 すると、最初の厳つい声の男…同じくトレジャーハンターのジャン=アームストロングはため息を吐いた。

(…こ、コイツらは『例の同盟』の……。…なんで……)

「…そりゃこっちのセリフですよ。何が悲しくて、厳つい顔と声の同性ベテランとしょっちゅう『偶然』を経験しなければいけないんですか…。

 ーまあ、『今回』はラッキーですけどね」

 ランペルージはげんなりした表情をしたと思ったら、真面目な表情になり女を『見つめた』。


「…まあ、確かにな。

ーそこの『暗殺者』、大人しくするんだな。…でないと、痛い目を見るぞ」

(…っ!…完全に、『バレてる』……。…だがー)

 圧を放つアームストロングの勧告に、女暗殺者はハンドバックから『グレネード』を取り出し地面に叩き付けた。

「「ーっ」」

 直後、激しい勢いで黒いガスが周囲に充満した。

(…良し。今の内にー)

『ー警告はした』

『…あ、1つ言い忘れていたけど俺-悪い女性-には容赦はしないんだよね』

(…そ、そんな……。…なんで『対策』がされてるのよ……)

 唖然とする女暗殺者を、2人はその手に装着したショックグローブでサンドした。

「ーアギャッ!?」

 当然、女暗殺者は秒で気絶しその場に倒れ込んだ。

『ーふう。…これで、-最後-でしたよね?』

『ああ。…では、連絡するとしよう』

 アームストロングは、直ぐに通信を始めるのだったー。


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